開祖の聖職者とは?
開祖の聖職者の衣装がとてもセクシーな理由をガラバは慌てて説明し始めた。
「この港町の開祖とされる聖職者の女性はワイルビーの聖女と呼ばれるお方で、この港町に流れ着いた人々を導き、ウェパルとの交渉を行ってこの町をつくったと言われています」
「それはイシシさんも言ってましたね」
ウェパルを信仰することで様々な恩恵を受けているということは皆が知っている。そしてそれにあやかって毎年祭礼を執り行うことも。
「それで、この衣装の理由は?」
カティナはルナを隠すように立ちながら言う。日光教の教えと淑女としての礼儀の観点からも若い未婚の女性がむやみに肌を晒す事は良くないとされている。そうでなくとも足を大胆に露出する意味ともなれば聞きたくもなるだろう。
しかも肌を露出させているのはまだ半人前とはいえ僧侶なのである。
「は、はい・・・それはその聖職者が後に人魚となって海に飛び込んだ伝説があるからですね」
ワイルビーの港町を長く見守るため、最期に聖職者は信仰よりも博愛の精神とこの港町とそこに住む人々への愛情を優先してその当時はまだ魔物とされていた人魚に姿を変えて海に飛び込んだ。そしてウェパルの部下の一人として仕える代わりにこの港町を永く見守っていると言う言い伝えである。
「優しい人だったんですね・・・もしかしてエトナ―さんも知ってる人かな・・・?」
ルナがちょっと感動している隣で
「なるほど、人魚だから下には何も履いてないんだ」
「下着は流石に履いてるけどね!」
「当たり前でしょ!」
ティナがズレたポイントで感心していた。
スカートなどが無い理由はワイルビーの聖女が海に飛び込んだ時の格好を真似ているからだそうだ。
「それにしてもスリットがこんなに深いのはちょっと変だと思うけどなぁ」
「あぁ、それは祭礼で海に浸かることがあるからですよ」
そしてもう一つの理由は海に浸かって祭礼を行うからとのこと。服は水を吸うと重くなり波に足を取られかねないので水に浸かる際には短く結ぶのだとか。
「海に浸かるの?!」
「えっ?何かありましたか?」
ティナが声を上げたのを見てガラバは目を丸くする。ティナはそんなガラバにイシシと貝殻を拾いに行った時の事を話すことにした。
「何かあったもなにも!イカの脚が伸びて来て襲われそうになったよ!」
「そんなまさか・・・!イカって・・・クラーケンのことですか?」
イカと言われてまさか本当に烏賊だとは思わないだろう。ガラバはしかしそれでも信じられないといった様子で尋ねる。
「人より大きな長い脚だったよ!」
「えぇ・・・?ここら辺では見かけたことなんてなかったのに・・・」
「そういやイシシのおじさんも見てたのに全く言わないんだから困るよ!」
ガラバはそれを聞いて今度は呆れたような顔をした。子供たちならばともかく海に誰より詳しいイシシがそれを言わなかったからである。もしも見ていたならば漁師たちにも注意喚起しなければならないはずだからだ。
「まったくあの人は・・・よほどウェパルの赦しがもらえるのが嬉しかったのか・・・?」
「とにかく、細心の注意を払ってもらわないと!」
「そうですね、しかしウェパルの縄張りでクラーケンが彼女の許可なく人を襲うなんて・・・」
何かあったんでしょうか?とガラバはぶつぶつと言いつつ魔除けや退魔の護符を倉庫に取りに行くとそれを荷車に積んでゴトゴトと荷車を引きながら出てきた。
「とりあえずこれくらいあればっ・・・大丈夫でしょう!」
うんとこうんとこと引っ張りながら祭礼を行うであろう岬へと進んでいく。ティナたちはその姿に逆に不安になりつつもこれだけあれば大丈夫かも?という気持ちになってガラバの後をついていった。
そうして時折ガラバの引く荷車を手伝ったりしつつ丘の上から港町へと降りていく。すると・・・
「すっごい見られてますよ」
「・・・しかたありません・・・ふうっ、これがっ・・・名物でも・・・あるのでっ!」
伝統の衣装に身を包んだ乙女。祭礼でしか見られないものだが若い女性が着飾って町を歩いているのだから目を引くのも当然かもしれない。また祭礼は地元にとっての重要な儀式であるだけなく、それを知る人たちにとって観光の目玉でもあるのだ。季節外れとはいえそれが見られると知った者からルナ達を一目見に来る為に通りにやってきていた。
「ルナちゃん大人気だねぇ」
「・・・ちょっと恥ずかしいかも」
祭は人の気持ちを盛り上げるものだ。そうなるとハメを外すものもでてくる。そして当然というべきかルナ達の傍には男たちがじりじりと距離を詰めて来ていた。
「祭礼を行うんですよ!道を開けてください!」
ガラバがそう言うも男連中は滅多に見れない若い他所から来た女の子に目が行っている。何人かは地元のおばちゃんたちに叱られて引っ込んでいるが何人かがルナ達の前に出てきた。
「こんな季節に祭礼なんてないでしょ?俺たちと遊ばない?」
「ちょっと・・・困ります」
ガラバが叫んでいるがどこ吹く風。港町の男は都会からやってきた女性と関係を持ちたいとばかりに声を掛けてくる。そうしてルナ達が困り果てていると港の方角から騒ぎを聞きつけてイシシが戻ってくるのが見えた。
「あ、おーーい!イシシさーん!」
ルナが手を振るとイシシはそれに目ざとく気付いてこちらにやってきた。
「どうしたんだ?遅いから迎えに来ちまったぞ」
「魔除けが・・・必要だったからですよ・・・!」
イシシがやってくると男たちはまるで波が引いたように居なくなった。イシシは少し不思議そうにしつつも自分の用件を優先したいらしく皆に急ぐように促した。
「魔除けがか・・・?まあいいさ、とにかく始めようぜ。日が暮れると大変だ」
イシシが荷車に手を置いて歩き始めるとガラバが力一杯引いていたのが嘘のように軽い動きで進みだした。




