二隻の船の正体は・・・!
密輸船はオールまで持ち出して必死に逃げようとしている。しかしその速度をもってしても命知らず号の速度には敵わない。
二隻の妨害をすり抜けて密輸船を追う最中、ティナはすれ違う船の甲板を見ていた。
「あたふたしてるな~・・・およ?」
マストが燃え、帆が役に立たなくなれば焦るのはわかる。しかしその様子が何処か不審に思えたティナは遠眼鏡をイシシから取り返して甲板を覗いた。
「うげっ!」
そしてその瞬間に目を逸らした。
「何か見えたか?」
野郎のズボンが脱げてたか?とからかいながら言うイシシにティナは青い顔で言った。
「あの人顔が溶けてる!」
「なにをバカな・・・」
「ホントだってばさー!」
ティナがしつこく言うのでイシシは遠眼鏡を覗いてみる。すると・・・
『ギャアアァ』
『アチチ!』
水夫達は日光を浴びる度に肌が焼けて溶け落ちていく。おそらくは簡単な方法で人に化けていたものが文字通り白日の元に晒されて炙り出されたのだろう。
焼けたマストや帆を他所に甲板であたふたと逃げ惑う理由がイシシにも理解出来た。
「こりゃやべぇ、ありゃ幽霊船だったのか!」
水夫達は恐らくゾンビや幽霊の類なのだろう。それが人間に化けて海に出ていたが帆とマストが焼けて日陰が無くなったことで正体を現したのだ。
「操舵の腕前のわりに慌ててる時間がなげぇわけだ。奴ら火じゃなくて太陽に焼かれてるんだ」
「お頭!霧が!」
マストの上の見張りが叫ぶ。イシシが通り過ぎた船を見ると二隻を覆う様に霧が立ち込め始めた。
「こんな晴天に霧だと?」
「船長、あそこ!」
ルナが指差す先にはローブ姿の男が杖を掲げているのが見える。船と水夫を守る為に水を操って霧を起こしているようだ。
「こりゃやばいぞ」
「なにが?」
イシシの言葉にティナがあっけらかんと尋ねる。イシシは呆れた顔をしながら続ける。
「幽霊船はただの攻撃じゃ効果が薄いんだ!追いつかれたら事だぞ!」
「じゃあ何が効果的なのさ?」
「そりゃあ坊さんの作った・・・聖水・・・とかだな」
そう言いながら全員の視線がルナに集まる。イシシも自分で言いながらルナを見て、そして大声で叫んだ。
「聖水作成開始ィーーーー!」
「はぁい」
イシシがそう言うと船員が銀で出来た容器を持ってくる。そしてそこに水が注がれ、ルナが小皿に取った塩を祈りながら水に入れる。そしてそれを混ぜ、その間もルナは手を合わせて祈り続ける。
「出来たっ!これは覿面だぞ!」
即席だが祈りを込めた聖水が完成した。本来ならば全ての材料はもっと清らかなものがよろしいが・・・。
「それで!この聖水をどうすれば!」
「相手が近づいて来たら撒いて追っ払う!」
「その後は?」
「また聖水を撒いて追っ払う!この繰り返しの間に普通は逃げる!」
「ダメじゃん!」
幽霊船相手だと関わらないのが鉄則である。乗りつけられたら大量の幽霊がやってくる。
いくら荒くれ者の海の男といえど実体のない幽霊には無力なのだ。
「ってかそもそもそれならルナちゃんに結界を張ってもらえばいいじゃない」
「・・・それもそうだな」
イシシがそう言うと今度はルナにチョークを持たせて船のあちこちに聖句の文字を書かせる。
そしてその後に甲板の中央に立って祈りを捧げると聖句が光り始めた。
「これでしばらくは大丈夫です、けどこれは物理的な力を防ぐ術はありませんよ」
「物理的な力って言うと・・・」
イシシがギョッとしたのと同時に追いすがってきた二隻の内の一席が霧を纏いながら接近してくる。
霧で太陽の弱体化をシャットアウトした船は常識の通じない速度で命知らず号に接近するとそのまま体当たりを仕掛けてくる。
「乗り込んでくるぞ!」
鉤縄が飛んでくると同時に縄の上を滑るように幽霊がやってくる。しかし幽霊はそのまま命知らず号に張られた結界に阻まれてはじき返される。
「さっすが!頼りになる!」
「おらっ!聖水!」
船員がスプーンに掬って聖水をやってくる幽霊船の水夫に浴びせている。ゾンビたちは結界を持ち前の頑強さで越えようとしてくる。それに対抗するためだ。
『アチチ!』
『聖水だぁ・・・!』
聖水で怯んだところを船員がモップで足を引っ叩く。するとバランスを崩したゾンビは縄から海に落ちていく。
「おらっ!このやろう!」
『あ、ああーっ!』
「聖水モップ!」
『罰当た・・・アッチ―!』
手で掬って掛けたりとケチりながらではあるがそれでもかなりの効果がある。ゾンビや幽霊はかなりグロテスクな見た目をしているが命知らず号の船員達はまったく恐れる様子がなく、侵入しようとしたゾンビを海に突き落としたり鉤縄のロープを切り落としたりと手際よく対処している。
「お頭っ!鉤縄は全部きれやした!」
「よし、こいつらはほっとけ!どうせ結界で入ってこれやしねえ!頭を潰して終いにする!」
イシシは二隻の妨害にめげずに進み続ける命知らず号の船首に立つと槍を手にとった。振りかぶって狙いを定めると
槍を握る手と腕にみるみる内に血管が浮き上がり、掴む箇所からミシリと軋む音が響く。
「どっせぇぇぇい!」
空気を切り裂く音と共にロープを繋いだ槍がうなりをあげて飛んでいく。そしてそのまま密輸船の船尾にその槍が深々と突き刺さった。船が揺れ、密輸船から悲鳴が漏れた。まるで大砲のような威力だ。




