道に連れ添う
目の前の少女は剣についてはともかく、自身が扱う物に関してそれなりの考えを持っていると老人は思った。
剣心と銘打ってはいるがその発表の場に相応しいと言える心根を持った出場者は少ない。
そしてそれに剣を実際に扱い、鍛えることの出来る人材となるとさらにであった。
「さて、少なくともお嬢ちゃんは剣を振るう事、扱う事に関しては悪くない考えを持っているのぅ」
「そうですか?」
「うむ、剣はどうあっても何かを傷つけるものじゃ。しかしお嬢ちゃんはその剣を卑下することも妄信することもなさそうなんでの」
剣は英雄が携え、振るう事でしばしば神性を帯びる。
言ってしまえば人や物を斬るためのものにである。
そしてそれらを帯びた剣は金になる。
それはどれをとっても生臭い欲望と結びつく。
だが目の前の少女は剣を自分の傍らにあるものとする事で身近でありながら大切に、大切にしながら過分に信仰せず。
ただあるがままに剣を傍に置いているのだ。
泰然自若、そう言った言葉が今の彼女の剣に対する立ち振る舞いに近いのではないか。そうとさえ思える。
(賞やらなんやらはこのような子にぽいと上げてしまうのがいいのかもしれんなぁ)
なんて、老人は考えてしまう。薄汚い欲望に駆られた大人や薄っぺらい知識と理想に振り回される未熟者が相手ならばいっそ彼女のようにただ「やったぁ」と喜んで終わりにしてしまいそうなあっけらかんとした善人にあげてしまえばいいのではないかと。
「それで狂わせてしまっては申し訳ないのでできないのじゃがの……」
「?」
色々と思うところはあるが問答の時間はもうそれほど残されていない。
なにしろこれから何人もやってくるはずなのだ。
「さて、名残惜しいが最後に質問じゃ」
「はい!」
むん!と気合を入れた様子のルナに老人は一呼吸おいてから尋ねた。
「君にとっての道具である剣が人を斬った時、君はどう考えるね?」
「斬るのは人が為したこと、剣はそれに寄り添うだけです」
「すべては使う者次第というわけじゃな」
ルナの言葉に老人はふむ、とそれを肯定するように頷く。
しかしルナはそれに対してただ……、と付け加えた。
「剣を作った人が友達や家族で、それが意図せず血に塗れたなら残念には感じるとおもいます」
「……そうか、ありがとう。問答は以上じゃ、合格にしてあげよう」
老人の言葉にルナとクインクは顔を見合わせると笑顔で頷いた。
「「ありがとうございます!」」
「ほっほっほ、それじゃあ結果と発表会は後で剣の作り主に送るから待っておいてくれぃ」
「わかりました!……えっ?」
聞き捨てならない言葉にルナは聞き返した。
「剣新会の発表、その予選なんじゃよ今回は」
「予選といいますと、じゃあ本選は?」
「今回の合格者に舞台上に上がって発表してもらうことになるかの」
あ、それと服装規定あるぞい。と老人は詳しい事を書いた紙を渡してくれた。
「本選にも代理で出るなら目を通してくれい」
「わかりました……」
服装規定というので若干嫌な予感がしたルナだったが紙を貰って会場を一足先に出ることに。
「ふうっ、とにかくこれでテイロス君のお願いはやり遂げたかな!」
「お疲れ様です、御主人!」
会場を出て受付があった広場に戻ってきたルナはクインクと共にテイロス達が剣の新発表会から戻ってくるのを少し待つことに。
「おーい!」
そうしていると会場からテイロスとダズが笑顔で出てくるのが見えた。二人はルナを見つけると手を振ってくれる。
「テイロス君、ダズ君、お疲れ様」
結果はどうだった?と問いかけるルナに二人は笑顔でサムズアップをする。
「一等賞、とはいきませんが審査員が特別枠で賞を用意してくれるそうです」
「へえ!凄い!初参加で入賞なんだね」
おそらくプロも参加しているであろう大会で初参加にも関わらず入賞できることが約束されているというのは大健闘だろう。
皆が嬉しそうにしている中、テイロスはルナの首尾を尋ねた。
「それで、ルナちゃんはどうだった?」
「はい!私も大丈夫でした。本選で剣を発表していいらしいです」
「本選なんてあったのか」
どうやらテイロスも今回が予選であり、人数を減らすための物であったことを知らなかったようだ。
そしてルナが老人から手渡された紙を呼んで本選への参加のための必要事項を読み上げていく。
「ええと、本選に剣を持って集合……」
「ああ、そう言えば服装規定もあるとか」
ルナがそう言ったのでテイロスは要項の中の服装規定について探し始める。
すると……
「ええと、可能なら鎧着用か……」
「鎧?」
「事前に借りられる店もあるらしい。大会参加者は無料だとかなんとか」
皆が鎧の費用を心配していたが本選に出る人は鎧を貸し出してくれるそうだ。
「本選か……」
「どんな感じなんだろうね」
「楽しみですね」
四人は剣心発表会の本選に思いを馳せる。
一体どのような催しになるのかと期待を膨らませる四人。
「えっと、これは?」
「ビキニ……アーマーかな」
「他は?」
「無料となるとちょっと……」
「じゃあいいですぅー!」
そして発表会の日、テイロスと鎧のレンタル店に来た際店にある唯一の女性用鎧が仮装用のビキニアーマーしかなかったためルナは即座に逃亡した。
「あの、どうしましょうか」
「自分が出場するんで鎧をお願いします……」
「ビキニのですか?」
「そんなわけあるか!」
逃げたルナの背中を見送ったテイロスは店員にそう言ったが、店員がビキニを手に聞いてきたので泣きたくなった。
結果としてテイロスは両方の大会で好成績を残せた。
ただ一人、あの老人だけがルナが舞台に姿を見せなかったことを最後まで残念がっていた。
……色んな意味で。




