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嘘からでたなんとやら

ディエが内心でビビりながら言い訳を並べた後。


(だ、大丈夫かしら……?)


目の前の少女ことルナのなにやら疑うような視線やわらぎ、やや緊張した表情がへにゃっとした顔になった。


「そうだったんですか!」

「ほへ?」


笑みを浮かべてちょうどよかった、とルナは言う。


「実はユピトール商会の人に貴女の事を探して欲しいって頼まれてたんです」

「ユピトール商会?」


ユピトール商会はディエも知っている有名な商会だ。

かつて支社にチラシの配布を依頼したこともあったはず。

そう思い、ディエは内心でホッと胸をなで下ろした。


「そうだったんだ、よかったぁ……」

「?」

「街に着いたらやることがたくさんあるからね」


色々と思うところはあるが自分を探している理由がわかりディエはさらにホッとした。

大きな商会があれこれと用意してくれるなら設営もグッと楽になるはずだ。


「実を言うと楽団の皆が隣町から移動するのに手間取ってて宿も取れて……あっ」


夕闇の迫る中、ディエは宿をまだ確保していないことを思い出した。


「しまった!宿取ってない!」

「泊まるところ無いんですか?」

「あぁ~……迷ってここまで来ちゃったからぁ~……」


夕方より遅くなると部屋が無い可能性が高い。

大聖堂では礼拝堂などが無料で解放されているが寝具などは貸してくれない上に街のど真ん中で野宿同然の扱いになるため非常に恥ずかしいのである。


「うーん、それじゃあウチに来ますか?」

「えっ?いや、流石にそれは……」


非常識な上に悪魔の家となると何が飛び出すかわかったものではない。

それに普通に悪いし。


「それじゃ、とりあえず街に戻りましょうか?」

「一人で……」


一人で大丈夫と言いかけてディエはしまった。と口をつぐんだ。

道を聞こうとして言い出せずついてきてしまったと口走った都合上今更大丈夫ですとは言えない雰囲気だ。

この少女の正体がどうであれ純粋に心配してそうな感じでもある。


「すみませんけどお願いできますか……?」

「いいですよ」


二つ返事である。喜ぶべきか怖がるべきか。

悪魔と顔なじみになってしまったことに嬉しさ半分、怖さ半分である。

目の前の少女と連れ立って街へ向かう中、時折他愛のない話をしつつ歩き続ける。


「宿場となるとここらへんでしょうか」


街には様々な理由で宿泊する人がいる。

大聖堂が目当てであったり、富裕層の相手であったり、商売の契約の為にやってきた人たちであったりだ。

値段のランクも様々で、ルナは当然これらを利用したことはない。


「どれがいいかまでは流石にわかりませんけど……」

「いえ、ここまで連れて来てくれただけでも十分だわ」


ありがとうね、とディエが言うとルナは笑顔を見せた。


(この子、悪魔なのよね……?)


会話や仕草から彼女が心根の優しい、純朴な少女であることがわかる。

演技の可能性もあったが、それでは隠し切れないものがある事はディエにもわかる。

なんというか、とにかくふわふわした雰囲気を放っているのだ。

ディエはとにかく底が知れない気分になり、なるべく平静を装って宿場に歩を進めた。


「それじゃあユピトール商会でまた会いましょうね!」


少女の声に手を振り返して笑顔で応えると少女も笑顔で手を振った。

これだけなら確かに、良い感じの人と会えた日で終わったのだ。


「……うそでしょ」


どうにか借りられた部屋でベッドに腰掛けると先ほどのレンズを取り出す。

ズボンのポケットに入れていたらとにかく嵩張るので鞄に戻そうと思ったのだが……


「濁って、罅が……」


レンズが焼け付いたように黒く濁り、耐えきれないとでも言いたげに罅が走っていた。

観測用の魔道具は稀に許容範囲を超えた存在を観測すると破損することがある。

あの少女はまさしく人知を超えた怪物であったのだ。

そんな存在に顔を覚えられてしまったディエはその晩、恐怖からなかなか寝付けなかった。








「えっ、歌手の人に会ったんだ?」


翌朝学校にてティナはルナが昨日出会った女性、ディエについての話を聞いていた。


「うん、ティナちゃんのお母さんの言う通り街に来てたみたい」

「へー、どんな人だった?」

「なんだか華やかな雰囲気で大人の女性って感じだったよ。ちょっと変わった人だったけど」


変わった人?というティナの言葉にルナは感じた違和感を述べる。


「なんだか何か、怯えてるっていうか、こっちに遠慮してる感じというか……」

「ルナちゃんが商売敵に成り得る逸材と見抜いた感じか……」

「そんなバカな……」


ティナの冗談を聞き流しつつルナは今日もティナの補習授業に付き合う。

今日はどこまで耐えられるだろうか。


「うぎゃーん!」

「こらー!逃げるな!」


一時間ほど経ったらティナが悲鳴を上げて教室を逃げ惑い始めた。

まるで予防接種から逃げる猫かなにかのようである。


「どうか、どうか私の成績表はイチイの木の下に……!」

「証拠隠滅しようとするな!改善しようとしろ!」


アダムが腰に縄を巻きつけてティナを椅子に縛り付けている。

ティナはべそをかきながら机に向かわされていた。


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