刺激しないでおこう
ティナに遅れて地下室に来たルナはティナが感心した様子なので不思議そうにしていたが魔法陣の出来栄えを見て、なるほどと思わず唸った。
「これは見事な魔法陣ですね……」
意味が通れば、と小さく呟いたのを聞いてディエは複雑な表情を浮かべた。
父と叔父の実力は低くない、だがそれ故に知識の無さがどこまでも足を引っ張っている。
なぜここまで努力ができるのに知識の収集だけができないのか。
その謎に二人の魔法使いが踏み込んでくれるのを祈るばかりだった。
「そーでしょうそーでしょう」
ルナの呟いた一言が聞こえたのかサキュラスとディピトはなんだか嬉しそう。
ティナはそんな二人とルナを交互に見て、思考をまとめるためにメモを取るふりをしていた。
(やばいじぇ、そろそろルナちゃんが爆発しそう)
ルナの真面目な性格が大間違いかつ危険が伴う行為ということで指摘したくて堪らないといった様子がありありと見える。
それをどうにか口の中から出さないように我慢している状態だ。
つつくと破裂しそう。
「むーっ」
「お、おや?」
ルナが急に膨れ面になったのでサキュラスは不思議そうにしている。
知らぬがなんとやら。
「え、えーとね!それじゃあ人に歴史ありってことでおじさん達が召喚陣の研究を始めたきっかけを聞きたいな!」
ティナがメモを叩いて注意を引くとサキュラスとディピトに言う。
二人は上機嫌だ。待ってましたとばかりにティナの方へ振り向いた。
「召喚陣のきっかけはね、私達の父がしていたからなんだ」
「へぇ、おじさんのお父さんというとディエさんのお祖父ちゃん!」
二人が親の跡継ぎとして研究を続けているとのこと。
ディエは一族の悲願とは聞いていたが祖父がそんな事をしていたとは知らなかったのである。
実のところディエの祖父は真面目な製図工で、父と叔父に好きにさせているだけと言った感じに見えていたのだ。
「お祖父ちゃんは建物の図面を描く人じゃなかったんだ?」
ディエの言葉に二人はチッチッチッ、と指を振りながら言う。
「ふふふ、それは世を忍ぶ仮の姿と言うやつさ」
「おじさん達は忍ばなくていいの?」
祖父は身分を隠して仕事をしていたのに。と言うティナの言葉はスルーされた。
「実は父が若い頃に属していた組織が凄い悪魔を召喚したんだ!」
「凄い悪魔?」
「アモンって名前だよ!」
突然の爆弾発言にルナは飛び上がった。
アモン
大悪魔の次席、魔王バエルの副官として魔界の統治を補佐する強烈なる侯爵。
ソロモンの魔導書には七番目とも列される彼だがその実力は魔界に置いてバエルを除き比類なき存在でもある。
次席である理由はその力だけでなく人、果ては悪魔の和を保つ存在であるからとも。
「え、え、えええっ!?」
ルナのリアクションに二人はますます機嫌が良くなる。それに対してティナは胡散臭そうに、ディエはきょとんとしている。
「すごいですね!それなら魔法学校の資料にお祖父さんの名前が載ってるかも!」
ティナはすぐに笑顔に戻り、メモに鉛筆を走らせる。
「ちなみにお祖父ちゃんの名前と組織の名前ってわかってます?」
「父の名前はサドロー・ヴァトワル。組織は確か、ドローイングゲート団でした」
ティナは二つの名前をメモに書き留め、にっこりと笑うとメモを閉じた。
「なるほど!それくらい凄い人ならこちらでも調べがつくかも!私達はこれから学校に戻ってその人と属していた組織の詳細を調べてみます」
次の取材で人となりについて聞きますね!とティナが言うとサキュラスは笑顔で頷き、ディピトと話し合って日程を調整する運びになった。
「そうだ!言い忘れてましたが少しだけ大人しくしてくれると助かるんです」
「?……何故だい?」
「実は行政の一部が治安維持部隊に動員を呼びかけてるかもしれないので」
その言葉に今度はディエが飛び上がった。
「ちょ!それってどういうことです!?」
「この子のお父さんが魔法局の職員で情報がわずかに伝わってくるんだよね」
ルナが困ったようにティナを見ている。それをアイコンタクトで謝りつつティナはそういうことだから!と会話を切り上げた。
「そっちが動けない間にこちらで裏を取るからサドローさんの人となりを思い出してまとめておいてね!」
そそくさとティナはルナの手を引いて家を後にした。
その際に住所を控えておくことも忘れない。
「せんせー!あのねー!」
「うわ、びっくりした!」
翌日に二人はアダムの元へ。
普段なら逃げるばかりのティナがやってきたのでアダムは珍しく驚いた様子を見せている。
「ドローイングゲート団ってなに?」
「……お前どこでそれを?」
「もしかしてヤバい集団?」
アダムはルナとティナを見て、またぞろ厄介なことに首をつっこんだな?と口をへの字に曲げた。
「エトナ―が部下を率いて解決を担当した事件だ。それくらい言えば多少はヤバさがわかるか?」
「部下というと異端審問官の?」
「その中でも対悪魔のエキスパート、エクソシズム専門の部隊を率いての大立ち回りだ」
アダムは二人を資料室へついてくるように言いながらその当時の事件、その資料を紐解いた。




