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悪魔になったらするべきこと?  作者: Faust
ルナ、水軍の船長と出会う
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昔話の戦い その2

山のように大きな怪物の下顎を削ぎ飛ばした一撃はさぞかし派手な一撃であっただろう。しかしである。


「どうして下顎なんですか?」


ルナはニコラが怪物の頭部や脳のある上を狙うものと思っていた。どんな生物も頭を潰せば死んでしまう。

そんな中で口の中に飛び込む勇気を見せながら何故必殺を意図した攻撃をしなかったのかと言うことである。


『それはニコラと怪物との体格差が原因よ』

「元から大きいのは分かりますけど・・・」

『上に切り上げても急所には届かなかったの』


怪物の顔はワニのような見た目をしており、ニコラが飛び込んだ位置で飲み込まれる前に行動しようとするとどうしても手前になってしまう。そうなると人間で言うところの上唇と鼻を削ぎ飛ばすことになる。もちろん重傷ではあるが命に届くかと言えばそれは否である。


『それともう一つは威力を発揮できる斬り方の問題でもあったわ』

「斬り方?」

『物は振り上げるより振り下ろす方が力が出るからね』


ニコラの剣は名手のそれだがあくまで我流。飛び込んで一撃で仕留める戦法か、周囲に敵味方入り乱れた戦いでの戦法こそ洗練されていたが剣術家が型稽古でするような振り方を学んでいたわけではない。その為に必殺の一撃となるとどうしても大きく振り被っての斬り下ろしが主になっていた。


「でも下顎でも耐えちゃうんじゃ?」

『下顎を失うと大抵の生き物は食事ができなくなるわ』


そして二コラはその際に怪物の舌を下あごと同様に切り飛ばしていた。

舌が切断されると刺激によって硬直し、そのまま気道を塞ぐことがあるという。

二コラはその事を知っていたのかはしらないが一撃で最大限のダメージを与える事に成功した。


失せろ!この世から・・・消え失せろ!


下顎を失った怪物が怯んだ隙にウェパルは怪物の傷口に手を突っ込むとそのまま怪物の体内にある水分を操って怪物の血液を瞬時に気化させた。その瞬間に一気に気化した血液が気体となって怪物の体内で膨張した。

ウェパルが手を引き抜くと同時に怪物は体中の肉が弾け、惨たらしい有様で絶命した。

血煙の中、ウェパルが二コラの存在を思い出して周囲を見渡した。怪物が沈む流れに飲まれると人間が浮かび上がってくるのは難しい。

急いで二コラの気配を探ったところウェパルの髪に二コラが引っかかっているのがわかり、掌に移動させる。

人の身でありながら大悪魔と怪物の戦いに参加した勇者である。


二コラ!そんな・・・!


しかし勇気の代償はあまりに大きかった。ほんの一瞬、ほんの一瞬の気のゆるみで彼女はウェパルと怪物の最期の一撃に巻き込まれたのだ。魔力量、質量、そのすべてが彼女の何十、何百倍のぶつかり合いに何の防備も持たない生身の人間が巻き込まれたのだ。

魔力の余波か、それとも大質量がぶつかった際に生じた衝撃波か。いずれにせよウェパルの掌の上で二コラは致命傷を負って倒れていた。


「そんな・・・どうして・・・」

『それが防御魔法や落下の衝撃を軽減できる魔法使いや魔力や体捌きで耐久力をコントロールできる戦士との違いよ。彼らなら・・・おそらく致命傷には・・・』


ウェパルは悲し気に目の前の怪物の骨を見ていた。よく見るとその頭蓋骨の頂点には彼女の物らしい剣が突き刺さっている。


「それで・・・彼女は・・・?」


恐る恐る尋ねたルナにウェパルは答える。


『伝説の通りよ、彼女はワイルビーを護るために人魚になった』



私は、人魚になったと言ってくれ。


呆然とするウェパルに二コラは消え入りそうな声で呟いた。ワイルビーを護るために、怪物と海で戦うためにと。

そしてそのまま何処かへ旅立ったと。

ウェパルはそれを了承し、二コラに自身の力を加えその体を海に溶かした。事切れた彼女が海の生物に食われないように、浜に流れ着いてその死を悟られぬように。

その体は淡い光となって怪物の血を洗い流す様に広がって、海にまた静けさを取り戻していく。

その様子を見届けたウェパルはワイルビーの人々に二コラが自身と共に戦い、怪物を倒したと告げた。

そしてそのために人の体を捨てて人魚となり、そのままどこかへ泳ぎ去ったと。

二コラを良く知る人々はその言葉で全てを悟っただろう。例え人外となったとしてもワイルビーから彼女が離れることなどありはしない。


誰も彼女の行先を尋ねる者はなく、誰も彼女の帰る時を尋ねなかった。

彼女が帰らぬ理由など問いただす必要もない事だと、そう告げるようにただその瞳を海に向けていた。


『彼女は町を救って、伝説となった。人魚の入り江は彼女を弔うために皆で集まった場所なの』

「そうだったんですね・・・」


セイレーンたちが二コラを偲んで集まり、事情を知ったエトナ―達と共に祈りを捧げた場所。

その内に漁師たちや巡礼者がこの離島にある入り江を『人魚の入り江』と呼んだ。

二コラの心意気はワイルビーに残り、その熱い血潮はイシシの一族に連綿と受け継がれている。


「えっ!じゃあイシシのおじさんって二コラさんの子孫なの!?」

『そうよ』

「な、なんかショック・・・」

『なんでよ・・・』


ティナの言葉にウェパルは何とも言えない顔をしていた。


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