朝ごはん片手に
イシシはルナの申し出にありがたいとは思いつつもティナたちを見る。
彼女は聖職者だからいいだろう。だが彼女達は旅行できたはずだ。ルナが治療に行ってしまうと予定がどんどんと後回しになるが・・・。
「・・・腰を痛めると癖になるよ」
「ここそう言うのあるってことは・・・私の魔力で商売ができるかも・・・」
(大丈夫そうだな・・・)
ルナの言葉を受けてティナとクロエはあれこれと話している。しかしその事も別段手間などを考えての事ではなくぎっくり腰についての事であり、嫌がっている素振りなどはなかった。
(この子達も大概いい子だなぁ)
人助けの為に回り道をする事を厭わないのでイシシは一行に対して色々と評価を改めていた。
「ここだ」
話しながら歩いていると一件の民家風の建物が建っていた。ジルバの店よりもややこじんまりとしており、古びて見える。
「なんかジルバさんとこより地味な感じ~」
「失礼だよティナちゃん!」
「弁当専門の店は皆こんなもんさ」
ティナがあっけらかんと言ったのにカティナが釘を刺した。しかしイシシは大抵のお店は配達を主にしているのでジルバのお店のように接客を考えておらず、簡素な作りのお店が多いようだ。
ジルバが一般のお客さんや旅行客を相手にしているのと違い、弁当屋は労働者が食べる朝食や昼食を販売しているので客層が違うのだ。
「とりあえずあがらせてもらうよー」
「あ、おい!」
まったく遠慮なくティナがドアを開けた。そしてイシシが止める間もなく入っていく。
「ごめんくださーい!弁当屋さんの店主さんはいますかー!」
ご近所迷惑なんのその。ティナの声が響くとお客さんだと思ったのか店の奥から声が聞こえてくる。
『はぁーい・・・』
腰に力が入らない時の声ってこんな感じ。そんな弱弱しい声が聞こえてくる。
「腰痛にバリバリ効く聖術はいかがっすかー!」
「まるでティナちゃんがやるみたいなこと言う・・・」
「・・・出前じゃないんだから」
カティナとクロエが呆れた表情でティナに続いて中に入る。治療に不可欠なルナはというと先んじてお弁当に手を出していた。
「美味しい!」
「ほんとに?!」
子供が仕上げをしたのだろうか、少し不格好だがそれでも味は問題ないらしい。ルナはもぐもぐと食べ進めている。
その隣でイシシもティナを追いかけるのを諦めて弁当を広げていた。
「塩漬けした魚をほぐした定番メニューだな。パンも良く焼けてる」
昨日宿屋の女将さんがクロエに持たせたパイに似たサンドイッチだ。こちらの方が冷えても大丈夫なように酸味のあるドレッシングが使われている。それに含まれるオリーブオイルのおかげでパンは乾燥せずにしっとりとしている。
二人がもぐもぐと食べていると中からティナが出てきた。
「おじさん結構重症っぽい・・・二人で先に食べてるの?」
「お腹すいちゃったから」
「うわ、もうない・・・早えなぁ」
あっという間に平らげたルナは手を叩くと立ち上がって店の中へ向かう。
「ねえちゃんはなおせるの?」
「やってみないとわからないけど腰を痛めた人の治療をしたことはあるよ」
ルナが店の中に入ると男の子は不安そうにルナの後ろについてくる。そして店の中に入ると買いに来た人、予約を入れた人がお会計をするためのカウンターが目の前にあり、その奥に生活スペースがあるようだ。
「カティナちゃんたちは何処に行ったんだろう?」
「とんがりみみのおねえちゃんとしめっぽいおねえちゃん?」
「そう、それかお父さんのいる場所を教えてくれると嬉しいな」
子供の率直な言葉にルナは笑いつつも男の子に案内されて彼の父親がいる部屋へと向かう。
するとベッドではなく床に布団が敷いてあり、途中から履物を脱ぐようになっている。
「すごい、ここって東の国と同じ感じなんだ・・・」
「漁から帰ってきたヤツが大抵ずぶぬれだからぬれたもんをここで脱いでから行くんだよ」
ルナは昔に両親と共に出かけた東の国での体験を思い出していたが、どうやらここでは履物が濡れる事が多いらしくそれで屋内を汚さないためのようだ。
「そうなんですね・・・それじゃおじゃましまーす」
イシシを伴って店から家のスペースに入ると布団には中年の男性がうつ伏せで呻いている。
「うぅ・・・こんな格好ですいません・・・」
「いいんだ、それより腰をやったのか?」
「はい、どうも昨日冷えてる時に重いもの持ったのがいけなかったらしくて・・・いてて」
ルナは失礼しますね、と言いながら布団をめくって腰に手を当てる。
「痛む場所はここですか?」
「ッ!・・・そこ、そこが・・・いたた・・・」
痛む場所を探すと男性の上半身がぎくりとはねた。ルナはそこに手を当てると目を閉じて祈り始める。
すると少しして手から金色の光が溢れだした。
「おお・・・痛いのが・・・」
「魔物を追い払うだけじゃなくてヒーリングまでできるとはなぁ」
男の子が金色の光を好奇心に満ちた表情で見ている。そして光が収まると男性は大きく息を吐いた。
「だいぶ楽になりました・・・」
「痛みで背中が強張っていましたからね、でも腰の筋が固まっているせいなのでそこを解決しないと痛みの原因は・・・」
そう言いつつ、ルナはふといつの間にか部屋で男の子と遊んでいたティナに目を向けた。
「ティナちゃんが協力してくれたらなんとかなるかも」
「ん?なんかいった?」
「お前さんの雷が役にたつかもとさ」
イシシがそう言うとティナは正座の状態ですすすーっと器用に近づいてくるとルナの隣に座った。
待ってましたと言わんばかりの表情にちょっとだけイシシは不安になった。
「で、で、で?私はなにするの?」
「指示する場所にちょっとずつ雷の魔力を流してほしい」
「あいあいさー」
座る位置を変えてルナとティナが男性を挟んで向かい合うように座るとルナが場所を指示してティナの指をそこに乗せる。そしてその指の上にルナが手を乗せると少しずつ魔力を流し、ティナに雷の魔力を放出するようにガイドする。
「ゆっくり、ゆっくりね」
「おおう・・・神経使うなぁ・・・」
びりびりと電気が走ると男性はそのたびに呻いたが・・・。
「終わり、後は腰を温めておけばすぐに良くなると思います」
「ありがとうございます・・・」
「起きちゃダメですよ」
「いやでもこれくらいは・・・」
男性はゆっくりと起き上がると二人に頭を下げる。そして再度御礼を言うとまた布団に戻った。
「一週間かそれくらいは様子を見た方がいいかもしれませんね」
「そうですか・・・」
「焦る気持ちはわかるけど腰って癖になりやすいらしいから気を付けなよ」
商売が一週間も止まれば大ごとである。しかし腰が治らねばどちらにしろ仕事にはならない。
「しょうがねえな、ウチから何人か回すから安静にしとくんだぞ」
「そんな、船長にまで世話になっちゃ申し訳が・・・」
「何言ってやがる、無理して長引いたらそれこそ嬢ちゃんたちの厚意を無碍にすることになるだろうが」
何度も来てもらうわけにはいかねえしな。とイシシが言うと男性はまだ遠慮していたが
「俺が突然頼んだのも原因だろ?保障くらいさせろ」
と念を押したので男性はようやく了承した。




