ややこしいことになった
イシシの目つきも厳しいものになり、船員達も浮かれた様子から一変して老人を睨んでいる。
「お嬢さんがそんな恐い顔をするなんてよほどの事だな」
「うーん、どちらが正しいのかはしらんけども」
「「まぁ、味方するなら女の子だよな」」
船員はそう言うと顔を見合わせて頷き、老人を取り囲んでボコボコにした。
「ひ、ひどい!」
「うるせえ!」
「このやろう!」
「クソジジイ!」
そんな船員達を他所にティナはハンマーで木箱に掛けられた魔法を破壊するべく魔力を充填し始める。
「うー・・・りゃ!」
ガコッ!と音を立ててハンマーを打ち付けると電撃がほとばしって青い光を放った。それと同時に何かが砕ける音が響き、木箱を覆っていた薄い膜のような物が浮かび上がると同時に砕け散った。
「上手くいった!」
「よーし!中を検めるぞ!」
イシシが箱の蓋を開けると中にはもう一段箱が。
「なんじゃこりゃ」
「箱の中にまた箱が」
もう一度開けてみると頑丈そうな造りの箱が出てきた。
二人は流石に不審に思ったがどうにもこの箱は金属製だ。
「箱の中から金属の箱が出てきた」
「あぁ、こりゃ潮風対策だな」
おそらく金属の箱は商品が入っている箱だろう。中身を保護するために頑丈な箱にいれてあるというわけだ。
しかし海で運ぶ際には潮風や海水に晒され、金属の箱が錆びる可能性があるために何重にも箱をかさねているのだろう。
イシシと二人で今度は金属製の蓋を開ける。すると・・・。
「なんだこりゃ」
「むむ?」
金属製の箱の中にあったのは弓と一本の矢だった。ただ普通と違うのは弓には複雑な紋様が書き込まれていること、そして矢の鏃がなんと石でできていることだ。
「厳重な保管は鏃の為らしいな」
鋭く研がれた石の鏃はまるでガラスのようにうっすらと透き通っている。石というのは魔法や呪術に用いられることの多いもの。自然によって生み出され、長い年月をもって研がれるものもあるからだ。
そういったものは加工せずとも魔力を帯びている事がおおく、呪いを籠めやすい。その上石は頑丈で壊れにくい。
対照的に高温の火に晒された鉄や破魔の力を持つ銀などは魔力を帯びにくく、魔力や呪術に使うには専用の加工が必須である。
「なんで石でできてるんだ?」
「石の鏃・・・えーっとね、こういうのどっかで聞いた気がしたんだけど」
ティナはここで初めて歯切れの悪い物言いになった。実は呪いに使う武具には魔力の蓄積力と親和性から石製の物も多いと授業で習っているのだが・・・。
「なんだったっけ・・・」
「おいおい・・・」
寝ていた為に覚えていなかった。そもそも魔石などがその性質を持っている為に作られたり採掘されたりしているのだが。アダム憐れ。
「そ、そうだ・・・ルナちゃんなら・・・いやダメだな」
「なんでだ?聖職者のお嬢ちゃんなら・・・」
「この荷物の届け先のヤツ・・・ギュントって奴に誘拐されたことあるらしいんだよね」
「・・・穏やかじゃねえな」
イシシはその言葉を聞いてティナがろくでもないことと言っていた言葉の意味を改めて理解した。
彼女に危害を加える可能性が捨てきれないとティナは考えているのだろう。
イシシは会ったこともない相手ではあったが相当な悪党なのだろうと思いつつ矢を見る。
「ぶっ壊すか」
「そうだね」
二人は意見が一致し、ティナがハンマーを振り上げた時だった。
俄かに波が高くなったかとおもうと密輸船と命知らず号が大きく揺れた。
固定されていない荷物が左右に移動し、水夫たちが転げまわる中でひときわ大きな波の中からウェパルが姿を露わした。
『イシシ、契約の進捗を聞こう』
笑みを湛えながらイシシ達を見下ろす姿は圧巻のサイズ感である。魔力の放出などは極力抑えているのか船員達は驚きつつも体調不良や意識を失ったりはしていない。
「ほえー、ビッグサイズだよ」
「・・・命知らずだなお前さん」
ルナで麻痺しているのかティナはウェパルを見あげ、ぶるんと揺れた一点を見つめて感嘆の声を上げた。
イシシが呆れながらティナを下がらせるとウェパルと対峙した。
「見ての通りだ、俺たちは船を分捕ったぞ!」
『・・・・・・なんですって?』
半ば勝ち誇ったような様子だったウェパルの表情が一変した。まさかもうすでに契約の条項を完了しているとは思っていなかったのだろう。普通に驚いている様子だ。
「だから!今俺が乗っている船は俺が立った今分捕った船だ!」
『・・・』
一瞬、表情が強張ったウェパルを見てティナがイシシに耳打ちした。
(おじさん、あれはヤバいよ)
(なにがだ?)
(あれはだいぶイラついてる顔だよ、ママが値切りに失敗した時の顔にそっくりだもん)
表情には出ていないものの不愉快そうなオーラがむんむんとでている。
(その場合どうなるんだ?)
(ママだったら・・・ええと・・・)
(?)
(下手すると怒って怒鳴りつけて帰るけど・・・)
ちらっとウェパルを見るとアテが外れたのか船をじろじろと値踏みするように見ている。
(絶対難癖つけてくるよ)
(で、反論したら?)
(男性がどうして口喧嘩で女性に勝てないか思い知るハメになるよ)
二人はげんなりした顔でウェパルの言葉を待つしかなかった。




