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ディエの悩み

何がなんでも悪魔を召喚する!


ディエはそんな父と叔父の意地に振り回されて生きてきた。


「はぁ……」


一カ所に定住も出来ず、長らく流れの楽団のような形で活動を続けて来た。

そしていつまで経っても出ない成果とは裏腹にコツコツと活動を続けてきたディエは歌手としての頭角を現してきたのだ。

今となっては悪魔崇拝の後援や寄付よりも彼女の稼ぎが一団の台所を支える状態である。

それでも彼女が父と叔父に従っているのは悪魔崇拝の一団が楽団の構成員として彼女の活動を初期から支えてくれていた恩義からであった。


「最初は道の端っこを借りて歌ってたっけ……」


宿を探す途中、ふと目に映った酒場。

テラスで食事を取るお客の為に楽器を弾いている演者が目に留まる。

かつての自分も一団の協力の元、拙い演奏と歌唱でドサ回りのような活動をしていた。

その時に営業と宣伝とサクラを一手に引き受けてくれていたのが父と叔父の率いる一団だった。


「懐かしいな……」


今は楽団とその設営グループを養えるだけの収入を稼ぎ出すまでに成長したディエとその楽団であったが……。

そうなると収入でも続ける意味でも副業が本業の悪魔崇拝を上回ってしまった。

楽団の中にはディエをサポートする方向性は揺らいでいないものの悪魔崇拝などどうでもよくなったと公言する者まで出て来てしまった。

彼らが父や叔父を見限らないのは一重に付き合いの長さとディエの血縁だからという理由が強い。

今でも小さくない不満を述べながら得た利益の一部を悪魔崇拝の儀式や集会の為に積み立てている。


「……」


溜息をつきながらディエはポケットの中から金属製の箱を取り出した。

掌に収まる小さな金属の箱は少なくない金額を投じて買い求めた魔道具。

箱を開けると中にはコンパスの針がくるくると回っていて、まるで何かを求めるようにあてどもなく動き続けている。

悪魔かそれに類するものが居ればそれを感知するものらしい。

悪魔は時折、それもかなり低い確率ではあるが地上に姿を現していることがある。

この魔道具はその悪魔にコンタクトを取るためのもの。

成功するという以前に話を聞いてもらえるかどうかもわからない博打以前の問題があったが召喚すらできていなかった一団にとっては藁にもすがる思いで買い求めたもの。

それを後継ぎであり、先頭に立って各地を放浪するディエが持っているわけだ。


「こんなものが何の役に……」


機能しているのかも怪しいこれを何度投げ捨ててしまおうと思ったか。

この魔道具にかかった資金でどれだけ皆に楽をさせられただろう。

まるではっきりとしない自分の立ち位置を示すかのようにぐるぐると回るコンパスの針はいつものように回る


はずだった。



「あ、あれっ……?」


不意に意思を持ったように針は一点を示した。

ディエは慌ててその方向に視線を向ける。

夕闇が迫る中、人通りは皆が帰路を目指して進む中に一人の少女が歩いているのが見える。

コンパスが指し示す一点。それがその少女に向けられている。


「……」


人懐っこい笑みを浮かべて歩く少女はそのまま街を抜けて丘へと向かっていく。

ディエは宿へと向かいたいとは思いつつもその少女を追って、きた道を引き返していった。


「ここら辺ならこれを使って……」


ディエは怪しさ満点ながらも人がほとんどいなくなった道で少女をレンズで捉えた。

ルーペのように加工されたレンズは少女を捉えると焦点を合わせ、彼女の後ろ姿を映し出した。


「……!」


そして、その姿がやがて少しずつ滲み始め……。

やがて少女の背中から蜘蛛の脚が飛び出し、その下半身が百足のそれに形を変え、異形の姿へと変じていくのが映し出されていく。


(う、うそ……)


眉唾だと思っていた魔道具がちゃんと動いた事にも驚いたが目の前の少女が異形の怪物、悪魔であると知った時の衝撃は大きなものであった。

レンズを外して目を擦ってみると少女はそのままだがレンズに映る映像は確かに目の前の少女を怪物だと示している。


「むっ!」


ディエがあたふたしていると前を歩く少女が突然声を上げたかと思うと周囲を見渡し始めた。

呆然としていたディエは慌ててレンズを掌に握りこんで隠すと帽子のつばを掴んで目を隠した。

明らかに怪しい行動だが後ろをついてきているのと正体を探っていることではバレた時の重大さは比べるべくもない。


「あの、貴女はどなたですか?」


そんな自分に少女の声が。

バレたのは間違いない。しかしどちらがバレた?

そう思っておそるおそる顔を上げると目の前の少女は何時の間にか手が届きそうなほど近くまで来ていた。


「え、えっとね!私、歌手をやってる者なんだけど」


そう言ってディエは少女に困っている風を装って話をすることにした。


「歌手?もしかして隣町から来た?」

「え?ええ!そう!そうなのよ!それでね、この街の事がわからなくて……宿泊施設とか尋ねようと思ったけどもうこんな時間だし、聞いていいか迷ってる間にここまで来ちゃって」


あは、あはは……と言い訳を重ねながら苦笑いを浮かべるディエ。

苦しい言い訳だったが……?


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