諦めろ!
ディエにどうするべきかを提案したティナだったが……。
(ま、これで諦めてくれるならおねーさんか仲間内で誰かがやってるとは思うんだけどさ)
相手は長年の失敗にめげない筋金入りである。
「ところでさ、おねーさんは二人にもう辞めろって言ったことないの?」
「仲間は喧嘩するくらい、私はそれとなく……」
そう言うとディエは目を逸らした。
おそらく他の人ほど強くはいえなかったのだろう。
「となると、作戦を立てる必要があるね」
「作戦かぁ」
「その前にだけど、どうしてお父さん達はそんなに独学にこだわるのさ?」
ティナの言葉にディエはそう言えば、と頬に手を当てた。
二人が熱心に悪魔召喚の為に努力しているのは知っていたが、それがどう言う理由でかは知らなかったのである。
「そう言えば知らなかった……どうしてだろう」
「ご先祖様が召喚術の権威だったとか?」
「ありうるね、自分の流派があるなら他所のやり方はやりたくてもやれないよね」
「見栄を張ってる感じもあるし……」
ディエの言葉に二人はえっ、と声を揃えた。
「失敗の理由に『高位の悪魔を呼んでるから』って」
「成功しなくて良かったね……」
「ど、どういうこと?」
「悪魔召喚は危険なんだよ?ウチの先生も死人が出ることもあるって」
それを聞いてディエは顔を青くしている。
「魔法陣の知識に乏しい人が魔法に詳しいわけもないし……一応聞くけどおねーさんのお父さん達って剣とか武器の達人?」
「普通のおじさんかな……」
「なら呼んだらほぼほぼ酷い目にあうよね」
魔法使いですら下級の悪魔と侮り手痛い失敗をすることがある。
アダムの言では防具や鎧をつけて臨む者もいるほど危険なものだとか。
「悪魔とは知性と魔力を備えた獣と例えられます」
「というと……」
「人のように考える狼が魔法を使い、人間より長生きしていると考えてください」
そう言った存在に貴女のお父さんは勝てますか?とルナは問う。
考える間でもない、無理に決まっている。
「とりあえず召喚を諦めさせる前に悪魔をどうやって調伏するか聞いてみる?」
「そうだね、こだわる理由と成功させた後の事を聞いて……それがどれだけ無謀か一応魔法使いの私達から教えるべきだね」
「成功してなくてよかった……」
ディエももちろん戦闘の心得などない。歌手として生きて来て、楽団を率いてこそ来たものの魔法や剣とは無縁の生活だった。
唯一研究している父と叔父ですらあの体たらくなのだ。そもそも適性があるかも怪しい。
「私は明日も補習だから今日と同じくらいの時間からしか付き合えないけどさ、お父さんたちに会ってみない?」
「ディエさんのお父さんたちに?」
「そそ、それで二人になんで研究してるか聞き出すのさ」
どうやって?と言いたげなルナにティナは鞄からメモ帳と鉛筆を取り出した。
「記者になりすます!魔法学校の新聞記者ってね」
その方針が固まり、皆は一度解散することになった。
「うぎゃーーーーん!」
「まだ結果がでないな……」
翌日、再び補習授業で悲鳴を上げるティナと進展がなく徒労感が増してきたアダムは溜息をついた。
「うぅぅ、真面目にやってるはずなのに……」
「ほんとにな……」
漢泣きしながらノートに向かっているティナ。
アダムはそれをみてなんと声を掛けたらいいのかわからないといった様子。
「うう、ぐっ!く、うぉぉ……!」
「補習授業でこんな熱い涙流す奴いるかな……」
座学となるとどうにも弱いティナだったが、ふと魔法の歴史について書かれたページを見つけた。
「せんせー、そういや召喚の話前にやったよね?」
「ん?ああ、召喚術の話か?一年じゃやらない項目だが」
「いやさ、ルナちゃんって大がつくじゃん?そのクラスの悪魔って呼ばれることってあるのかなって」
アダムは授業が脱線するかもと思いつつもティナがせっかく興味をもったのだからと顎に手を当てて知識を思い出してみる。
「そうさな……、上級までは役所も記録するし、場合によっては許可も出るだろう。だが大悪魔となると召喚しようとするだけで大事件だ」
「え、でも召喚術って別に秘匿できないわけじゃないよね?」
こっそりできないの?というティナにアダムは首を横に振った。
「無理だ、魔法陣が起動した時点で膨大な魔力が起こる。旧校舎にある召喚術用の魔力漏れをシャットアウトする建材で作られた建物でも大悪魔を呼ぶほどの召喚陣となると完全には防げない」
「ほへー」
「まず起動するための魔力がいる。触媒を励起させて魔力を発生させるか魔法使いが供給する魔力がこれに当たる。そして一番厄介なのが魔界から流れ込む瘴気を含んだ魔力だ」
大悪魔になるとこのどちらもが膨大になる。とアダムは言う。
「瘴気を含んだ魔力は有毒なんだ」
「えっ!そうなの!?」
「うむ、魔力の濃度が段違いなので魔法使い以外が触れたり空気のように吸い込むとすぐに倒れてしまう」
ルナがかつて罹患していた魔力欠乏症の逆の事が起こる。体内に魔力を補給しすぎて魔力が体内で飽和状態になり、魔力中毒を起こしてしまうのだ。




