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剣とはなにかを問う

ドルトンは吸い寄せられるようにその剣の元へ。

途中で誰かが何かを言ったような気がしたがそれも些細なことだった。


「剣だ……」


ドルトンはそう呟いた。

斬る、突く、受ける。それらの動作を問題なく行う為の機能に特化した一本の剣があった。

飾り気のない柄と鍔、刀身に浮かぶ鮮やかな紋様だけがこの剣を彩っている。


「ふむ」


周囲のロバに絹織物を被せただけのようなけばけばしい物と違い、まるで駿馬に簡素な戦拵えの鞍を乗せただけのような飾り気のない一振りの機能美が光っていた。


「君がこれを?」

「そう……です」


大柄な体、太い腕、そして鍛冶の節くれだった指。

全てが職人としての雰囲気を放っている。

しかしドルトンには彼が思いの外若い人であることも見抜けていた。


「手が若いな、お幾つかな?」

「十六です」

「じゅっ……いっ!」


噴き出しそうになった年配の審査員を肘で黙らせてドルトンは飾ってある剣を見やる。


「素晴しい出来栄えだ、刀身はどのようにして加工を?」

「金属を調合するんです、溶ける温度の違う金属を混ぜて強度と両立できる割合まで混ぜて最初は鋳造します」

「金属を調合か……言うは易しだが」


どうやって?と言いかけた言葉を飲み込んでドルトンは刀身を見つめ続けた。

幾ら審査員でも作り方、その細部まで聞く事はマナー違反。

そしてそれ以上にそう尋ねる事は自分が真似できないと認めることでもあったからだ。


(実際、これは技術だけではそう真似はできないからな)


テイロスがこの金属紋様を作れるようになったのはルナのおかげである。ルナの百足形態の発する毒により金属を粘土のように柔らかくできる。それを利用して異なる金属を捏ねて混ぜ合わせ、その後型に入れて鋳溶かすのだ。

そうするとまだら模様のインゴットが完成する。

それを鍛造する段階で毒は融点が異なる金属のように分離して固形化し剥がれ落ちるのだ。

だだその際に熱の通りが不均等だったり、温度が低いと毒がインゴットの中心部分に残ってしまい剣を作れるだけの金属が確保できなくなる。

しかしルナが口寂しさに鉄の棒などを齧ってしまうことが多発したために毒と柔らかくなった金属には事欠かなかったためテイロスは日夜その配合を研究することができた。


「素晴らしい、この紋様だけでもかなりの価値がある」


ドルトンが剣をべた褒めするのでテイロスとダズは嬉しくなっていた。

苦労が報われるとはこのことであろう。


「ちょっと待ってくれ!それがそんなに良いものならこっちだって良いはずだろ!」


思わぬ高評価に危機感を覚えたのか先ほどダズに言い負かされた商人が剣を持ってやってきた。

柄頭に宝石がはめ込まれ、鞘も贅沢な彫り物が彫られた質のいい木製のもの。

宝石と彫刻にそれぞれ名うての職人が使われているのだろう。

しかしドルトンにはその飾りの中にある「剣」としての性能の優劣が比べるまでもないものであると分かっていた。


「君、ちょっとこれを借りても?」

「もちろん」


ドルトンはそう言うとテイロスの剣を手に取って商人の前にやってきた。


「これはかなり良いものだ、剣としてな。君のところのはどうかな?」


試してもいいかい?と尋ねるドルトンに商人は頷きかけたが隣に立っていた鍛冶師らしい男性が待ったをかけた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!これは展示用で……」

「うるさい!あんな地味な剣で何ができる!好きなだけ試してくれ!」


商人が鍛冶師を突き飛ばして剣を前に突き出した。


「この地味な剣を君の剣にぶつけるが……」

「問題ない!」


商人の了承を得てドルトンは剣を商人の剣に向けて狙いを定める。


「それでは遠慮なく」


軌跡が一瞬だけ煌めいた。

その後キンッ、と透き通った音が鳴った。そして少し遅れてカラーンと金属が床に落ちる音が響く。


「あ、なっ……」

「ふむ、比べるまでもないと思ったが……」


素晴らしい。とドルトンは刃の出来栄えに目を細めている。

対する商人の剣は半ばで断ち切られ、鍔につけていた宝石ごと刀身が切り落とされていた。


「いやあ、すまないね。試し切りなんてさせてもらって」

「ま、まさか……」

「だから言ったでしょうに……」


呆然としている商人を他所にドルトンは自らの目利きとそれに惹かれた感覚が間違っていない事を再確認して上機嫌で剣の鋭さと傷一つつかない頑丈さを確認していた。


「ふぅーむ、だがしかし惜しいな」


ドルトンはそう言うと棚に剣を戻してテイロスとダズに向かいあった。


「惜しいとは?」

「刀身以外が赤点といったところだ。心当たりはあるね?」


そう言われてダズとテイロスは顔を見合わせてバツが悪そうに目を逸らした。

個人で参加している二人は常に金欠なのである。ルナが研究材料を、ティナが屑鉄のついでに素材を集めてくるのをちまちまと集めて剣を鍛えている二人は上質な金属を集めるだけでも苦労していた。

ダズは交渉役としては優秀だったが体力が乏しいため物を運ぶ力がなく、テイロスは口下手で何処に行っても目利きを有効活用できず思うように素材が集められなかった。

そこに資金難が合わさってどうしてもどこかにしわ寄せが行くのである。

そのため本来ならば資金繰りに関しても綿密な計算が必要だったが二人は良くも悪くも職人気質。

金属精錬や鋳造、鍛造の技術錬磨にこだわり過ぎた結果ほとんどの資金が刀身の材料費に消えた。

あとはドケチのティナが拾ってくる革の端切れや拾ってきたピカピカの石で誤魔化すしかなかったのだ。


「ありあわせ、型落ち品、セール品、あとは拾い物か?まったく、刀身にこだわり過ぎだ」


もったいない!とドルトンの厳しいが当然ともいえる評価に二人はしょんぼりとするしかなかった。


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