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街の噂

剣の発表会から数日が過ぎ、ルナは魔法学校でいつも通りの生活を送っていた。


「うぎゃーん!」

「ユピトール!課題を終わらせるまで帰れないと思え!」

「家族が心配するってばさー!」

「寮があるから心配するな!泊まり込みでやれ!」


教室ではティナが悲鳴を上げている。座学に関して落第組の彼女はいつもアダムがつきっきりで補習を行っているがその成果は芳しくない。

感覚派の魔法使いは座学と魔法の感覚を結びつけることが難しく、教科書で説明されたことと実際の魔力の感覚が乖離している為に結局暗記してテストを乗り切ったらその知識は使わなくなる。


「あららぁ……」

「ルナちゃんたちけて」

「毎回助けてるよ、テストの前とか」

「宿題丸写ししてたの知ってるからな!この馬鹿が!」


ルナに助け船を期待するも藪蛇だったようだ。怒り顔のアダムはティナの頭を掴んで左右に振っている。


「たちけて」

「とりあえず夕方まで付き合うからがんばろ」


ティナが小刻みに震える中、ルナはやれやれといった様子でティナの補佐を買って出た。

アダムも一対一だと時折脱走を図るティナを捕まえてくれるルナが居ると助かるので何も言わなかった。






「悪魔崇拝?」


所変わって魔法局。その建物の中にあるカフェでルナの父エルドは治安維持部隊の元同僚と話をしていた。

どうにも怪しげな相手ではあるが得たいが知れず、不透明な行動履歴から要注意の組織だとのこと。


「そうなんだ」

「しかし悪魔崇拝か……」


エルドは少し悩んだ。魔法局としても悪魔崇拝には目を光らせたい案件だ。

しかしながら悪魔全員が悪事を働くとは限らないので彼らが規制をおいそれとかけるわけにはいかない。

生活に根付いていたり、商業のパートナーだったり、物作りの補助だったりと色々なところで悪魔が関わっているので下手に規制すると産業に与える影響が大きいためだ。

厳しくすると善良な市民が困り、悪党は手を変え品を変え悪事を働く。

いつの世も変わらない事だ。


「しかし銀の黄昏の件が円満に解決したと思ったらこれか」

「そう言わないでくれよ、しかしその悪魔崇拝の組織というのがとにかく手掛かりが少なくてな」

「どういうことだ?」


エルドが不思議そうに尋ねる。

この世に完全なる秘密など存在しない。しかも治安維持部隊が調べて回っているのに手掛かりがないなどそうそうあり得る話ではない。


「崇拝している悪魔がなんなのかわからないんだ」

「そんなバカな、悪魔崇拝者の集まりなんだろう?」


エルドの言葉に同僚も困ったように頷いた。


「集会を開き、怪しげな連中が集まっては何やら祈りを捧げたりシンボルを作ってみたり……してるんだが」

「なのにわからないのか……」

「その場に残していくシジルにも特徴というか、資料に載ってる悪魔に一致したものが無いんだ。下手をすると集会ごとに変化してたりする」

「愉快犯じゃないのか?」


くだらないことではあるが治安維持部隊を引っ掻き回したというのは悪党連中、特にごろつきなどが箔をつけるにはもってこいの実績だ。

しかしそれを同僚は首を振って否定した。


「いや、それにしちゃ人数も多いし大がかりな物もあるんだ。ごろつきや愉快犯がやるには人数もなにもかも規模が違いすぎる」

「……確かにそれは困った案件だな」


エルドはそう言いながらカフェの店員が持ってきたサンドイッチを掴むと豪快に一口で食べてしまった。

店員がドン引きしながら持ってきた皿をそのまま回収して帰っていく。


「うーむ、しかしそうなると周りを調べる事が必要かもなぁ」

「周りか」

「本体がいかに不透明でも、動きがあればそれに連なる物も動く。その組織が動く際には必ず同じように動く人や物の流れがあるはずだ」

「そうだな、視点を変えてちょっと当たってみるよ」

「そうするといい、何か力になれたなら上等だ」


ありがとうよ、と同僚がそう言って立ち上がった。その際に店員に何やら話していたがどうやらエルドの分も払ってくれたようだ。


「しかし悪魔崇拝か……」


治安維持部隊が問題視するということは規模の大きい集会や悪魔との交信を試みた形跡があるにも関わらず役所や魔法局の届け出がされたという記録が存在していないのだろう。

その大多数か、あるいは全てが手続きを経ない無許可なものであることが原因だと思われる。

神官や聖職者の質が落ちてきている現状では悪魔の力を悪用されると対処が非常に困難になるのだ。

悪魔達もそれを知っていて誘惑する者もいるが産業に食い込んだ古株の悪魔達の既得権益維持の為の圧力は強く、また大悪魔が秩序を重んじるスタンスなので悪魔側からのアプローチは少ない。

チンピラ程度の悪魔が小遣い稼ぎに悪さをする程度なのだ。

しかしその程度であったとしても悪魔の力は侮れず、魔法の力を素人や素養の無いものでも扱えるようにするくらいは造作もない。

そうなると即席の暗殺者や工作員が容易く作れてしまう。これが厄介だった。


「こちらでも少し探ってみるべきかな」


エルドは席を立つと街に悪魔崇拝疑惑のある組織とそれに付随して動いたであろう人や物の流れを洗うことにした。


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