着々と集まる
トリニティは老人が作ってくれたスーツに袖を通すとその出来栄えに二コリと笑みを浮かべた。
「素晴らしい、これなら何処に行っても恥ずかしくないよ」
「それはよろしいことです。それでは人間界を節度を守ってお楽しみくださいね」
帽子を被って老人の言葉に頷くとトリニティは街へと繰り出した。
気分はまるで降ってわいた休日にお出かけをしているよう。
街は明るく、人通りでにぎわっていてトリニティはその光景に心が浮き立つのを感じていた。
「ふふふ、これからどうしようかな……ん?」
ふとスーツのポケットに何か入っている事に気付き中身を取り出すと一枚の紙が入っていた。
二つ折りにされた紙の内容を見るとそこには自分が此処に来たらするべきことが記されていた。
「なになに……『まず教会に届け出て滞在の許可をもらうこと、その次に今回の観察対象であるアービルことルナ・フラウステッドの所在を把握すること。おやつは銀貨三枚まで』……ええっ、三枚までなの?」
バエルの元で働く悪魔達は高給取りも多い、中級悪魔のトリニティはその中でも高給取りなのだ。
なので貯金の一部を握りしめてやってきた彼らは思った以上に自由に使えるお金が少ない事にがっかりした。
「一応仕事名義だからかなぁ……」
がっかりしながら歩くトリニティは知らない事だったが街は教会の力が強い場所である。
暴食すると知らない内に祝福された食べ物を口にすることがある。それを防止するためのものでもあったのだ。
寄り道の目的を潰すことで真面目に仕事させる意図もあったが。
「教会に届け出か、どこに行けばいいんだろう」
トリニティは街をてくてくと歩きつつ周囲を見渡し、教会を探す。
すると道行く先にくたびれた修道服を着たシスターが歩いているのが見える。
教会の事情なんか知らないトリニティは行先くらいは教えてもらえるだろうと思いつつ前を歩くシスターを追いかけた。
「あの!そこ行くシスターさん!」
そうして呼びかけたところで……
「あん?誰だお前」
「うぎゃー!」
振り返ったシスターがよりにもよってエトナ―であることに気付いて悲鳴を上げた。
逃げようとしたトリニティの奥襟を掴んでエトナーは引き留める。
「おいおい、悲鳴なんか上げやがって失礼な奴だな」
「やめて!乱暴しないで!」
「マジで失礼な奴だな」
ちょっとムッとしたエトナ―はトリニティを素早く引き倒して踏んづけた。
「ぐえっ!」
「私を見て悲鳴上げるヤツなんざ訳アリの連中しか居ねえとおもったが……」
「し、仕事で来たんです!お願いします!殺さないでーっ!」
「うるせぇ!黙らねえとマジでぶん殴るぞ!」
ばたばたと抵抗するトリニティの頭に拳骨を落としながらエトナ―は失礼極まりないトリニティを即座に悪魔と看破した。
「仕事ってなんだ?許可がいるなら出してやっても良いが全部ちゃんと喋れよ!」
「はいーっ!」
教会に連行されたトリニティはなにかにつけて頭を引っ叩かれながら目的を尋ねられた。
「まずな!お前に言っとくことがあるんだよ」
「な、なんでしょう……」
「テメエのせいで私の社会的地位に傷がついたってんだよ!」
「いったーっ!」
エトナ―は元々素行が良くないので今更ではあったが白昼堂々トリニティが物騒な事を叫び続けたので通りを歩く人たちの視線はそれはそれは酷いものなっていた。
エトナ―が怒るのも無理はない。
「つまんねぇことでやってきたんなら容赦しねえぞ!」
「うぅぅ……」
トリニティはべそをかきながらエトナ―に自分が何故地上にやってきたのかを白状した。
バエルの依頼でサロンに参加するルナをこっそり助けるべくやってきたと言ったのである。
「サロンに?」
「そうなんです、学校の先輩に呼ばれたとかなんとか……」
エトナ―はふむ、とそれを聞いて考えた。
ルナは魔法使いでありながら聖職者としての適性も高く自分の弟子として聖術を学ばせている立場である。
エトナ―は日光教が裏表問わず世界で調停役を務めるためには魔法界にも顔の利く人物が増える事が何より大切なことだと考えていた。
ルナを教会にも顔が利く魔法使いと宣伝しておけばルナを通して魔法界の困りごとを事前に把握できるのではとも。
「へえ、面白そうなことやってんじゃん」
「えっ?」
「私も混ぜろよ。保護者なんだから当然だろ?」
トリニティはすこぶる嫌な予感がした。
「くしゅん!」
「どったの?」
「ううん、なんだか寒気が」
学校にてルナは身震いをしながら休憩時間に席でティナたちと駄弁っていた。
変わらず同行者は見つけられていないが持ち前の楽天的な考えのせいで深く考えていなかったのである。
「サロンの手紙に書く出来事にはなったけど……」
「困ったねぇ」
「ところで手紙って誰に書いてるの?」
「バエル様への手紙だよ」
それをテキストを片付けながら聞いていたアダムは非常に嫌な予感がしていたが、同時にいくらなんでも、という常識的な考えも過っていた。
「まさかな……」
いくらなんでも、いやまさか……。
なんて言葉を頭の中で繰り返していた。




