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候補はいるんだよ?ただ……

じーっとそれを見つめている視線にいち早く気付いたのはアダムだった。


「サピスキア、何か言いたい事でもあるのか?」

「別に、ない、人間は、不思議だと、思った」


サピスキアはエルフの記憶や思考が定期的に頭に入ってくるので集会を開く必要がなく、なんなら同胞と会う必要すらない。


「不思議?」

「ああ、わざわざ、会うのに、どうして、争うのか」

「争ってるわけじゃないんだが……」

「仲良くする、なら、恥をかかせる、必要は、ないはず」


会話にアダムが乗ってきたのを良い事にサピスキアはずんずんと教室に入ってくる。

そして華麗にマリーのボディタッチを躱しながらルナ達の輪の中に入ってくる。


「サピ、サピピ!」

「マリーちゃんが壊れた!」

「あー……」


マリーがしつこくサピスキアに抱き着くとサピスキアの表情がみるみる曇っていく。


「ほとんど無表情なのに凄く嫌そう……」

「雰囲気だけで感情って表現できるんだな」


顔の表情は変わらないのに嫌がっているのが容易く理解できる。


「もふもふ!」

「うう」

「サピやんが萎れていく!」

「まるで生気を吸い取られてるみたいだ!」


ティナとクロエがマリーを引き剥がそうとしているがマリーは頑強に抵抗している。


「ふむー!」

「あーもう!」

「授業の時間だ!お前ら着席しろ!」

「あばどっ!?」


アダムはそんなやりとりをじっと見ていたがマリーの頭に出席簿を落とすと即座に引き剥がして席につかせた。


「サピやん大丈夫?」

「ちょっと、つらい……」

「花が萎れたみたいになってる……」


ぐんにゃりとしているサピスキアをルナは見て


「サピやん「連れて行くなよ?絶対だぞ?」……はぁい」


アダムに速攻で釘を刺されて空気が抜けたような顔になった。

サピスキアを連れて行ったら恐らく大騒ぎになるだろう。始祖のエルフなどほとんどの魔法使いにはおとぎ話でしか聞いたことが無く、大半のエルフですら森に帰る用事が無ければ存在を知ることすらないまま生を終える者もいるほどだ。


「このままじゃ一人だよぉ……」

「私らじゃ意味ないもんねぇ」

「こうなったら先生かエトナ―さんに頼むしか……」


ルナは鞄からルルイエのハンドベルを取り出した。

彼女を同行者に選べば間違いなく恥をかくことはないだろう。

しかしそれでいいのか?という疑問も残る。

ルルイエは多忙を極める身だ。呼べばいつでもやって来てくれるがウェパルの件でも自分を心配してやってきてくれたりしている。


「ルルイエ先生はダメかなぁ……何回も呼んだら流石に忙しいだろうし」

「このシーズンだとヤツは他の国の社交界に出てたりするしな」


アダムの一言でさらにルナは遠慮するようになった。

魔神ルルイエ、魔法使いの世界で彼女を知らぬ者はおらず。

エトナ―と対を成す存在として各国の権力者を助けているともされる。

ルルイエは神出鬼没を極め、どこにでもいるし、すぐに姿を消してしまう。

大陸の端から端に瞬き一つの時間で移動してはあらゆる場所、事件に関与しているとされるほど多忙な存在だ。


「先生が居たらなぁ……」

「連れて行ったらもれなく有名人だな」

「そうしたらまた先輩がたに目を付けられるね」

「ミ”ーッ!」


机に突っ伏したのちにルナから変な声が出た。ルナがまったく授業に集中していなかったのでそれにつられるように皆もそわそわと授業を受けている。例外はいつも不真面目なティナと居眠りをしているダズだけだ。


「私が同行者になれたら……」

「クインクちゃんが本気モードで連れ立って歩いたらそれはそれで大問題だもんね」


上級悪魔を連れて歩く一年生など前代未聞である。そもそもインプだったらいいという話でもないのだが。

力になれないと知ってクインクはしょんぼりしながらルナにひっついた。


「うー……」

「私は大丈夫だからねぇ……」


まるで悲劇のヒロインのような二人にアダムは呆れた様子でテキストのページをめくっていた。

同行者として格の適当な人物となると困ってしまう。

まさか悪魔を呼ぶわけにもいかず、かといってエトナ―やルルイエを連れて行った日には大騒ぎになるだろう。

魔法世界、宗教世界、その二大巨頭の一角を連れて行くなど普通はできないことなのだから。



そして放課後。


「ほんとうにどうしようかなぁ」


くっついたまま寝てしまったクインクを抱えてルナは帰り道を歩いていた。

イングリッドもその後ろをついて歩いていたが彼女とてそう言ったことに知識があるわけではない。


「サロンに行くまで何日かあるんでしょ?大丈夫だよ」

「だといいけど……」


イングリッドに励まされながらルナは帰路についた。


「ただいまー」

「おかえりなさい、どうしたの?」


家に帰ると母のアリシアがすこし落ち込んだ様子の娘を見かねて声を掛けてきた。

夕食までの少しの時間にルナは相談してみることに。


「実は先輩から魔法使いのサロンに出席するように言われちゃって……」

「あらあら、それは困ったわね」


アリシアも名家の生まれではあるが彼女は聖職者の出身である。

魔法使いの知り合いなどいないし、アリシアの家系には魔法使い嫌いが多い。

エクソシズムや異端審問官の仕事を親類は生業にしているのだが彼らが取り締まるのは大抵が悪い魔法使いだからだ。その為に魔法使いに偏見があるのだ。


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