ドローイングゲート団とその事件 その2
魔法使いたちはサドローを仲間と心の中では思いつつも僅かに距離を置いていた。
理由は自由に悪魔召喚をすることがもうじき違法になるかもしれないということだ。
そうでなくても高位の悪魔を召喚できるとしれれば教会は良い顔をしない。
より高位の悪魔を召喚すること。
それが彼らの目的であった。そしてその最終目標は異界と人間界を繋ぐゲートを創造すること。
彼らは文字通り魔法陣という異界への扉を描き、世界を繋げる夢を抱いていた。
それにはサドローの技術が欠かせなかったが……。
「召喚陣の起動はサドロー抜きでやる」
「?……なぜ?」
「彼は若いし、今回の事で教会のブラックリスト入りさせるわけにはいかないだろう。それに彼が教会や魔法局から目を付けられたら生活していくのが難しくなる。自衛手段を持ってないことも鑑みて、危険からは遠ざけるべきだ」
リーダー格の魔法使いの言葉に皆は少し考え、渋々同意した。
サドローは未来ある若者だ。それに魔法の世界で生きる自分達と違い表の世界で生きる術がある。
製図の技術だけで危険な世界に引き込むにはサドローは若すぎたのである。
「次は悪魔の中でも最高位……、大悪魔を召喚するのだ。不確定要素が多い以上は仕方ない」
「なに、栄光はその場にいなくとも分かち合えるさ」
そうしてドローイングゲート団の面々はサドローを思いながら魔法陣の起動に必要な魔石を手に配置についた。
「おいでなすったな……!」
エトナーは教会で敏感に悪魔召喚の気配を感じ取った。
それも普段の使い魔や小遣い稼ぎに召喚するようなケチなものではない。
「大物がよ!」
彼女のセンサー、そのど真ん中に突き刺さるような強い刺激に笑みさえ浮かべながらエトナーは教会のドアを開け放った。
「エクソシズムに心得のある奴はついてこい!今すぐにだ!」
待機していた異端審問官はすぐさま立ち上がり、エトナーの後ろに続いた。
エトナ―達が現場に到着するとその建物は聖職者ならば外から見てもわかるほどの異様な気配を放っており、エトナ―にはそれが破裂寸前の風船のようなものに見える。
「チッ、ギリギリアウトくせぇな」
「どうしますか?」
「結界で囲め、瘴気が漏れないように!聖術で身を護れるヤツだけついてこい!」
建物の四隅に聖職者の一団が香炉を置き、白墨で聖印を描いて結界で覆い、漏れ出る瘴気の対策を行う。
エトナーはさらに、自ら描いた聖印を起点として入口を結界で塞いだ。
「瘴気の中に飛び込むぞ、気合入れてかかれ!」
それを聞いてエトナ―に続く聖職者は全員が護法の聖術を体に纏い、杖やタリスマンを握りしめた。
それを見てエトナ―はハンドサインでカウントダウンをすると入口を豪快に蹴破った。
「むっ!」
中は濃い瘴気が漂っており、突入するなり半分近くが体調不良を訴えた。
「うげえっ!」
「ええい半端な奴は下がれ!死ぬぞ!」
年若い者が嘔吐し、熟練した僧侶が彼らを突き飛ばして建物の中から追い出した。
瘴気は毒ガスに近い。護法を過信し、呼吸を抑えなかった者が多かったのだ。
反対に経験者は突入する際に口元を布で覆い、術を重ね掛けしてガスマスクのように加工している者もいた。
エトナ―のハンドサインはその準備を促す為のものでもあったが、若い者はそれも理解できていなかったようだ。
「何人残った!」
「半数が出て行きました」
「勉強不足だ、バカ野郎め」
平然としているエトナ―に熟練者の僧侶達は若干引きつつも答える。
瘴気に対する対策は修行というよりも知識によるところも多い。
「聖人様は辛くないんですか?」
「聖印をつけるとこにつけりゃ苦しくなくなるんだぞ」
「そうなんです……うわっ!」
カッコ悪いがな。とエトナ―はそう言うと指を傷つけると僧侶の一人のマスクを引っぺがし、顔を掴んで顎と鼻の下の部位に血で聖印を書き記した。
「ほい、おしまい」
「いだだ……こ、これは?」
「触るな、印が消えると効果が続かないから」
これで苦しくないだろ?と言うエトナ―。僧侶は息苦しくない事に驚きつつも
(え、結局あなたがそのまま平然としてることの説明になってないんですが?)
と思った。
「この部屋だ!行くぞ!」
そしてその疑問は語られることはなかった。
エトナ―が飛び込んだ部屋の状況がひっ迫したものだったからだ。
「おうおう、何匹居やがるんだ?」
『せ、聖人……!』
魔法陣の描かれた部屋には複数の悪魔が佇んでいる。彼らの足元には複数の人間が倒れており、部屋に残る戦闘の痕跡から彼らが最近起こっている事故に巻き込まれたであろうことを物語っていた。
「一つの魔法陣からお前らが大量に出てくるのは異常も異常、横紙破りも甚だしいやな。申し開きでもするか?」
『召喚の乱発を受けてのこと、我らに非は無い』
「嘘つけ、召喚陣に横入りするのは悪魔の世でもご法度だろうが」
エトナ―は部屋の魔法陣が精密に描かれている事から倒れている魔法使いたちが何を呼ぼうとしていたのかを容易く察知した。
「よりによって大悪魔の召喚陣に横入りか、お前らタダで済むと思ってんのか?」
どちらにせよ人殺しだがな。と杖を構えてエトナ―は彼らを睨みつけた。




