ルナ、歌姫と出会う
その日の夕方、ルナは帰り道で大声で笑いながら歩くエルドとその隣を疲れた様子で歩く同僚に出会った。
「お父さん、今帰り?」
「あぁ、だが今日はちょっと同僚と酒を飲むから晩御飯は要らないと伝えてくれるか?」
「わかった」
エルドはくっくっ、笑いを堪えているのがわかる。
恐らくだが魔法局からエルド達に事の顛末が伝えられたのだろう。
「何かあったの?」
「なに、何年か掛けた仕事が終わっただけさ」
思った通りにはいかなかったがな。とエルドは意味ありげに言って、同僚の背中を叩いた。
「ぐっ!」
「めそめそするな!何事も平穏無事が一番だろう!」
エルドの腕力で叩かれ、同僚はたたらを踏んだ。
「それじゃ、行ってくるよ」
「うん、いってらっしゃい」
ルナは笑顔で手を振るとそのまま家の方へ足を向けた。
「君の娘さんか、全く君に似てないな」
「妻に似たのさ、しかし全くとはなんだ、目元とかそっくりだろ!」
「そ、そうかな?」
治安維持部隊の元同僚はルナの事を知ってはいたが何年かぶりに会ったのでその成長ぶりに驚いていた。
「しかし、俺たちが追いかけていた組織がただの同好会だったとはなぁ……」
「そりゃあ痕跡もなにもないはずだな」
彼らは魔法に関してはプロである。だが、だからこそサキュラス達のようなただ恰好だけ真似た存在にまんまと騙されたのである。
「魔法陣だけはやたらと凝ってたと思ったらプロの製図工だったとはな」
「綺麗すぎるところを疑ってみるべきだったな」
あまりに怪しすぎるために治安維持部隊も魔法局も違法な魔法陣や魔法使いの使用実績のある禁術のデータベースから情報を照合したために全く引っ掛からなかった。辛うじて召喚術の魔法陣らしいことしかわからず、そこから魔法局は悪魔崇拝の集団だろうと予測を立てたのだが、実際はそこもファッション感覚だった。
それっぽい資料が残ってたし、父親がやってたから真似してみた。
これが彼らの行動のきっかけであったなどと魔法局も治安維持部隊も知る由もない。
「まあそう腐るな、自分から出頭して謝りにくるだけマシだろう」
「それはそうなんだが……」
治安維持部隊などは悪の組織との丁々発止があると思っていたのだろう。
無い方が良い事ではあるが、彼らにとって腕の見せ所がなくなってしまうのは辛いことだ。
「世はおしなべてこともなし、さ。飲んで忘れるぞ」
「そうするか」
エルド達はそう言いながら酒場へと向かっていく。仕事は上手く行かずとも、日は暮れる。
腹は減るし、喉も乾く。こんな時は飲んで食って、明日に備えて寝るのが一番だ。
体が資本の彼らはそれを怠らず、愚痴も何もかもを飲み込んでいく。
『今日は来てくれてありがとう!最後まで聞いていってくださいね!』
それから数日、ディエはユピトール商会のバックアップの元、街でライブを行っていた。
観客は満員御礼。隣町での成功に続いてこの街での成功も約束されたようなものだ。
「すごい盛り上がり!」
「ママンが笑顔なわけだよ!」
サキュラス達の身の振り方を教えてくれたお礼にとルナとティナにはチケットが送られてきた。
アダムも呼ばれたがどういうわけか彼は警備のスタッフに回されてしまった。
ライトナに目をつけられたのが運の尽きだろうか。彼女は安く使えるなら誰だって使うのだ。
『今は絶好調!だから最後まで皆も盛り上がって行こう!』
わーーっ!と観客の歓声が上がる。楽団の演奏が始まり、ディエがリズムを取り始めると皆の興奮のボルテージもどんどんと上がっていく。
貴女は悪魔?それとも天使? 導かれたその先に待っていたのが光だったから
あなたが吹き飛ばしたのは 悩みがつみかさなった澱
雷光を光らせて、大きな手を広げて、夜でも真昼のように照らすの
雲すら突き抜けそうな勢いで あなたは私をつれていく
空の果てにたどりついたなら その先にある星に手を伸ばして
きっとつかめるはず あなたがあなたであるのなら
悪魔か天使か、そのときにはどうでもよくなるから
ああ、神様 私には彼女が誰かはわからない
でも その導きはまさしくあなたのそれ
痺れるような感覚と 温かいその眼差しが
ああ、その手を掴んだことが間違いでないのなら
神様どうか彼女の光をさえぎらないで
あんなに光り輝いているのなら
地獄だってかまわない
雷光のように雲を裂いて飛んでいく、そんな彼女の傍でなら
きっと地獄だって輝くはず
光が満ちたその先に あなたをみつけられたなら
きっとそれが答えのはず あなたがあなたであるのなら
悪魔か天使か、そのときにはどうでもよくなるから
きっと、そう だから私の手をとって
あなたがあなたであるのなら
ワァァァーーーー!!!!!
演奏が終わると同時に会場から割れんばかりの歓声が巻き起こった。
その歌声と音楽は人々を魅了していた。
ルナ達もその音楽の力にまるで浮き上がるような高揚感を感じていた。
ただ、ほんの少しだけ
これってもしかして私をイメージしてる?……なんて思ったり。
ルナがティナを見ると、ティナもルナを見ていた。
どうやら同じことを考えていたらしい。
ルナとティナは顔を見合わせて、思わず笑った。
満員の会場。
止むことなくに響く歓声。
その中心で誰よりも楽しそうに笑う一人の女性。
こうして
ルナは歌姫と出会った。




