ワイルビーの夜は更けていく
ルナは山盛りのパスタを前ににっこり。イシシはちょっと驚いていたがみるみるうちに減っていくパスタを見てさらに驚いた。
「よく食うなぁ・・・」
「・・・十人前っていったでしょ?」
「文字通りだな」
ちみちみ食べているクロエとは対極に位置しているといっていい。なんと割合的に減るスピードなど同じくらいなのだ。
「そういえばエルフの嬢ちゃんさっきから静かだが」
「カティナちゃん普段粗食だからカルチャーショック受けてるよ」
カティナは驚いた表情のまま料理をひたすら口に運んでいる。そのおかげかスピードはかなり速い。
森にいた頃は塩味がすればいい方で、木ノ実を焼いただけだの、果実を切っただけだのと言った有様だったのだ。
(美味!美味すぎ!これが人間の食べる味!)
情けないがこれだけでも外の世界に出てきて良かった!なんて考える始末。
料理という概念すら怪しかったが、純血のエルフはそれで生活できてしまうのである。なにせ年の取り方からなにからずっと緩やかであり、必要なカロリーも少ない。
また精霊や大気に漂う魔力を利用できるために魔力を消費する事も少なく、そのために魔力補充のために栄養や薬草などを摂取する必要もない。
必要もないものは発展しない。したがって森に暮らすエルフは料理らしい料理をしないのだ。
お茶と果実、もしくは木の実。猟をして肉と食べる時もあるがそれだって育ちざかりの子供や体調を崩した時のもの。もしくは祭礼で祖先に捧げたもののおさがりを貰うくらい。
それだって塩とか香草とかがせいぜいなのである。
「い、いきててよかった・・・」
「そ、そんなに・・・?」
「そこまで喜ばれるとなんだか恐縮しちまうよ・・・」
最後の一口を咀嚼しながら神妙な面持ちでつぶやくカティナに周囲は何といったものかわからないといった様子だ。
「あとは、寝るだけ・・・それでいい」
フォークを置いたカティナはどこか遠くを見ている。
「か、カティナちゃんが遠くに行っちゃった・・・」
「・・・森育ちのエルフには早すぎたのかな」
そんなこんながありつつ、皆は極上の夕食を堪能した。
『ごちそうさまでした!』
「はい、ありがとうね」
料理を完食した一行はジルバと夫人、そして支払いをもってくれるイシシに感謝の言葉を述べる。
「いやぁ、しかしホントに十人前近く食ったんじゃないか?」
「そ、そうですかね?」
とぼけてみても積みあがった皿は雄弁である。しかし食べさせたがりの夫人からすれば相手にとって不足はなかった。ジルバも同様である。食わせがいのあるお客が来たことに張り切った結果といえよう。
「それじゃ今日は解散だな、教会に戻って一泊してくれ。俺はガラバの様子を見てくる」
「お願いします」
ルナが頭を下げるとイシシは笑顔で頷くと一足先に店を出ていく。皆も再度夫妻に頭を下げて店を出ると夜のワイルビーは既に夜風で肌寒くなりつつあった。
「少し冷えるね・・・急ごうか」
「そうだね」
教会への道を一行は風に吹かれるたびに寄り集まって震えながら進んでいく。
町の灯りはまるで潮風が運んできた冷たい風に吹き消されたかのように一つ、また一つと消えていく。
「さむいさむい!」
「とっても寒いよ!」
教会にある小屋入り、中にあった暖炉に火を入れてようやく一息ついた。震えながら井戸から汲んできた水をポットに入れて火にかける。味気ない白湯も温まるには十分である。
「ベッド繋げよう、寒すぎる」
「りょうかーい」
全員でくっついて寝る事にして並んでいるベッドをずらした。木製のベッドは思ったよりも軽く、また怪力のルナがいるのでこういったことには困らない。
「クロエちゃん、魔法はどうなってるの?」
「・・・寝てたら出ないからたぶん大丈夫・・・ごめん、たまに出るかも」
「そんなおねしょみたいな・・・」
「・・・ルナちゃんとくっつかなければ大丈夫なはず」
クロエの魔法は霧を発生させる。それでいて他者の魔力と親和性があるので魔力を感知すると漏れ出してしまうのだ。その点で言うとティナやルナとくっついて寝るのは非常によろしくない。
ルナは人間の魔力量からすれば無意識に発散する量でも駄々洩れレベルだし、ティナのように雷の魔力は魔力の刺激を受けやすいのでクロエとの相乗効果でお互いに刺激し合う結果になる。
「・・・だから自動的にカティナちゃんの隣」
濡れたらごめんね、と言いながらクロエはベッドの端に陣取った。そしてその隣にカティナ、クインク、ルナ、ティナの並びになる。
「くっついて寝たら一緒かもしれないけど、寒いし仕方ないよね」
「そうだね」
皆が一列に並んで横になるとにじり寄って密着する。そしてシーツを被って体が温まるのを待った。
寒い夜はお互いの体温のわかる一つのベッドで。薄いシーツでも大丈夫、皆が居るから。
「うぅー・・・さむ」
「ティナさん手が冷たいです!」
「クインクちゃんあったかーい」
「ルナちゃんふかふか・・・」
「カティナちゃん、息がかかるから顔くっつけないでぇ・・・」
「・・・さむい」
人がよれば意図せず賑やかになる。けれどそれも束の間、皆が夢の中に落ちていくのは時間の問題だった。




