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こんな時は……

その日の放課後、アダムはどうしても嫌な予感が拭えず藪蛇になる覚悟でエトナーの元を訪ねた。


「おーい、エトナー!」


エトナーの塒である廃教会にやって来ると普段なら乱雑に散らかっている教会が整頓されており、掃除をした形跡があった。

身の回りに関しては自堕落なエトナーがこんな事をしているなんて怪しさしかない。


「いないのかー!」


大声を出して再度呼びかけると奥の方から僧形に身を固めたエトナ―がしずしずと歩いてきた。


「迷える子羊よ、ここは教会です。静粛に……」

「オエー!」

「失礼な奴だな!」


普段のくたびれた修道服と違い、魔除けのタリスマンや真新しい法衣に身を包んでいるとまさしく聖職者なのだが普段の彼女を知っているだけにアダムは拒絶反応が出た。


「やめろ!お前が真っ当な恰好してると吐き気がする!」

「ばっ!お前な!私だって行事とか法要とかじゃ真面目な恰好してんだぞ!」

「ええい、くそっ……聞きたい事がある!」


ヤケクソ気味に尋ねるアダム。


「お前、なんでそんな恰好してるんだ!誰か死んだのか!」

「ちげーよ!あの子がサロンに行くって聞いたからついてくんだよ!」

「なっ!お前どっからそれを!」


アダムが驚いた様子で尋ねるとエトナ―は教会の隅で小さくなっているトリニティを指さした。


「あれから聞いた」

「誰だアイツ」

「悪魔だよ」


それを聞いてアダムは学校でルナがしゃべっていた事を思い出し、嫌な予感が的中したことを悟った。

問うまでもない、十中八九バエルの手の者だろうとアダムは察しがついた。


「うぐぉぉぉ……まじかぁぁ」

「へっへっへ、サロンなんて面白そうじゃん」

「学生のサロンだぞ、お前が行ってどうなるんだ?魔法使いの派閥は聖職者にとってアウェーだろ?」


ケタケタと笑っているエトナ―にアダムは頭を抱えながら尋ねるがエトナ―はそんなことは先刻承知しているとばかりだ。

魔法使いと聖職者は互いに敵対していることが多いが……。


「元々魔法使いと聖職者は敵対してたワケじゃねえ。ただちょいとばかし聖職者連中の頭が固くて、魔法使いの連中が緩すぎるだけなんだよ」


聖職者の中には魔法とその探求者そのものを神の摂理に反する異端者とする者ものいる。

魔法使いの中には探求の為に倫理を放り出す奴がいる。

聖職者が魔法使いの危険を声高に叫ぶ一方で色々とアウトな事件を起こす魔法使いがいる。

この両者が常に火と油を撒き散らしているので穏健派や何も知らない大衆は大体割を食っているのだ。

魔法は技術であり、工業であり、薬学や医療にも役に立つ上に知識があればだれでも使える。

聖職者の聖術は強力ながら誰にでも扱えるわけではないので常に使い手が不足する傾向にある。

誰にでも使える魔法工学と魔法薬はまだ発展途上で効果が低い魔法。

その一方で高い能力を発揮するものの使い手が少なく、個人差が大きい聖術。

お互いがお互いの欠点を補えば発展は加速するはずなのだが……。


「聖職者は内輪に籠って外の知識に触れようともしねえ、魔法使いは日光教の教えに耳を貸そうとしねえ……どっちも頭が痛い問題だ」

「お互いがライバルでもあるからな」


お互いが医療の分野に手を出したとすると魔法使いは聖術を越えたいし、聖職者は魔法使いに成功してほしくない。

そうなると残るのは利害による対立のみ。

本当に医術や薬が欲しい人々はその争いの中で置いてけぼりになるわけだ。


「魔法使いの中にまともな奴がいることと、聖職者の教えを広めて真っ当な魔法使いが育つようにお互いの世界を知るきっかけを作るべきじゃないか?」

「それはそうかもしれないが……」

「ルナちゃんはその中でもうってつけなのさ、聖職者と魔法使いの子供で、悪魔で、聖職者の卵でもある。彼女はいろんな世界の架け橋になれる。サロンデビューはその第一歩だ」


エトナ―はルナに期待をかけていた。

聖職者としてだけではない。魔法使いとして、聖職者として、人として、悪魔として、それらの点と点を繋ぐ架け橋になれるのではと。


「あの子にそんな重荷を背負わせるのか……?」

「まだ決まったわけじゃねえよ、今回はその試金石ってやつさ」

「未来への布石って奴か」

「そうなるかね」


私ばっかりが出張って解決するのは健全じゃねえからな。とエトナ―は法衣を脱いで長椅子に引っ掛けるとその隣に腰を下ろした。


「あと、正直前回あのバカにルナちゃん連れて逃げられたのすっげー根に持ってる」

「なんの話だ……?」


アダムがキョトンとする中、エトナ―は若干涙目でつづけた。


「島に置いてけぼりでよぉ……船まで壊されてよ……」


そう言うとエトナ―はスキットルを取り出して中身を呷った。


「だからあの子と一緒に社交界デビューしてあのバカ泣かしてえ」

「もしかしてそれが主目的か?」


あのバカとはおそらくルルイエの事だろう。彼女が絡むとエトナ―は大抵後始末に走り回ることになる。

その腹いせもあるのだろう。


「悪いか?」

「悪いとおもうぞ」


開き直ったエトナ―にアダムは即答した。

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