思惑はあれども
アダムは呆れながらも同時に頭の中で考えを巡らせていた。
(言った事はどれも全て本当の事なんだろう、それがコイツの恐ろしい所だ)
真面目なようでふざけている。ふざけているようで真面目である。そしてその中で嘘がほとんど介在しない。
有言実行の極みのような奴なのだ。
何せエトナーはこの世の終わりまで生き続ける宿命、いくらでも時間はある。
(その中に『ルルイエ泣かしたい』があるのがなぁ……)
嘘を言わないということはつまり、彼女の計画にルルイエを悔し泣きさせるのが目的に入っているのだ。
どちらかと言えば鎮火させる側のエトナーが荒らしに掛かると盤面はとにかくカオスになっていくのでアダムはとにかく面倒くさくなっていた。
「ワシにお前らのコントロールは無理だって……」
「諦めるな、自分の感覚を信じろ」
「そこに経験則を足して無理と出たらどうしろと言うんだ」
項垂れるアダムにトリニティがやって来ると
「あの、自分は規則に従いますから……」
申し訳なさそうにそう言うので。
「なんだお前天使か」
「悪魔ですけど」
アダムはトリニティがひどく好印象に見えた。
エトナーやルルイエのような問題ばかり起こす数千歳児の相手はアダムにとって頭痛の種である。
ティナのような学業における劣等生の面倒をみるのは仕事のうちだからいいが、あの二人ともなると面倒の規模が違ってくるのだ。
「お前は思い付きで資産家を破滅させたり、国家を揺るがしたりしないでくれよ」
「えっ」
アダムが遠い目をしている。悪魔は心の隙間に付け込んで契約を持ちかけることで有名だ。
しかし目の前の男の姿を見てトリニティは何とも言えない気持ちになった。
「しかしこれでフラウステッドの同行者は決まったようなものか」
「ああ、心配しなくていいぜ。私にどんと任せときなって」
「一番の不安材料が何か言ってるな」
「失礼な奴だな!」
とにもかくにも候補が二人、ルナの知らないところで立候補した。
悪魔のトリニティと教会の最終兵器こと聖人エトナ―。
そしてそれをおそらく監視することになる教師アダム。
「よし、さっそくルナちゃんに言いに行くか」
「今からか?」
「ああ、時間かかると私はともかくコイツが困るだろ」
エトナ―は思い立ったが吉日と、トリニティを連れてルナの家に向かう。
アダムも嫌々ではあったが何があるかわからないのでその後ろをついていった。
「おいーっす!ルナちゃんいるかい?」
玄関を叩くと同時に開け放ったエトナ―。その強引さにトリニティとアダムは揃って呆れている。
人間と悪魔を同時に呆れさせる女、エトナ―。
「びっくりした!」
「おー、ルナちゃん会いたかったぜ」
来客の応対をしようとやってきていたルナが驚いた表情で固まっている。
そんなルナにだきついてエトナ―は頭を撫でている。
「エトナーさん、どうかしました?」
「ちょいと顔が見たくなったんだよ」
用事もあるけどな、とエトナ―はからからと笑う。
「用事です?」
「ああ、そこの新顔とルナちゃんのサロンの話さ」
何故知っているのか、とルナは不思議に思ったが見覚えのない人物の隣にアダムが立っているのを見てルナはアダムが自分が困っているからエトナ―に相談してくれたのだろうと思った。
「サロンの話というと……」
「私とコイツが同行者になろうと思ってさ」
エトナ―がアダムの隣に立っている見知らぬ人物を指さした。
ルナはその人物が時折自分がそうであるように不定形の雰囲気を示しているのに気付いた。
「もしかして悪魔さんです?」
「お気づきになられましたか、私はトリニティ。バエル様の命によりサロンの同行者として馳せ参じました」
にこりと笑うとその姿が男性から女性に、そしてまるで入れ替わるように姿が変わる。
「悪魔がそれらしいことするんじゃねえ、目立つだろ!」
「いたっ!」
エトナ―が頭を引っ叩くとトリニティの姿が女性でとまった。髪を後ろで束ねたどこか気の弱そうな女性だ。
スーツがそれに合わせてサイズが調整されるのか体格が変わっても着崩れていない。
「うぅ、アインスがでてこなくなった……」
「大丈夫ですか?」
「聖術でもなんでもない、大丈夫だろ。……多分」
頭を押さえて唸っているトリニティをルナは心配そうに見ている。それにアダムが代わりに応える。
ルナはそれでもまだ少し心配そうにトリニティを気にかけていたがサロンの同行者に名乗り出てくれたことに一安心だ。
「よかった、ルルイエ先生に頼もうかと思ってたんです」
「あー、アイツな。まあ悪い事は言わないから辞めとけ」
「?……何でですか?」
エトナ―がぶっきらぼうに言ったのを不思議そうにしているルナ。
そして珍しくエトナ―が言葉に迷っているのをアダムは溜息をつきながら見ていた。
(まさかルルイエをのけ者にして自分とだけで行きたいなんて口が裂けても言えんわな……)
エトナ―はえーと、あれだ。と言葉を探し……
「忙しいからだ」
とでまかせを言った。トリニティにすら苦しすぎるのではと心配される理由だったが。
「あ、やっぱりそうなんですね!よかった、お仕事の邪魔になったら大変なところでした」
ルナは全く疑わなかった。エトナ―はぎこちない笑顔で頷き、アダムとトリニティはルナがとっても心配になった。




