ただより美味いものはナシ?
「ここかジルバの店だ」|
案内されてたどり着いたのは民家に挟まるようにして建っているお店だ。おばちゃんの年齢から察せられるがそれなりに年季の入った建物で、煙突からもくもくと煙が出ている。
窓を開けているのは換気の為か、はたまた宣伝か。
「すごくいい匂いがします!」
クインクは主人に似たのか、それとも育ちなのか食べる事に興味津々。小食だが食べ物にはよく飛びつく。
「今日は珍しく山の獣の肉を焼いてるみたいだな」
「普段はやっぱり海の幸なの?」
「ああ、ここらへんはウェパルのおかげで大小様々な魚も取れるし、セイレーンが大型の獲物を狩った時におすそ分けをくれたりする」
セイレーンは海水を非常に器用に操り、ワイルビーの人間に清潔な海水を提供してくれる。これを煮詰めて作る塩は味が良く、高級品として重宝される品だ。
「この匂いだと・・・塩釜焼きかもな」
「しおがま?」
「塩と卵の白身を混ぜて固めた塩で肉や魚を包んで焼くのさ、ジルバの作る塩釜焼きは香草なんかを使って作るから美味いぞ」
「「しおがま・・・」」
完成品を想像してルナとクインクがうっとりした顔で宙を見上げている。ティナは土産物のリストに塩を加え、頭の中で算盤を弾いている。ルナ達が住む街で使われているのは岩塩を削り出して作った塩なのでおそらく味も違うだろう。
「海から作った塩!ウェパルの塩?人魚の塩?・・・売れる!」
「元から高級品だっての」
「ウチに卸してちょーだい!」
ティナは食欲もぶっとぶ勢いだ。まるで算盤を弾いている音が頭から響いてくるかのようである。
イシシは若干引きつつも今回の航海で手に入れた船を思い出した。
「そういやあの船の使い道を考えてなかったな・・・」
既存の三隻と違い小型で外洋に出る事に向いていない船はその代わりに幅の狭い川を上っていくことができる。
そしてイシシの目の前には商売っ気たっぷりの商家の娘がいる。
「そうさな、すこし考えてみるか」
「やったー!」
前向きに検討します、といったつもりであったがティナの実家が思った以上に大きな商会であるのに気付くのはもう少し後の事だった。
「いらっしゃい、待ってたよ!」
ささ、すわってすわって!とジルバ夫人は体型通りのパワーでクインクとクロエをまず捕まえるとそのまま席に連行した。二人とも小柄とはいえ片手で持ち上げたのを見てカティナは驚いていた。
「力持ちですね」
「ジルバのかーちゃんは引き網の女房衆だからな、引く力と持ち上げる力は強いぞー」
ワイルビーでは女性も漁に参加するらしい。イシシは笑いながら店の中に入るとテーブル席に座った。
クインクとクロエは先んじて席に座らされており、よくみると背が一段高くなっている。
「こ、子供用・・・!」
「・・・わらうなー」
ティナが可愛らしい装飾が施された椅子に収まっている二人を見て思わず吹き出した。
クロエは不満顔だがクインクはちょっと嬉しそう。しかし並んでみるとクインクと大差ない体格のクロエはとにかく不健康そうなのが際立っている。フラウステッド家でとにかく愛されているクインクは顔色が良いのでさらにである。
「やあ、イシシ船長。今日は大漁だったって?」
「おうジルバ、まあな・・・この子たちのおかげさ」
主人であるジルバが鍋を手にやってくる。夫人とは対照的にジルバはやせており、身長が高いのが相まってとても細くみえる。
「さ、まずはこれを飲んで暖まってくれ。ワイルビーの潮風はよそ者にはこたえるからね」
一人ずつ器にスープをよそって配っていく。中からはショウガの薫りがしていて、飲むと野菜と魚のアラから取ったダシが利いていてとても美味だ。ショウガは体を温めるだけでなく魚の臭みも消してくれているようだ。
皆は一日の疲れと下がり始めた気温に備えるようにスープを飲み干した。
「美味しいね」
「だろー、ジルバが来てからこの町の料理のレパートリーも増えて大助かりだぞ」
「それされるとこっちとしちゃこまるんだけどね」
イシシの声が聞こえるのかジルバが居るキッチンから声が聞こえてくる。
ワイルビーの奥様は料理上手揃いなので一回来ると真似する人が多いのだそうだ。
「さ、メインディッシュだよ!」
そうこうしているとキッチンからミトンをはめて夫人が大きな皿を持ってきた。その皿の上には先ほど言っていた塩釜焼きが乗っている。
「わ、凄い量の塩・・・」
塩の塊が大きなさらに乗ってどんとテーブルの中央に置かれる。塩の塊は人の頭よりも大きく見えるほど大きい。
「高級品!」
「あっはっは、塩を見てそんな顔する奴は初めて見たよぉ!」
ティナが別の意味でよだれを流している。塩は地域によっては専売制の所もあるのでとても高価である。
夫人はそんなティナの言葉に笑いながら木槌を取り出して塩の塊を叩いた。
「わ、すごい良い匂い!」
割った中から香草に包まれた肉が出てくる。どうやら葉を巻くことで塩の入り方を調整しているようだ。
夫人は塩を取り除くとフォークを突き刺して肉を取り出し、切り分けて並べていく。
「はいよ!おまちどうさま!」
目の前に並んだうっすらとピンクの残った肉は肉汁を溢れさせながら湯気と香りを立ち昇らせている。
夫人が肉を切る作業の合間に皆の皿に添えられた茹で野菜が色どりを華やかにしていて見た目も良い。




