剣とは何かを問う その2
ドルトンはしょんぼりしている二人の肩を叩く。
「まぁ、そう気を落とさないでくれ。私の裁量で君達に特別枠で何か賞を用意する」
「ホントですか!」
「刀身に比べたらこの鞘と柄と柄頭の素材はカスカスのカスだが刀身は素晴しい」
「……複雑」
二人のテンションはドルトンの言葉で乱高下。
内心ちょっと面白くなかった周囲の参加者もドルトンがあまりにあけすけに物を言うのでちょっと可哀想な感じになった。
「何ていうか、ほら、あるだろう?ドブに落ちても宝石は宝石だって」
「無理して褒めなくていいんですよ?」
「すまない、だが刀身が良すぎて他の酷さが際立つんだよ」
なんか嫌なことでもあったんですか?と言うダズの問いかけに年配の審査員は即座に目を逸らした。
どうやら実用性皆無の剣ばかり鑑定していたのでドルトンはストレスが溜まっているようだった。
「失礼しまーす」
ルナが案内されたブースに入ると中には小柄な老人がブースの中央に置かれた机に向かっていた。
「おお、こんな大会にお嬢さんとは珍しい」
「こんにちわ!」
「こんにちは!」
老人はルナとクインクが挨拶をすると笑顔で頷く。
見た感じは好々爺と言った様子で、薄くなった頭髪と長く白い髭が特徴的である。
「さて、それでは簡単な問答をしようかと思う」
それが最終試験じゃ、と老人は言う。
ルナは老人と向かい合うと抱えていたグレートソードをどうしたものかと周囲を見渡す。
「ああ、すまんね。その剣はこの机においてくれんかね」
「あ、はいわかりました」
ルナがグレートソードを机に置く。当然ながら机からはかなりはみ出し、重量からか机が軋んでいる。
「ほっほっほ、こりゃまた大物じゃわい」
「力作です!」
「お嬢さんが作ったのかえ?」
「違いますが……友達が作ったので力作だと思います!」
まるで孫と祖父である。そんな感じの緩い話をしていると
ペシャッ!
「「「わあっ!」」」
机がつぶれて三人が尻もちをついた。
剣を乗せるには強度が足りなかったようだ。
「「「びっくりしたぁ……」」」
ルナとクインクが立ち上がって老人を支えて立たせる。
「大丈夫ですか?」
「おぅおぅ……ありがとうよ、しかし奴らめこんな脆い机を用意しよってからに」
老人は感謝を述べつつもこの机を用意した運営に不満を零している。
実際剣などの危険物を乗せるには強度も安定性も足りなかったこの机。
縦に潰れたからよかったものの横に倒れたり剣が動いたりしたら大変な事になっていたかもしれない。
「剣に傷がついたらどうしてくれるのか」
そう言いながら老人は床に落ちたグレートソードの刀身に触れる。
そして面の部分を撫でるとふむ、となにやら考え込む素振りを見せた。
「どうかしましたか?」
「ん?いやな、この剣は随分と飾り気があるような気がしての」
「飾り気ですか?」
老人はグレートソードの柄を掴んで難なく起こしたルナにちょっと驚きつつも頷いた。
「まるで子供を催し物に送り出すような感じじゃのぅ。精一杯綺麗な服を着せて……綺麗に整えてから送り出した、そんな感じじゃ」
ルナは少し不思議に思ったが、そういえばテイロスは美術品の方の発表会に自分を連れて行きたいと言っていたのを思い出した。改めてグレートソードを見ると剣の柄に使われている素材も手に馴染むように木製の柄にしっかりと樹脂を塗って光沢を出しており、老人の言葉を受けてから見ると親が子供に化粧をしてあげたかのようにも思えた。
「出る大会を間違えたんじゃないかね?」
「そう見えますか?」
「うむ、そもそもお嬢さんに持たせたのが何よりの証拠じゃて」
ほっほっほ、と笑いながら言う。
「しかしここまで来たのは大したものじゃ、お嬢さんは剣士の心得があるのかね?」
「私が、というよりは父がですけど……はい」
剣を杖にするような感じで支えるルナをまるで絵のモデルをみるように両手の人差し指と親指で箱を作って覗き込みながら老人は目を細めた。
「い~い絵になるぞぃ、まるで絵画から出てきたような見た目じゃて」
「御主人だから当然!」
クインクも真似してやってみるが上手に箱が作れていない。
それでもルナを見てどこか自慢げである。
「ところで……ここで何を聞いたらいいんでしょうか?」
ルナが本題に戻るべく尋ねると老人は笑顔のまま答えた。
「そうじゃの、お嬢さんは剣をなんと心得るね?」
「剣を?」
「そうじゃ」
ルナは剣を見やり、そして短く答えた。
「道具です」
「ほう、道具とな」
「ええ、仕事か、私事か……如何様な物かはわかりませんがその際にある道具です」
老人は思いのほかドライな答えに少し肩透かしを食らったような思いをしたが、同時に目の前のいかにも優し気な見た目の少女が言う言葉に何か含みがあると思い、深く問いかける事にした。
「それでは何故道具と?」
「ええと、不思議ですかね?」
「そうさな、出会ったばかりのワシが言うのもなんだが……少し冷たい言い方に聞こえたのでな」
そう言われてルナは確かに、と自分の言葉が足りなかった事を認めて言葉をつづけた。
「遠い東の国の言葉、その文字では道具の事をこう書くんですよ」
「ほほう、お嬢さん東の国に行ったことがあるのかね」
「ええ、それで……この文字を教わった時にこの文字に意味がいくつかある事がわかりました」
指先に魔力を籠めるとその軌跡を空間に浮かべ、空中に具という字を書いてルナは言った。
「これには『連れ添って歩く者』という意味があるそうなんです」
「ほほう」
それを聞いて老人はルナの言いたい事が理解できた。
「つまり、道具とはお嬢さんにとって『道に連れ添って歩く者』という解釈なわけじゃな」
「はい!」
そう言ってほほ笑むルナに老人も同じように微笑んだ。




