ということはつまり……?
ヴァトワル家の面々がしみじみとしている中。
「つまり、サドローのおじちゃんは見栄張って魔法使いを名乗った後、帳尻を合わせる前に死んじゃったのか」
ティナの身も蓋もない一言に全員が暗い顔になる。
「ユピトール、お前な……」
「だってさ、私からしたらおじちゃん達のすれ違いで財産食い潰しちゃった!なんてホラー以外の何者でもないんだよう」
それを聞いてサキュラスとディピトはがっくりと項垂れた。
本来ならばディエが一人前の歌手になるまで余裕を持って蓄えられていた貯蓄もインクや触媒、それに広場を借りたり人を集めたりと様々な事で浪費したため残って居ないばかりかディエと楽団は長く金銭面で苦労してきたのだ。
「お、親父ーーっ!」
「お父さーーん!」
「「財産無駄にしちゃった!!」」
そしてまるで懺悔するように恐らくは天に昇っただろう父に向かって叫んでいた。
「ああ無常だね」
「お前が言うな、ユピトール!」
「あいたーっ!」
どこまでも口の減らないティナに再び拳骨が落ちた。
「これからどうしようか……」
「どうしようか……」
二人はなんとも言えない表情で顔を見合わせている。
ディエも流石に掛ける言葉がない。
勘違いが重なったとは言え誰も悪いことをしてないのだ。
誰が彼らを責められよう。
「そうですな、とりあえず悪魔崇拝は辞めなさい。それから真っ当に学び直すのがいいでしょう」
「しかし学ぶと言ってもどうしたら?」
「魔法学校にくれば?サドローのおじちゃんも頼もうとしてたんでしょ?」
ティナの言葉に二人は再び顔を見合わせた。
「確かにそれはいい考えかもしれませんが……」
「あいにくと先立つものがありませんので」
そう言うと再びがっかりした様子の二人にアダムは言う。
「魔法学校では物納で授業料を納める生徒も居ります、貴方がたも物納をすればよろしい」
アダムの一言に二人は首を傾げた。
「物納といいますと?」
「生徒の中には生活用品や文房具などを卸すことで授業料を免除するシステムがあります。富裕層でなくとも入学できるようにするための制度だと思ってくださればいい」
それでもイマイチピンと来ていない二人にルナが付け加えた。
「サドローさんと同じ事を魔法学校でしてくれたらいい、ってことですよ」
ルナの言葉に二人は今度は笑顔で顔を見合わせた。
魔法学校では魔法陣の書き取りテストがある。
魔法陣の試験では、教員が事前に何十枚もの魔法陣を描かなければならない。
不器用な生徒ほど描き損じが多く、追試まで含めると教師の負担は相当なものだった。
先生たちにとって魔法陣を描いてくれる職人はいくらいてもいいのだ。
「お二方が居ればどれだけ先生方が救われるか……」
アダムは追試の試験用紙を用意するのに毎回苦慮している。
それが円や直線、模様を備えた魔法陣となるとさらに手間はかかるものだ。
ちらりとアダムがティナを見るとティナはのほほんと大変だねぇ、などと言っているのを聞いて疲れた顔で溜息をついた。
追試を何回も受けている張本人に言われてしまってはアダムもがっくりである。
「つまり、ほとんどタダで魔法の勉強ができるのですか……?」
「タダというか、場合によってはこちらが金銭をお支払いすることになるかと」
今度はディエを含めた三人でサキュラスとディピトは笑顔を浮かべ、手を取り合ってぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「お金がかからない!なんて素敵な……!」
「わぁい」
「わぁい」
大の大人三人が揃ってはしゃいでいる。その中でディエは感涙までしている。
「あれがお金で苦労してきた人間の姿だよ、ルナちゃん」
「やめて、そんなこと言わないであげて……」
「ほんとに、お前という奴は……」
ティナがルナの肩を抱いて遠い目をしながら言う。
アダムとルナは揃って何とも言えない気持ちになった。
「さて、それではこれからの事を話し合いたいと思います」
しばらくしてディエ達三人が落ち着いたのを見計らってアダムがこれからサキュラスとディピトがすべき事をまとめた。
アダムは指を立てる。
「一つ、悪魔崇拝で集まった人たちに事情を話して解散すること」
アダムはさらに二本目の指を立てる。
「二つ、魔法学校の手続きをしに行くこと」
そして最後に、とアダムは三本目の指を立てる。
「三つ、魔法局に出頭してこれまでの騒ぎの釈明をすること。」
この三つが必要です、とアダムは言う。
特に三つ目はサキュラス達は知らなかったがアダムの魔法学校の生活指導業務の情報網からもたらされた情報で、魔法局が二人を怪しい魔法陣を無届で書きまくる怪しい集団のボスとして捜索しているのがわかっている。
彼らが魔法学校で魔法陣を勉強するなら魔法局に行って今までの行動を説明する必要があるが、サドローの名前を出して魔法陣の研究をしていたとなるとちょっとややこしい事になるかもしれなかった。
サドローは秘匿された事件の数少ない関係者だからだ。
彼から真実が漏れているとなるとサキュラス達にも行動に制限がかかってしまうかもしれない。
「なので、お二人には趣味で悪魔崇拝っぽいものをやっていたただの製図工という話で行こうと思う」
アダムの言葉に全員がきょとんとした。
「どうしてです?」
ルナが首をこてんと傾ける。それにアダムは顎に手を当てて答えた。
「大悪魔を呼べる召喚術を真面目にやってました、ってなると役所も『次から気をつけてくださいね!』って言いにくいだろ。実際問題この人達は悪魔召喚で悪事を働きたいわけでもなんでもなかったんだから」
「お目こぼしにも手順が必要なんだね」
アダムの言葉にティナはなるへそ、と納得したように頷いた。




