相手はえらんだか?
ルナがあたふたしている間に二年生はクラスに戻って皆に報告しに行っていた。
「どうだった?」
「バッチリ、招待状は渡せたし出席の返事もさせたわ」
女生徒の一人がそう言うと学生用の名簿の末にルナの名前が載った事を確認すると謀りごとの中心メンバーは笑みを浮かべた。
「ルナ・フラウステッドね」
「まぁまぁの人選ね、ユピトール商会の子とか他所から来た子だと面倒だったけど」
ユピトール商会は大きな組織なので下手をするとその子供と言うだけでステータスになってしまうし、ティナだと親が出てくるだけで同行者としては格を満たしてしまう。
「外から来た子だと同行者がいなくても仕方ないからね」
当然ながら地方や外国から来た人は同行者がいなくてもしょうがない。そう言った人を揶揄するととんでもない恥をかくのは揶揄した側なのである。
「そのぶんこの子なら親が役所の人間ってのが絶妙よね」
ルナの父親は役所や治安維持部隊で有名だがあくまで業界での話、上流階級や魔法使いの研究者の間では魔法使いとしてよりも『兵士』もしくは『戦士』としての認識が強く、華やかな社交界では無名に近い。
実際の戦闘を目撃すればそのような意識も吹き飛ぶだろうが肩書がものを言う世界では血や土に塗れる泥臭い世界で戦うエルドは違う世界の存在だったのだ。
「華やかな世界には興味があるだろうけど、そんなところに慣れているような子じゃなさそうだったね」
「どんな格好で来るか今から楽しみじゃない?慣れてない人のチョイスってどうなるかしらね」
皆は社交界に慣れていないであろうルナがどのような恰好をしてくるかで想像を膨らませていた。
背伸びをして精一杯の高級品で固めてくるか?
それとも場違いなラフな格好で出てくるのか?
古臭い衣装なんて着てきたりして!と笑っていた。
しかしそれを遠目に見て溜息をつく女生徒がいた。
名をアンヌ・ルイーズ・タイユラン男爵令嬢。正式にはアンヌ・ルイーズ・ジェルメール・ド・タイユラン。
貴族としては低い身分でありながら貴族と魔法使いとを結ぶ交流の要として社交界では強い発言力を持つ。
しかし彼女はそんな男爵家の中で純粋に魔法を探求したいと魔法学校の門を叩いた人物でもあった。
「アンヌ、あの子の引率よろしくね」
「はいはい」
名簿を受けとりながらアンヌは溜息をさらに重ねた。
サロンの運営をしているのは彼女の父親である。それ故にアンヌは同級生のサロンの参加や推薦などの管理を父親から任されていた。
父親としては娘の将来のために自分と同様の特権や強みを引き継いで欲しいと仕事を任せているのだ。
しかしアンヌ自身はもっと魔法の勉強に集中したかったのだが……。
(友達と思って甘い顔をしすぎたかしらね……)
苛立ちを表情に出さないために髪を弄る癖がついてしまった。
毛先を指に巻いては解くのを繰り返す癖だ。そのためにおくれ毛の毛先がくるんと巻いている。
こんなつまらない事を考える友人よりも後輩の態度次第では彼女を可愛がってあげる方がいいかもしれない。
そんなことを考えていた。
「だれについていってもらおうかなぁ……」
「……大変だね」
「い、いざとなったら私がいます!」
「クインクちゃんは使い魔なんだからダメでしょ」
ルナはそんな事は露知らず、同行者について頭を悩ませていた。
サロンや社交界などというものに詳しい人物はFクラスにはいなかった。
マリーとクロエは一般家庭の子供だし、ティナも実家は大きな商家ではあるものの華やかな生活とはかけ離れている。イングリッドも同様だし、クインクはそもそも悪魔なので関係ない。
ダズとテイロス、カティナに至ってはそもそも街の外出身だ。上流階級に知り合いなどいようはずもない。
「フラウステッド、どうかしたのか?」
教室で困り果てているとアダムが出席簿を片手にやってきた。
もうすぐ授業の時間だ。
「せんせー、ルナちゃんがサロンに行くことになっちゃったんだってさ」
「サロンに?突然だな」
「先輩に誘われちゃったんですぅ!」
アダムはルナから事の次第を聞いたところ、すぐに呆れた様子でやれやれと溜息をついた。
「はめられたな」
「えっ!?」
「どうにも最近は派手に動き回っていたからな。上級生の目に良くない形で留まったんだろう」
話を聞く限り有無を言わせずに、しかも一番お人好しのルナを狙って参加を強制したようなもの。
「サロンではそれなりに立場のある人を連れて行けないとボッチ扱いされるぞ」
「えーっ!」
「おそらくだがそうやってお前があたふたする様を見たいんだろう。服を用意するのも大変だろうしな」
「すっごい陰湿ー!」
「……私よりじめじめしてるねぇ」
クロエとティナが憤慨する中、街の外出身の三人もあれこれと話し合っている。
「サロンね、私のとこにはなかったけど部族の集会とかあったなぁ」
「ウチは作品の発表会と銘打った同窓会とかで親父たちが盛り上がってた」
「僕の所も似たようなものですね、この街の上流階級でなければ力になれたかもですが」
やいのやいのと子供たちが話し合っている中。一人、それをじっと見つめる影が。




