それとなく
簡単な自己紹介が済んだ所でディエは二人が普段なにをしているのかを会話を装って情報を引き出すことにした。
「お二人は普段なにをしているの?」
「魔法学校に通ってますよ」
ルナの返答にディエは想像を膨らませる。
ルナは恐らく悪魔なので講師か、もしくは学校の番人的な存在なのだろうと。
ディエの知識は多くはないが、それでも悪魔があらゆる知識に通じる存在であることは知っている。
そんな存在がなぜユピトール商会とその跡取りと仲がいいのかは謎だったが逆に言えば二人と仲良くして損は全くない。
「魔法学校ですか……まったく知識がないんですけどどのような勉強をするんですか?」
「魔法の知識から実践、魔法陣の書き方から薬品の作り方まで様々ですね」
「へぇ、そうなんですね」
悪魔の知識があれば学生の勉強は大いに捗るだろう。
そう思いつつ話を聞いていたディエだったがティナの言葉に驚くことになる。
「そんでルナちゃんと私は同じクラスの同級生なのさ」
「えっ!」
そうなの?といった様子のディエに二人はそろって首を傾げた。
「ルナちゃん先生じゃないの?」
「私は学生ですけど……」
「先生を気安くちゃん付けしたりしないってばさ」
ティナから至極真っ当な事を言われてしまった。
「ズッ友って言ってたからつい」
「でもどうして先生なんです?ティナちゃんと同い年なのに」
同い年という情報が追加されてディエはさらに混乱した。
え、同い年?悪魔なのに?女学生と?
あ、ああ、そうか!この子も魔女かなんかなんだね!と思考が暴走していくのを感じる。
「雰囲気が大人びているから、なんとなくね」
「そうですかぁ?」
ちょっと嬉しそうなルナ。
そして普段から営業スマイルを鍛えていて良かったとおもったディエ。
しかして頭の中は疑問がまるでミキサーのように渦巻いている。
マジで女の子なの?悪魔なのに?悪魔girlなの?
正体隠してるの?それとも留学してるの?ホームステイなの?
浮かんではいろんな考えが消えていく。
何が何やら。
「ディエさん?」
ぐるぐると思考の迷路に迷い込んだディエは笑顔で店員が持ってきたお茶のカップを持ったまま固まっている。
人間の処理能力を超えた状態に入ったらしい。
「どうしちゃったんだろう……?」
「わかんにゃい」
ティナはそんなディエの様子を見て少し考えこむ素振りを見せる。
「どうしたのティナちゃん」
「なんか考えたらこの人ちょっと変だよ」
「?」
「ルナちゃんが昨日この人に会ったのどこだったっけ?」
「家の途中の丘だけど」
それがどうかしたの?とルナは言う。
ルナからすれば昨日のディエの言動を微塵も疑っていないので疑問もなにもないのだが。
「街からルナちゃんの家の丘まで結構距離あるよ、迷うにしたって街から出るまで追いかけてくるの変だよ」
「変かな?迷ってただけみたいだけど」
「道もなにもしらないのに街から出てまで追いかけようってのは変だってばさ」
そう言われてルナは初めてディエの行動に疑問を感じた。
夕闇の迫る時間帯に街から自分を追いかけて丘まで来たのだ。
考えてみればみるほど確かにおかしい。
「この人なんかルナちゃんに興味があるのかもよ」
「興味ってなんだろう?」
「さぁ?そこまでは……でもルナちゃんはいろんな人に興味を持たれるとは思うよ?」
ティナの目を通してみるルナはいろんな姿がある。
自分の友達、優しく、素直で可愛い女の子。
聖職者の卵、聖術を扱い、人々を癒す聖人の弟子。
魔法使いの卵、高い魔力を備え、様々な魔法を使うルルイエの弟子。
若い悪魔、圧倒的な力と能力を備えた人外の存在。
「なんかどっかに当てはまらない方が難しいような……?」
ルナを目的に近寄ってきたとするならば上っ面を見たにしろ、深淵まで覗き込んだにしろ何かしらの琴線に触れない方がおかしいのではなかろうかとティナは思う。
「十中八九、ルナちゃんの何か目当てで会いに来てるわさ」
「そ、そうかなぁ」
「ちょっとくらいは自覚しろー」
「うゆゆゆゆ」
頬を突かれてルナは戸惑った様子でディエを見ている。
ディエはディエでまだ混乱から立ち直れていない様子だ。
ティナはそんな二人に呆れながら自分からぶっちゃけることにした。
「ディエさん」
「え、あ、ごめんなさい。ぼーっとしてたわ……」
「ルナちゃんが見た目通りの女の子じゃないって知ってるよね?」
ティナがあっけらかんと言うとディエは再び固まった。
「えっ?」
「どこまで見えてる?」
「えっと、あの……何の事かしら?」
突然の事に狼狽える様子にティナは席を立つとディエの背後に立った。
ルルイエから教えを受けていたティナは、ルナがかつて悪意に晒されたことを、彼女を通じて知っていた。
ルナ本人が気にしていないからといって自分まで無関心でいるわけにはいかないのである。
「正直に答えてね」
「な、なにを……」
「ちょっとした質問」
そう言いながらティナは両手を突き出してディエの目の前で人差し指を突き合わせる。
するとその間に魔力を帯びた青白い電気を走った。
「ルナちゃんの正体にどこまで気付いてるかって話」
低い声で尋ねるとティナはディエの肩に両手を置いた。




