か、開祖の・・・聖・・・職者?
ティナがぼんやりと伝説の変遷に想像を巡らせる中
『おろろーん』
「およよーん」
ウェパルがルナに慰められながら空いた手でルナをよしよししている。
『うおーん』
「よーしよーし」
そして、少しずつルナを連れて沖の方へ・・・
「・・・おーい!ルナちゃん連れ去ろうとすんなー!」
数メートル進んだ所でティナにバレた。猫のような動きでルナに抱きついたティナはそのままルナを引き剥がして浜まで連れてくる。
『ちっ』
「舌打ちしたね?」
『してないわよ』
油断も隙もない!とティナは怒りながらルナを抱き寄せる。そして話は再び二コラの話に。
「それじゃあ彼女はそのままワイルビーで過ごしたんですか?」
『そうね、野望は潰えても生活は続くもの』
二人はしぶしぶエトナ―の監視のもとでワイルビー発展の為に尽力した。そして少しずつワイルビーは発展していき、今の姿になっていった。
「契約は結局どうなったんです?」
『貸せる力が限定的になったけど食糧支援とか漁の安全を保証するとかね。今の決まり事に近いのがその時に決まった感じかしら』
セイレーンが魚を取ってきて漁師に上げたり、海難事故で海に落ちた漁師やワイルビーの住民を助けたり。
今は塩の製造にも強力している。その協力体制がその時の取り決めでおおよそ決まったのだろう。
なんだかんだ言って信者は手に入ったのでウェパルは妥協することになった。
「ただ気になるのは最後に二コラさんが人魚になったって話ですよね」
『そうねぇ、それはおそらく彼女の最期がそうさせたんでしょう』
ここが人魚の入り江とよばれるようになったのもそれが理由ね。とウェパルは言う。
『今ならまだあの時の戦いの記憶が残っているわ』
「戦い?二コラさんの最期って・・・」
『ええ、この地にやってきた大型の魔物がワイルビーを襲ったの。私も彼女と戦ったわ』
それは数百年もの昔、二コラとウェパル、そして彼女の部下であるセイレーンやクラーケン。
そしてエトナ―が戦いに赴いた時の話である。
『興味があるならいらっしゃい。加護を与えてあげる。そこのお嬢さんもいらっしゃいな』
海に手招きするウェパル、その差し出された手にルナとティナは飛び乗った。
そしてルナにしたようにティナにも指先でちょんと突くとティナの額が淡く光った。
『これであなたも溺れずに済むわ』
「ほへー」
ウェパルはそう言うと二人を手に乗せたまま沖へと泳ぎだした。そしてそのまま海底すれすれを進むようにしながらさらに沖へと進んでいく。
「すごー、普通にしゃべれる」
「ほんとだね」
海底は太陽の届かない暗闇の世界。しかしウェパルの加護を得た今は海の中の景色もはっきりと見える。
魔力を視覚として捉え、物体の輪郭をその流れで読み取るのだ。それを大悪魔の加護で可能にしている。
「不思議な感じ・・・」
暗い世界にまるでネオンサインのように物体の輪郭が浮かび、幻想的な世界が広がっている。
雄大な自然の世界、その裏側ともいうべき魔法生物や深海の生物たちの世界である。
『あそこよ』
ウェパルがある点を指さした。そこには巨大な、とても巨大な何かが鎮座していた。
近寄ってみるとその大きさに驚かされるだろう。ウェパルにも負けない大きさのそれは遠い昔に死んだ生物のもの。
頭蓋骨の上半分、顎の部分が無くなっていたがそれだけでもルナとティナがすっぽりと隠れてしまうほどの大きさであり、背骨の大きさはまるで川のような太さの大蛇か、大木が連なったような太さだ。
「これが二コラさんが戦った魔物・・・」
これが生きていて暴れていたと思うとそれだけで身震いがする。ウェパルはそれにさらに恐ろしい事実を加えた。
『しかもコイツ、双子だったのよね』
「ふ、双子・・・!こんなのが!?」
『片方はエトナ―が潰したんだけど、片割れがワイルビーにきたおかげでとんでもない被害が出るところだった』
当時のワイルビーは異変が続いていた。セイレーンの手引きを得ての漁にも関わらず不漁が続いた事、海が天候に関わらず荒れた事、それが続いた。エトナ―がやってきて原因を調べたところ、彼女は海の異変を陸地から察知し、ウェパルは海の変化を察知してそれぞれが事態の解決に動き出したのだ。
その原因がかなりの難敵であったことは想像に難くない。この巨大さもさることながら海の動きに影響を及ぼす力の強さと食欲。他の海からやってきた海そのものを荒らす恐るべき怪物だったのだ。
デカブツか、ぼちぼちこういうのが狩りたかったんだよな!
エトナ―は海の上を聖術によってまるで地面のように走り、餌を求めて襲い掛かったその化け物を雷光を巻き起こして吹き飛ばした。しかしその怪物も伊達に大きくなるまで生きているわけではない。
エトナ―をもってしてもかの怪物を短時間で仕留める事が出来ず、数時間の格闘を余儀なくされた。




