食べて満足!
お肉は夫人の手によって薄めにスライスされ、複数枚が皿に重なっていく。
「はい、どうぞ!」
全員分が行き渡った。クインクとルナが待ちきれないといった様子で待っているのを見てジルバ夫人が笑顔言うと皆が一斉に肉を口に運んだ。
「美味しい!」
「やわらかい・・・ナイフが要らないかも・・・」
香りが一番に来た。そして塩だけとは思えない濃厚な味わいに皆は驚いた。それに肉とは思えない柔らかさだ。
フォークで刺して、齧っていくだけで切れ、ナイフなしで食べていけるくらいに柔らかい。
「美味しいねルナちゃん」
「うん!とっても!」
普段から明るい表情だが美味しいものを食べている時のルナは笑顔が眩しい。そして減るスピードが非常に速い。
皆が一枚目を食べ終わる頃にはもうすでに二枚目を中ほどまで食べている。
「すみません、パンとかありますか?」
「もうじき焼けるよー」
大蒜の匂いが漂ってくる。どうやらガーリックトーストにしてくれているらしい。
「はいよー・・・ってもう無いねぇ!よく食べるお嬢さんだよ!」
全員に一枚ずつバゲットをスライスしたガーリックトーストが配られるがルナの皿が空になっているのをみてジルバ夫人は驚きつつも嬉しそうにしている。
「アンタ!この子にお代わりを作ってあげておくれ!待たしちゃ気の毒だよ!」
そんなことを言っている中、クロエが自分の皿をルナに差し出した。
「・・・これ、食べて」
「いいの?クロエちゃんもお腹すいてるんじゃない?」
「・・・お昼がまだお腹に・・・」
「大丈夫かよ・・・」
食べたくないわけじゃないけど他にも料理が出てくるだろうし、とクロエは肉だけでお腹が一杯になるのを危惧しているようだ。イシシが心配そうにしている。
「そういえばクロエちゃんだけ宿で食べたんだっけ?」
「・・・男料理だったよ」
弁当で済ませた皆と違い、ワイルビーの奥様方に捕まってお昼をごちそうになったクロエは元より小食なのにたくさん食べたのが堪えているのだろう。よく船で酔わなかったものだ。
「男料理?」
「宿じゃ旅行客だけじゃなく塩田で働くヤツも居るからな、それ向けに作られた料理をそう呼んでる」
ワイルビーでは漁師や船乗りだけでなく塩田や塩の煎ごうを行う職人もいるようだ。セイレーンのおかげで不純物のほとんど取り除かれた海水が手に入るので塩分濃度の高い水、鹹水が作りやすい。
また薪や燃料の確保が非常に手間な方法ではあるがこちらも火の魔石のおかげでかなりのコストダウンが図られている。これらは火の精霊が集まりやすい古い窯などに魔力を放出しきった魔石を置いて普段通りの火の支度をすると精霊が集まって魔石に魔力と熱を再び閉じ込めてくれる。
それらを職人が朝一番に回収して鹹水を煮詰めるための竈に移すのだ。そしてその際に回収した使用済みの魔石をまた各家庭や鍛冶屋などに配り、火の魔力の充電を行うのである。
火の魔石は簡単な種火で発火し長時間高温になるので職人たちはそれを利用して作業をするのだ。
「海水を煮て水分を飛ばすんですか・・・凄い大変そう・・・」
「もちろん超大変だぞ、その分質は良いがな」
「そういえば山手の方にたくさん大きな柵みたいなのが立ってたのが塩田?」
「そうだ、セイレーンからもらった海水をその柵にぶっかけて風と日光で水分を飛ばして濃度を上げるんだ」
釜で鹹水を煮詰めるのも海から山手にある施設まで海水を運ぶのも重労働である。その為に労働者は味の濃い料理とそれで胃腸を壊さないようにシャポー茶を愛飲しているのだ。
「そのおかげでこんな贅沢料理ができるわけだな」
ルナに続いて完食したイシシはガーリックトーストを齧る。ルナほどスピードは無いが体が大きいぶん一口が大きい。男性だからということもあるが彼もよく食べるのだ。
「お昼のは魚の身をほぐした具を包んで焼いたパイでしたね」
「ああ、男料理だと味が濃くて量も多いサンドイッチになってる」
バゲットで作るサンドイッチは外は焼いてカリッと、中は魚のエキスとソースでしっとり。味は濃くはっきりとしていてお茶がたくさん飲めるようになっている。汗をかく職人にもってこいの逸品だ。
「・・・私としては量より質と種類でいきたい」
「はいよ、ご注文を承りました」
元よりたくさん食べられないクロエはそんなワイルビーの料理とちょっと相性が悪いと言えた。
しかしその点、この店は様々な地域の料理を学んできたジルバが居るのでその話を耳にしたジルバは彼女の為に工夫をしてくれるようだった。
「あの顔色の悪い子にはこれを、他の子にはこれを持って行ってあげてくれ」
「はいよ、アンタのそう言うとこ大好きさね」
あと食いしん坊にはこれ、と手渡したのは大皿だ。やってきたのはトマトをつかったパスタ料理。シンプルなトマトソースに魚介類を煮込んだものでパスタをあえた一品。クロエには小さいパスタやマカロニで味の違うものを細かく何種類か乗せている。
「わ、すごい」
「・・・プロだね」
烏賊やエビなどの旨味がトマトと絡み、パスタに深い味わいを乗せてくれる。濃厚でとろみがついているのかパスタに絡んで子供が食べてもソースが飛び散らないように、それでいて味がしっかり絡むようになっている。




