押してダメなら、そしたら・・・
セイレーンはルナにすがりつくと哀れを誘う声と眼差しで見つめてくる。
「お願いしますぅ、私達を助けると思ってぇ」
「え?えっ?何の事です?」
ルナが困惑する中、セイレーンはさらに続ける。
「ウェパル様の所に顔を出して欲しいんですぅ」
「えっ、でも私・・・」
「でないと私達はウェパル様に叱られてしまいます!」
おろろーん!とセイレーンが泣くとそれを見ていたセイレーン達も同様のポーズをとった。
「あほくさ」
「ど、どうしよう・・・」
ティナは呆れ顔であるがルナはお人好しである。それに名付けの縁があるのでルナはセイレーン達に対してちょっとだけ他人とは思えない感覚がある。
と言うのもウェパルとは名付けの縁と魔法的な効力により広い意味で親戚に近い間柄、その為に親近感を感じてしまうのだ。
「ダメだよルナちゃん、あれは演技だよ」
「それは・・・そうなんだけど」
ルナの頭の中にはルルイエの姿が浮かんでいる。そしてそのルルイエに振り回されている周囲に人々の姿も。
そしてそれをウェパルに当てはめてみると・・・
(この人達も苦労してるのでは・・・)
なんて考えがよぎるのだ。そうなるとルナには彼女達が困っているであろうことが容易に想像できてしまう。
目の前の憐れを誘う演技の裏にウェパルに振り回される彼女達の姿が。
「それにルナちゃんが行かずとも来てもらえばいいじゃん」
「簡単に言うなぁ・・・」
大悪魔の顕現は本来大騒ぎになる事案である。魔界の頂点に君臨するバエルを筆頭に列記されただけでも72柱。
一柱だけでも想像を絶する能力を持つだけでなく彼らは皆領地か軍団を持つ領主である。
そんな彼らが顕現するということは彼らの権能によって彼らの軍団も逐次顕現することを示す。これが意味するところは大悪魔の野心による侵攻か、それとも契約からなる他国への軍事支援か。どちらにせよ大ごとの為に人々は大騒ぎをするわけである。
「でも海だし、割といけるんじゃ?」
「どうなんだろう・・・、でも来てくれたら私としても嬉しいかなぁ」
そう言いつつセイレーンたちと共に海の方を見た時・・・
「ひえっ・・・」
なんか怒りのオーラを纏ったウェパルの瞳が海の中から覗いていた。さすがに全員が凍り付き、互いに引っ付いて小さい悲鳴を上げた。
『いつのなったら連れてくるのかしら?それとも私の頼み事は後回しでルナちゃんと遊んでいたの?』
海の中から上半身を出したウェパルはそのまま入り江に横たわるようにしてこちらに近寄った。その余波で起こった波がモロに直撃しルナ達はびしょびしょになる。
「わ、我々は遊んでいたわけでは・・・」
『言い訳は聞きたくないわ、けど今は赦してあげる』
ルナちゃんの前だしね。とウェパルはセイレーンたちを威厳を含んだ声で黙らせるとルナに目線を向けた。
『ルナちゃん、契約の件はとっても残念だったけど・・・こうしてまた会うことができてうれしいわ』
「私も会えてうれしいです」
びしょびしょのまま笑顔で答えるルナ。その隣では波を被ってひっくり返っているティナがいる。
「ぶへぇっ!波がすごい、そして再びの絶景かな」
起き上がってウェパルを見上げるとルナの隣に戻りながらウェパルの体を眺めている。
おおきな二つの山はティナを感動させるのに十分なのだ。
『さっそくだけど私の宮殿に・・・』
「っとと・・・はいはーい!しつもーん!」
見とれていたティナは我に返ると手を伸ばして堂々とルナを連れ去ろうとするウェパルに手を挙げた。
『・・・・・・・・・・何かしら』
「開祖の聖職者ってどんな人だったの?」
『そうね、彼女は・・・』
ティナの問いかけにウェパルは心底めんどくさそうにしていたがルナが興味のありそうな顔をしたので仕方ないと言った様子で伸ばしかけた手を引っ込めた。ティナの言葉にルナがワイルビーの歴史を知りたがっている事を思い出したのだろう。何かを思い出そうとする仕草をしながら語り始めた。
『なんというか・・・聖職者らしからぬ人物だったわ』
「らしからぬ・・・エトナ―さんみたいな?」
聖職者らしからぬという言葉に真っ先にエトナ―の名前が上がる辺りに彼女の普段の素行の悪さが見て取れる。
しかもそれがルナから出るのだからどうしようもない。
『あれは振る舞いがそうなだけで・・・ヤツは根っからの聖職者よ、むちゃくちゃだけど』
「あの人、振る舞いってか色々とむちゃくちゃだよね・・・」
エトナ―の振る舞いについて思い浮かべると面白いくらい全員が同様に溜息をついた。
そんなエトナ―とは違った意味で聖職者らしからぬ開祖の聖職者とは如何様な人物なのだろうか。
『そうね、何がらしからぬというと・・・最初に会った時はもう出で立ちから滅茶苦茶で・・・』
ウェパルが言うにはその開祖の聖職者というのは元は集落でしかなかったワイルビーの顔役だったそうだ。
荒くれ者の頭目、女海賊。そんな出で立ちの女性が開祖の聖職者であった。
「イシシのおじさんが女性になった感じ?」
『平たく言えばそんな感じよ』
ティナの言葉にウェパルがそう答えるとイシシを知る者は皆、女物の服に身を包んだイシシを想像して噴き出した。
しかし大悪魔と取引をしようという者が只者ではないというのは誰もが思うことだろう。




