誤魔化すついでに自分の立ち位置を知ろう
アダムはまずサキュラスとディピトが魔法についてどれくらい知識があるか尋ねることに。
「それでは簡単な質問からいきましょうか」
「質問といいますと?」
「魔法の知識ですよ、貴方がたがわざとかたまたまか、どちらにせよ知識のあるなしで善悪の測り方は変わってきますから」
アダムはそう言うと魔法の基礎基本である問題を出題した。
「まず、魔法使いの扱う魔力には属性が……」
「「属性って?」」
「ええと、その、魔力を感じる際に」
「「魔力を……感じる……?」」
アダムは一瞬凄い顔をしてから壁の方向に体の向きを変えると深呼吸をし始めた。
「あのー……もしもし?」
「ダメだよおじさん、あれは先生がキレる時のパターンだから刺激しちゃダメ」
深呼吸を繰り返しているアダムに声を掛けるサキュラスを引き留めるティナ。経験者は語る。
「アンタらなんでそんなレベルで召喚術なんか……」
召喚術は高等魔術である。図形に意味があり、それがパズルのように組み合わさることで機能する魔法陣をさらにややこしくしたのが召喚術で使う魔法陣なのだ。
もちろん何の知識もない素人がやっていいものではない。
アダムはまさか魔法そのものの知識が初等科レベルの人物が召喚術などをやろうとしていたと知り、呆れが極まって情緒が行方不明になっている。
「となるとアモンがいかなる悪魔かも知らないか……」
「知ってますよ!凄い悪魔!」
「どのように?」
「……なにが?」
「ぷっぷー!」
目が点になった二人をみてティナが噴き出した。それを見てアダムはぐるりと首を動かすと
「お前は笑える立場じゃないだろ!」
「え、ちょ、なんでこっちくるの……いったーっ!」
アダムはつかつかと歩みよってティナの頭を引っ叩いた。
「バカがバカでバカのバカバカバカ!赤ちゃんの癖にハイハイすっ飛ばして空飛ぶ気か!」
「先生が壊れた!」
ティナの頭を引っ叩いた後、流れるような動作でサキュラスとディピトの頭に拳骨を落とした。
「お前ら!このっ!このっ……!」
「先生、おちついて……」
「すいません、ほんとすみません……!」
頭から湯気を出してひっくり返っているサキュラスとディピトとティナを指さして憤慨しているアダムをどうにかルナが抑え、ディエが平謝りしている。
「あんまりにも!あんまりにも知識がないっ!お前ら―ッ!」
アダムはわなわなと肩を震わせていたがティナはいつの間にか自分も含まれている事に気付き慌ててルナの後ろに隠れた。
「やめて!これ以上馬鹿になったらこまるよぉ!」
「ええい、この!お前らこっちにこい!今から役所にいくぞ!」
「ええっ!打ち合わせとかしないんですか?!」
「いらん!存分に恥をかいてこい!」
「「あー……!」」
アダムがサキュラスとディピトを引きずって家を出て行ってしまった。
残された三人は少し考えた後に家にサキュラス達が勝手に描いた魔法陣を消しておくことにした。
「とりあえずこの家綺麗にして、修繕費用取られないようにしとこう」
「そうだね」
掃除用具を手に三人は地下室へ。
「何度見ても模様としては良いんだよね……」
「うん、そうだね」
「複雑……」
ティナとルナは床一面に描かれた魔法陣もどきの出来栄えに改めて見入っていた。
高級時計の部品のように精密に描かれた幾何学模様。乱れのない真円。
一本の直線すら乱れておらず、かえって不自然に見えるほど。
「これむしろ珍しい模様のある床として売り出した方がいいんじゃなかろうか」
「良いインクで描いてるから消えにくいだろうしね……」
試しに水に浸けたタワシで擦ってみた所、もうインクが乾いているのかビクともしない。
「特殊な塗料とかいるんじゃ……」
「やめて、怖いから!いくらかかるのかわからないから……!」
魔法陣用のインクはとにかく簡単に消えないようになっている。サキュラス達はよりにもよって工業製品用の風雨に負けないタイプのインクを使っていたようだ。
こういったタイプは床や壁面にはっきりと写り、簡単には消えないのだ。しかも経年劣化にも強い優れもの。
つまるところ消すのがすごく面倒くさい。
「「「はぁ……」」」
三人は途方に暮れた。
「えー……と、確認しますよォ?」
「「……はい」」
魔法局の生活安全課にサキュラス達は怒り顔のアダムに引きずられてやってきた。
そしてアダムに定期的に拳骨をもらいながら状況を説明していた。
「何の知識もなく、ただ雰囲気で集まって、それっぽいものをインクだけ本職の人が使うようなものをつかってインチキサバトやってたってことですかァ?」
「一応製図工なんで……」
「本職に集中しなさいよォ……いい歳こいて……!」
魔法局の職員は割と真面目に捜査していたらしい。サキュラス達に対する態度の悪さが捜査にかけていた熱量を物語っていた。
「大悪魔を呼んだことあるって?」
「いえ、それは過去に、ええと」
「大悪魔の名前ってご存じ?」
「アモ「それ以外で!」……知らないです」
書類にペンを走らせながら職員は定期的に二人を睨みつけている。
脅威に成り得る怪しげな秘密結社だと思っていたが、その実態は見た目だけ本格的な魔法陣を描いていたただのオッサンで、ただの悪戯同然の真相を聞かされた上に犯人は魔法学校の先生に怒られて連行されてくるというマヌケっぷりである。
その事実がそのマヌケ二人を真面目に脅威と見なして皆で調べていた事をとんでもなく惨めにしていた。
「これ報告書に書くのォ……?」
纏めた情報が記された紙を見て職員は頭を抱えていた。




