商会へ行くと?
エルドが怪しい悪魔崇拝者を調べ始めた頃。
「うぎぎぎぃ!」
「……ぼちぼち限界か」
アダムは寄声を上げたティナを前に課題の進行度合いを見てテキストを閉じた。
「今日の所はこれくらいで勘弁してやろう」
アダムはそう言うとティナの目の前でひらひらと手を振ってみる。
「むーん!」
「重傷だな、普通の授業のはずなのに」
日は少し傾き掛けている。
少しばかり時間には余裕があるがこの状態のティナに何かを教えた所で無駄だろう。
「フラウステッド、悪いがユピトールを送ってやってくれないか?」
「わかりました!」
「すまんな、頼んだぞ」
相変わらず二つ返事で了承するルナに軽く礼を言いつつアダムはテキストの内容を見直し始める。
人によってテキストの教え方を変えなければならないのは難しいことであるが教師として必要なことだ。
残念ながらティナは座学に関しては嫌いと苦手が同時に存在しているので根本的に学徒らしからぬ性分である。
そのためそれを上回って座学に興味を持たせるにはかなりの工夫を要するのだ。
「実験中心にするかぁ……?」
アダムがあーでもないこーでもないと悩み始めたのを他所にルナはティナを抱えてティナの家を目指していた。
「シジルのミノキシジル!」
「なんのこと?」
勉強のしすぎかあらぬことを口走っているティナを連れてルナは街を歩く。
(考えたらティナちゃんのお家にいくの初めてかも)
ユピトール商会、それはこの街でも有数の商会であったはずだ。
『鉛筆から建材まで、パンからケーキまで、奇貨珍品なんでもありますトンカラリ』
なんてフレーズを歌いながら歩いていく宣伝の楽隊が居た気がする。
ティナによると商会の人間が宣伝と商売のタネを探す為にやっているのだそうだ。
目ざとい人々は彼らが歌う中でその目がまるで獲物を探す様に動くのを見つけるだろう。
「ここらへんだったっけ」
ルナは途中からまるで蔦のように自分に巻き付いて頬を寄せているティナを軽く抱えて歩き続ける。
グレートソードに比べれば紙のような軽さだ。そう思いつつ。
「あった、ユピトール商会」
大手商会や富裕層が集う経済区ともいうべき場所の一角にユピトール商会は鎮座していた。
他の建物が住居としての機能を有しているにも関わらずユピトール商会は看板以外はまるで倉庫のように飾り気がなく、その建物にはもうじき夕暮れの時間帯にも関わらず忙しなく人や物、馬車と荷車が動いている。
「活気にあふれてるなぁ……」
「忙しないだけだよぅ」
ティナはそう言いながら今度はルナにおんぶの形でくっついた。
「とりあえず家にはついたみたいだけどどうするの?」
「ママ上に会わないようにして家に入るよ」
「お母さんに会わないようにするの?」
「日が沈む前に会うと絶対仕事振られるから」
ティナがそう言ってこそこそと動き出した刹那。
「いーいとこに帰ってきたな!我が娘よ!」
「ぎゃー!」
倉庫の入り口を思わせる商会の玄関からティナにどこか似た雰囲気の女性がやってきた。
「ママ!私は疲れてるのだよぉ!」
「何言ってんの!まだお日様が照ってるだろうに!稼げよ我が娘!」
「うぎゃーん!」
ティナは女性から逃げるようにルナの後ろに隠れた。
女性は手をワキワキさせながら近づいてきていたがルナを見るとあら?と立ち止まった。
「アナタもしかしてルナちゃんかしら?」
「そうですけど……」
ルナがそう言うと即座に距離を詰めてきた。
ルナが面食らっていると女性は笑顔でルナの手を取って笑顔を浮かべた。
「ウチの娘のズッ友って聞いてるわよ!ありがとね!こんなバカに優しくしてくれて!」
「は、はぁ、まあ……」
「私はあの子の母親、ライトナよ」
よろしくね、と言いつつライトナはさらにずいと詰め寄った。
「あなたね?この街にワイルビーとの航路を作ってくれたのは!」
「えっ?そうなんです?」
「ワイルビーのイシシと言えば海外貿易とその航路を牛耳る船団の長なのよ!あの大男と組めたら舶来品がたくさん仕入れられる!塩もそう!」
ティナは色々と伏せてはいるものの、前回の旅行でワイルビーのイシシと友誼を結んだ事、船を新たに手に入れた事で貿易路が増えた事を母親に伝えていたのだ。むろん教えなかったとて聞き出されるのだが。
「イシシさん学校に来てたけどそんな事してたんだ……」
「そうよぉ、それでいてそんな人に気に入られたあなたも当然凄い人って奴よ」
ライトナはルナの素性をどこまで知っているのか、ルナの顔を興味深そうに見ている。
ルナは旅行の際、途中からウェパルに連れ去られたり色々していた為に知らなかったのだがイシシは塩を売りに来るついでに魔法学校にきていたのだ。
その塩を魔法学校の食堂にも卸すことで授業料の免除と学校への出入りを許可されている。
業者兼生徒扱いになっているわけだ。
ちなみにくしゃみで能力が暴発するためアダムの負担が激増している。




