お手伝いしましょう!
ライトナはルナが押しに弱いと見るや目を光らせる。
「ルナちゃん!ちょいと頼まれてよ!」
「えっ?」
そう言うとライトナはチラシを取り出してルナに手渡した。
「これは?」
「隣の町に配達に行った店の人が手に入れてきたの」
チラシには歌手の公演の予定が書かれており、日付から見るに隣町での公演は終わったようだ。
「これをどうしたらいいんですか?」
「連絡によるともうじき歌手のマネージャーが街に会場の下見にくるかもしれないのよ」
なんと恐るべき情報網か、ユピトール商会はその歌手のマネージャーの動向まで掴んでいるらしい。
「それで……?」
「ウチなら会場も設営も格安で出来る!って売り込んで欲しいのよねぇ」
次の公演に備えて会場を吟味するため、マネージャーがやってくるのに備えてユピトール商会の名前を売り込めというのだ。そんな事を素人のルナに任せてもいいのだろうか?
「ママの博打好きが始まった!ルナちゃんに迷惑かけないでよぉ!」
「アンタに任せたかったけどどうせサボるでしょ!勉強も良いけど本業もちゃんとしなさいな!」
「私は補習の真っただ中なんだってばさー!」
ぎゃいぎゃいと言い合いをしている二人を他所にルナはこてんと首を傾げた。
「博打好き……?」
「ママは人にチャンスを配るのが大好きでさ、上手く行きそうな人を見つけるとガンガン仕事を振るから大変だよ!」
「こういう経験は買ってでもやるべきでしょ、運のいいこの子ならきっと良い流れを運んでくれるよ!」
「もーーー!!」
まるで猫の威嚇のように二人は時折声を上げながら言い合いを続けている。
ティナはなんだかんだ言って誰かに迷惑が掛かるような事になるとちゃんとブレーキがかかる性格をしている。
それが家族や友達であれば猶更だ。
「歌手ってどんな人です?」
ルナの背後に隠れたまま抗議するのでティナの動きに合わせて左右に揺れながらルナは尋ねる。
「綺麗な女性だっていうよ!歌声も一級品!今の内に贔屓にしてもらえりゃ何かと利を運んでくれるさ!」
「ダメだよルナちゃん!興味持ったら次いでに仕事が絡んでくるから!」
「まあまあ、いいじゃない。ティナちゃんのお母さんの頼みだし」
ティナの警告を他所にルナはのほほんとライトナの頼みを受け入れることに。
「でももういい時間だし、探すと遅くなるかもしれないから明日でもいいです?」
「頼む側があれこれと指図はできないからね、そこらへんは好きにしてくれていいよ」
ただしお早めにね、できれば二、三日。と好きにしてといいながらもきっちりと期限は切ってくる。
「歌手ってどんな人なんだろうねぇ」
「知らないぞぉ、これで終わるような人じゃないんだから」
ルナの頭はもう歌手に対する好奇心が大半を占めている。こうなると手間がかかるくらいではルナは気にしない。
ティナはそんなルナに呆れつつもこうなったら自分も付き合うしかないとあきらめた。
ライトナは名うての商売人であり、商会を取り仕切る女将的な立場だ。
ティナがルナの為に付き合って動くことなどお見通しだったのかもしれない。
「ほんっと何なのかしら……」
街にたどりついた一人の女性が目深く被った帽子に手を乗せながら空を見上げた。
日がもう傾きかけている。そろそろ泊まる場所を探さないといけない。
案内の無い街での事、これからの仕事の事を考えると疲労が顔を覗かせる状態だ。
今日はもう無理せず休むべきだろうか。
「父さんも叔父さんもどうかしてるわ」
女性はそう呟きながら父親と叔父の言動に不満があるのかぶつぶつと呟きながら街を歩いていく。
「正直に白状して誤解を解けばなんとでもなるのに……」
彼女の名前はディエ・ヴァトワル。今をときめく女性歌手であり、ルナ達が話題にあげている人物でもあった。
彼女は隣町での公演を成功裏に終わらせ、利益を上げながらも家族を取り巻く問題に頭を悩ませていた。
「先祖から続けてきた悪魔崇拝に熱をあげるのはいいけど、呼んでもない、契約してもない悪魔の為にした儀式で行政に目をつけられるなんて……」
彼女の両親は悪魔崇拝者であった。しかしそれは悲しい事に自称であり、彼女の両親は今の今に至るまで悪魔と契約することはおろか呼び出す事すらできていない有様だった。
どうして悪魔を呼び出せていないのか、その理由は彼女にも謎であったが父と叔父は召喚士として祖父や曾祖父の代から活動してきたはずだったがいっこうに悪魔と邂逅することは叶わず、その度に自分達についてきてくれる人々に口八丁で先延ばしにしてきたのだ。
そしてその内に引っ込みがつかなくなり、ただでさえ失敗続きであるのに高位の悪魔を呼ぼうとしては失敗を繰り返していた。
(そして終いには行政に目をつけられてることすら言い訳に……)
自分達は行政が目をつけるほどの悪魔を呼ぼうとしている!と信者たちに吹聴して時間を稼いでいるがその事も相まって余計に自分の首を絞めているのだった。




