出航!命知らず号!
皆が色々と役に立っていた。しかしそうなると・・・。
「お頭ぁ~」
「なんだ気色悪い声出しやがって」
船員達がこぞってルナ達を乗せたままにしたがりはじめた。
「あの子達もうちょっと乗せときませんか?」
「バカ言うな、離島が近づいたら小舟に乗せて送り出すぞ」
「そこをなんとか!」
イシシは怒鳴りつけたくなったが船員の顔を見ると困ったことにどいつもこいつも船の保守点検に熱心な船員ばかりである。
「船の空気も良いし、あの子が魔法を使うとシラミもゴキブリも皆逃げてくんで大助かりなんすよ」
船員からお金の入った小袋を渡されて上機嫌なティナが見える。どうやら彼らが使っている倉庫の害虫駆除をやって来たようだ。雷の魔法は生物に良く流れるので小さな虫などを駆除するのにもってこいなのだ。
「掃除にあれだけ水を使えたのは初めてっす!」
クロエの周囲に布を吊るすだけでビショビショになるのを良いことに船員は布から滴る水を集めて掃除用の水にしている。そのおかげでどんどんと甲板は綺麗になっている。真水が貴重な船上ではクロエはかなり貴重な存在である。
「ぐ、ぐぬぬ」
「それに尼さんにお祈りしてもらえるなんて縁起も良いじゃないですか」
ルナが練習がてら聖句を唱えながら甲板から船室までを練り歩いている。ウェパルの信者であるワイルビーの住人は日光教の信者でもあるのだ。日光教は秩序を乱さない限りあらゆる信仰の守護者である。
その中で港町の皆と契約し、彼らを護る役割を担うウェパルはその点と信仰に置いては日光教と敵対しない。
実際問題排除できるのはエトナ―くらいなもので誰もそのようなことはしないし、そうすると報復に港町が海の底に沈むことになるのでできてもやらない。被害が多すぎる上にそうなると海に出る度にウェパルと敵対することになるのでマイナスが多すぎるのだ。
「それに可愛いし」
「それなー」
船員達が口口にルナ達を途中で下船させることを渋り始めた。イシシは全員をボコボコにしてやりたかったがそんなみっともないところを部外者に見せるのも嫌だったので非常に悩んだ。
(ええいくそ、こんなことなら中型船か漁船に乗せて送ってもらうべきだった・・・)
頭をばりばりと掻いてイシシは諦めた様子で言う。
「好きにしろ!ただし嬢ちゃんたちが降りるといったら降ろすからな!」
そう言いながら船長室にイシシは入った。カティナのおかげかいつもの獣臭い部屋が何も臭わないのでちょっとだけ船員達が渋る理由がわかった。棚に隠しておいた酒瓶を傾けるとイシシは航路図を見て作戦を頭の中で再確認する。
(この調子ならおそらく帰ってきた奴らと鉢合わせるな、臨検して黒なら拿捕するだけだ・・・だが果たしてそう上手くいくか)
実際問題彼らがただ秘密裡に出航しただけなら問題ない。実際つまらない話だが貴族連中がハレンチな買い物やこっそりと嗜好品を仕入れる際家族や知り合いにバレるのを嫌がって身元を隠すこともないわけではない。
そう言った場合に口止め料などを受け取って知らぬ顔をするのが通例でもある。
「お頭!大変だ!」
「なんだ!」
考え事をしながら航路図を睨んでいたイシシの部屋に船員が飛び込んできた。
大層な慌てぶりにイシシは酒瓶を手に持ったまま甲板に飛び出した。
「何があった!」
「あれをみてくだせえ!」
甲板に出ていた船員達が怯えた様子で海を見ている。イシシが船員を押しのけて海を見やると・・・。
「セイレーン!なんでこんなに・・・!」
女性の上半身に魚の下半身を持つ海の歌い手、セイレーンが命知らず号を囲むように多数現れたのである。
一人や二人ならばともかく船の周囲に多数のセイレーンがこちらを伺うように海上を並走にしているのだ。
「あー・・・これってもしかして・・・」
イシシも仰天している中、ティナがちらりとルナを見やる。他のメンバーよりもルナの事情に詳しいティナはセイレーンに向かって叫んだ。
「御姫様を困らせないでー!!!」
そう言うとセイレーンたちは海上に顔を出すとティナを見上げている。船員達が何の話かと不思議がっているのを他所にティナはつづけた。
「あんまり困らせると御姫様が陸に帰っちゃうよー!」
ティナの声を聞いてセイレーンたちは顔を見合わせるとティナを見て疑うような視線を向けた。
船員達も何を言い出したのかとティナを不思議なものを見る目で見ている。
ティナはそんなセイレーンを見るとルナを連れて戻ると彼女に抱き着いて頬を寄せた。
「ほら、困ってるよー!」
「むーん」
ルナもティナのやりたい事がわかったのか精一杯困ったような顔を見せた。目を伏せて、何となく困ったように眉尻を下げて見せる。するとセイレーンたちは慌てて船から離れていった。
「なんだったんだ・・・?」
「たぶんルナちゃんが陸に行かないように見張らせてるんじゃないかな」
ティナがセイレーンの行動の理由を予測するとイシシはティナの行動力とウェパルの執着心に驚いた。
「なんてこったい、どうあっても嬢ちゃんを巫女にしたいのか?」
「というよりおじさんがルナちゃんを逃がさないようにしてるんじゃない?」
「邪魔だけはしないでほしいもんだ」
ティナが身を乗り出して船尾の方を見ると数は減ったがまだ一人か二人のセイレーンが船の後をついてきているのがわかった。ルナの動向をどうしても把握しておきたいらしい。




