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感情はどうにも……

騒ぎから数日が経ったころ、魔法学校では魔法陣を代筆してくれる業者兼聴講生が入学したとの話題で持ちきりだった。


「彼らは精密な図形の製図能力があって、縮尺率も自由自在とのことだ」


とか


「インクと紙さえ用意すれば外円や三角形の図形など正確に、しかもフリーハンドでも描けるらしい」


などなど。それほどの腕前となれば日々実験に実験を重ねて魔法陣や魔石を使いまくっている生徒や先生にとって専属で雇いたいくらいの職人である。

しかしながらその職人たちも聴講生として勉学に励む都合上、皆の頼みばかり聞くわけにはいかない。

学校の備品にある魔法陣の描き直しなども請け負うのでさらに皆のお願いは後回しになった。


「あーあ、せっかく新作の魔法陣が動くかどうか描いてもらおうと思ったのに」

「それくらいなら自分でやりなよ……」

「それより聞いた?あの職人さん二人ってあの歌姫ディエ・ヴァトワルのご家族らしいよ」


学生たちは勉学の話題もそこそこに街でライブを大成功させた歌姫の話に移った。


「チケット全然手に入らなかったよね」

「そうよ!新曲もあったって噂なのに」


ユピトール商会のバックアップで大々的に宣伝されたライブとディエの知名度は思いのほか高い効果を示した。

数回に分けて開催されたライブは全て満員御礼。商会と楽団が上げた利益は大きなものになった。


「その話なんだけどさ、初回のライブに参加した生徒がいるって知ってる?」

「嘘、そんな運のいい奴いたの?」

「最近なんかちょくちょく学校に業者がやってくるじゃん?塩の業者とか」

「ああ、あれ?食堂のレベル上がったよね。他にも結構海産物が入ってくるようになって皆楽しんでるよね」


私、カルパッチョ好きなんだよね。と生徒が言う中、一人が言った。


「業者とか今回の職人とかが急に入ってきたのにかかわってる生徒がいるらしいんだよ」

「えっ、そんなことってある?Aクラスのお嬢様とか?」

「そこらへんの人が学園に業者呼んだりするわけないじゃん!」

「えー、じゃあだれよ」

「なんか噂だとさ、Fクラスのとこらしいよ」


その言葉に生徒達は騒めいた。


あの落ちこぼれクラスが?


少人数しかいないクラスがどうやって?


憶測や推測が飛び交う中である生徒が言った。


「それでさ、ディエ・ヴァトワルの初回のライブに行った生徒ってのもFクラスっぽいんだよね」


その一言で先ほどまで好意的な推測が多数を占めていたざわめきに良くない雰囲気が漂い始める。

大半はライブに参加できなかった者、そして中にはFクラスが自分達を差し置いて功績を上げている事を気に入らないと思っている者達もいた。


「ちょっと生意気じゃない?」


Fクラスなのに。そう呟いた誰かの一言がまるで野火のようにクラスに広まると一部の人間が悪い事を考え始める。


「ならさ、そいつらサロンに呼んであげたらいいじゃん」

「サロン?」

「魔法使いが集まるサロンにさ。そろそろあるでしょ?そこに招待してあげたらいいじゃん」

「どんな服で来るとか、誰と来るとか見れるところは一杯あるかもだね」


皆がクスクスと笑い始める。

魔法使いのサロンには著名な魔法使いが集まる。招待を受けた者がさらに誰かを一人推薦することができるシステム

がある。これによって人から人へつながりを広げていくための仕組みだ。


「そのFクラスの一年生に『同行者一名』でサロンに来させるのよ」

「呼べる人がいればいいけどね」


彼女達にとってサロンは親の代、もしくはもっと昔から参加し続ける社交場であった。

魔法界でそれなりの地位のある人たちが交流を深めるために設立されたホームパーティーなどから広まったそれは上流階級の人々が魔法使いに触れ、魔法使いが出世や仕事の為に上流階級に近づくためのものであった。

その中で同行者とはサロンに来て良いだけの格をもった人物が適当であるとされ、参加者の格を測るステータスとなるのだ。


「呼べたら呼べたでこっちに損はないし、呼べなかったら好きなだけ私らでからかってやればいいじゃん」

「どっちに転んでもお得ね」


くすくすと笑う学生たちはそれから何日かを掛けて招待状を作成した。






「あ、君。Fクラスの子よね?」


ディエのライブの興奮も収まり、通常の授業に戻ったルナは旧館の前を歩いていると不意に声を掛けられた。

ローブについたエンブレムにはBと二年生を表わす英数字が描かれている。


「あ、はい。そうです、先輩」

「あなた、悪いんだけどサロンに参加してくれない?」

「サロンですか?」

「そ、先輩としては下級生に魔法使いの社交場に連れて行ってあげたいのよ」


社会勉強って奴ね。と目の前の女生徒は言う。ルナは少し戸惑いながらも彼女が差し出した封筒を受け取る。


「これが……?」

「魔力を籠めてみて」


女生徒がそう言うので促されるまま魔力を流してみるルナ。

するとその封筒の蝋でされた封が弾け、中にあった招待状にルナの名前が浮かび上がった。


「およよっ!?」

「参加表明ありがと、じゃあ現地で待ってるからね」

「えっ!?ちょ、待ってください!」


あたふたするルナを他所に女生徒はそのまま踵を返して立ち去ってしまった。


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