商会に紹介!
ティナが悲鳴を上げている最中、宿から出たディエはユピトール商会を目指して歩いていた。
「商会が探していると言うことは商売をする気があるってことよね」
本来ならば自分から売り込みに行かねばならないところを『ちょっとおいでなさい!』と声を掛けてくれたわけだ。
これを自身の得に出来るかはこれからわかるが、相手はこちらを投資の対象と見てくれている。
これを逃す手はない。
(それにあの子の事も気になるし……)
名前を聞きそびれたあの少女。
一皮剥けば恐るべき存在が飛び出すあの少女。
もしもあの子の本性があの時ののんびりした性格なら頼めば色々と引き受けてくれるかもしれない。
(いっそのこと父さん達に満足して辞めてもらうのも手だよね……)
一回でも成功すればもう諦めてくれるかもしれない。
悲願を達成したわけだからそうなるだろう。
そんな風に考えながらディエはユピトール商会の場所を尋ねつつ歩いていった
「みょみょみょー!」
「あーもう、今日はここらへんが限界か」
目の前に小銭を転がしてみる。普段なら飛びつくティナが無反応だったのでアダムは諦めてテキストを閉じた。
「流石に二日目となるとくたびれるのが早いな」
「ティナちゃーん!」
「みみみ!」
頭から煙が出ている。
好きこそものの上手なれという言葉があるがその真逆を頑張っているからしょうがないのかもしれないが。
そんなこんなでルナは二日目の送り迎えを引き受けてユピトール商会へ。
「元素ってね、実は108種類あるんだよ」
「へー」
独り言も酷い。どこまで学んだ事が頭に残っているのやら。
ルナはテストの点数を見て頭を抱えるアダムの事を思い浮かべると気が重い。
筆記の点数はティナがぶっちぎりで悪い。
テイロスとカティナがそれに続く形だが二人は元々それほど勉学としての魔法を知らなかったのだから比べるのは少し違う。
ティナは一応中等部を出ているはずなのだが……。
「困ったなぁ……」
ルナも教えるには限度がある。元より、ひとところにじっとしているのが苦手な性分は雷の属性に多いらしい。
最近は雷属性の応用で瞬発力と反射神経が常人離れし始めたので逃げ始めるともはやアダムくらいしか捕まえられる人がいない有様だ。
「お家ついたよー」
「はぁい……」
頭のクールダウンができてきたのかティナはルナの言葉にまともに反応した。
ぐったりした様子なのは変わらないがルナにひっついて頭をぐりぐりとおしつけている。
「この時間だと家につくと仕事ふられちゃう……どっかよろうじぇ」
「日が沈むまで時間を潰せるところなんてあるの?」
「わかんにゃい」
ライトナの性格からして直帰すると仕事が待っているのは間違いない。
ルナとしてもあまりよその家の仕事に首を突っ込むのは良くないとおもっていた。
しかし彼女はそんなことお構いなしだろうし、ルナは既に気に入られてしまっている。
そうなると面倒事が増えるのは間違いないのだ。
「とりあえずどこか喫茶店でも……」
「それなら私もご一緒させてもらえるかしら?」
ルナがユピトール商会のある区画へ続く大通りで考えていると不意に誰かの声が。
声の方向に目を向けるとディエが立っていた。
どうやら少し前にユピトール商会から出てきたらしい。
「昨日のお姉さん!」
「昨日ぶりね、おかげでユピトール商会でお得な取引ができたわ」
「歌手の人だっけ?お初~」
ティナがうにゃうにゃしながら言うのを笑顔で見ながらディエは近くの喫茶店を指さした。
「あそこでお茶でもしましょう。自己紹介もしたいし」
「いいね、それ!いこうじぇ」
ティナが二人の手を取ってぐいぐいと歩き出した。
こういった時にまったく物怖じしないのが彼女の凄いところである。
「さてさて、それじゃ自己紹介タイムといきますかね」
喫茶店に入るとティナは店員に元気よく挨拶を投げるとすぐに一番奥の席に陣取った。
長居する気満々である。
「私はティナ!ユピトール商会の跡取り娘さ!」
「元気な子ね」
「おうとも!元気はママ譲り!頭使うのは苦手だけどね」
すんませーん!お茶!と店員に注文を言いつつティナはマイペースに話を続ける。
「おねーさんが噂の歌手の人だね?」
「そう、私はディエ・ヴァトワル。楽団を率いる歌手よ」
ティナと話しながらも時折ディエはルナの事を観察し、情報を得ていく。
「アナタは?」
「私はルナ・フラウステッドです。ティナちゃんとはお友達ですよ」
「ズッ友さ!」
ルナが笑顔で応えるのを見てディエは名前を頭の中で反芻する。
(ルナ・フラウステッド……、名前も普通な感じよね。いかにもな悪魔っぽい名前でもないし)
やはりここでは身分を隠しているのか?と思いつつも焦らず会話を続けていく。
「ティナさんが私を探していたのは親御さんの事情だろうけど、ルナさんが私を探していたのって?」
「ママが強引に頼んだんだよぉ、ルナちゃんは運が良いから事が上手く運ぶだろうって」
「そうだったんですか」
ルナが昨日言っていたことと差がなく、ルナ自身が自分を追いかけていたわけではない事を知ってディエはホッとした。
悪魔に敵意を持たれて探し回られていたらこうしてお茶をしている場合ではない。
その可能性も捨てきれていなかったために昨日はよく眠れていなかったのだ。




