やっとこさ、えっとこさ
イシシが凄い勢いで飛んでいったのを見て命知らず号の船員は慌ててイシシを追い掛けていく。今回もカティナが頑張ってくれているが途中から精霊を従えるのが難しくなったのか徐々にスピードダウンしていった。
「ダメ、もう精霊が言う事を聞かなくなってきた」
「じき日没だもんね」
日が傾き、さらにウェパルから返品された密輸船を曳航しながらの移動なのでさらに足は遅い。
のろのろと海を進む船、皆が縁に立ってイシシを探していると・・・。
「あ、いた!」
「船長ー!」
仰向けになり、大の字で浮かんでいるイシシを慌てて引っ張り上げる。
ぐったりしたイシシは白目を向いたままピクリとも動かない。全員が心配そうに見つめるなか、ティナがハンマーでイシシを叩いた。
「えいっ」
「あっ!」
「カハーッ!ぜーっ!ぜーっ!」
電撃が走り、イシシの手足が跳ねる。皆が仰天する中、イシシはその刺激が功を奏したのか大きく息を吐いて上半身を起こした。
「し、死ぬかと思った・・・」
「脅かさないでくださいよ!船長空飛んでたんすよ!」
船員達が取り囲んでホッとした様子を見せている。なんだかんだ言ってイシシは船団の長として慕われているようだ。そうして目を白黒させているイシシを介抱しつつ皆は人魚の入り江へと進路を取るべきかを話し合うことに。
日は少しずつ傾いて行っている。日没までそう時間はなさそうだ。
「そろそろ日没だ、案内もない施設で嬢ちゃんたちを置いておくのは少し心もとないから一旦港で一泊するべきだろう」
「キャンプくらいならできますよ?」
「片付けが必要だっていったろ、明るい時にしないと危ない。それに食い物もちゃんと用意してないぞ」
離島は自然は豊かだが食料事情は良くない。港町から持ち込まれた物品で生活しなければならないが今の時間だとそれを用意して送り届けるのも遅くなってしまうし、暗がりで野営の準備や向こうの宿泊施設の片付けなどをするのもよろしくないとのことで一行は一旦帰港することにした。
「お帰り!早かったね!」
「案外早く片が付いた、船を分捕ってきたぞ」
「聞いたよ船長!やっぱりアンタがいないと始まらないよ!」
日帰りに近い時間帯で帰ってきたので港町の奥様方は夕食づくりの片手間と言った様子で皆を出迎えた。
先に戻っていた勝者の総取り号と死なば諸共号がもたらした吉報は届いていたらしい。
思わぬ臨時収入に奥様方は笑顔でイシシ達を見ている。
「がはは!そうだろうそうだろう!」
イシシも上機嫌だ。奥様方に笑顔で答えつつルナ達の夕食について尋ねる。
「ところで嬢ちゃんたちの晩飯はどうなってる?」
「あら、まだ決めてなかったのかい?」
「すぐ出かけたもんでな・・・預かってもらってるガラバも気になるしな、宿屋のとこでもいいけど今からだと宿も人が入ってるんじゃないのか?」
「御明察さね、籠はもらっとくけど部屋はもう空いてないね」
日が暮れかかった時間帯の宿は大抵詰まっている。そうでなくてももう夕食は売り切れていることもある。
「さすがに朝まで何も無いってのはなぁ・・・」
困ったようにイシシがそう言うと恰幅の良い年配の女性が元気よく手を挙げた。
「それならウチによんどくれよ!たまには女の子にご飯作りたいんだよ!」
「おお、ジルバのとこのかーちゃんじゃねえか。頼めるかい?」
「おうともさ、ウチの亭主の尻叩いて良い肉を持ってこさせるから頼んだよ!」
ジルバ夫人はイシシが答え、ルナ達がお願いしますと頭を下げたのを見て満面の笑顔で頷くと体型からは想像もできない軽い身のこなしで雑踏の中に消えていった。
「元気なおばちゃんだね」
「料理屋のジルバのとこのかーちゃんさ。旦那は元々他所からきて輸入品の食材やら香辛料なんかを目当てにやってきたのを口説いて所帯を持ったんだよ」
「奥さんが旦那さんを?」
「そ、情熱的というか計算的というか・・・まあ嬢ちゃんたちもいずれ分かるんじゃねえかな」
ジルバは名うての料理人らしく料理上手の多いワイルビーでも長く料理屋をできるくらいには腕がいい。
彼はワイルビーに来る前もいろんなところで料理の事を学んでいたらしく様々な旅行者が彼を目当てに料理を食べに来るんだそうだ。
「そんなところで御馳走になっていいんでしょうか?」
「何言ってんだ、お前さんのおかげで俺の護符と船一隻だぞ。十人前食ったってお釣りが出る」
「・・・ルナちゃんは十人前以上食べるけど」
クロエがぼそっと呟いた。クインクも同意し、カティナは苦笑いしている。
実際、ルナは女性基準なら数人前は食べる健啖家である。
「・・・でもここのは確かにボリューミー、ルナちゃんが居た方が安心」
「ま、なんであれタダ!なんてすばらしい響きなんだろうか!」
ティナは臨時収入と無償の夕食のコンボに上機嫌だ。イシシに連れられて一行はワイルビーの町を歩いていく。




