なっがい!
ルナはその名前の由来をほへーとなにやら不思議そうな顔をしながら聞いていた。
「それで、長いから頭文字を繋げてイシシと名乗っているわけだ」
イシシの説明を聞き終えるとルナはそこから感心したような表情に代わってうんうんと頷いた。
「イシシさんのお祖父さんは縁起のいい名前をつけたんですね」
その一言にイシシとガラバは頭に?を浮かべて首を傾げた。ルナは二人にこう続けた。
「だってその三隻の船とそれを手に入れた経緯が今のワイルビーに繋がっているんですよ?」
「それはそうだが・・・」
「命知らず号を手に入れたのが最初の成功で、それからの成功のきっかけ・・・その時に得たお宝をウェパル様に渡したことで勝者の総取り号と死なば諸共号を貰って、それを元に仕事の手を広げて・・・それがワイルビーの発展に繋がった」
全ての成功の源流がその三隻なんですね。とそう締めくくった。
「最初はちょっと驚きましたけど、とてもいい名前だと思います」
「そ、そうかい?・・・ありがとうよ」
イシシはルナを感心したような目で見ると、短くそう答えた。彼女は家族やその繋がりを大事にする人物だということがその言葉から察せられたからだ。家族を大切にする人は繋がりを大切にする人だ。
血の繋がりやその由来を大事にする人は誇りを持つ人だと思う。そしてそれを尊重できることも。そう言う人物と友誼を結ぶ事は時に金貨よりも価値のあることだとイシシは思っている。
それを差し引いても善人であるということは彼女の人となりを見てすぐに察せられたが。
「さて、名前がわかったところで少しずつ彫っていきましょうか」
ガラバはそう言うと笑顔で二人にそう言った。
『ご報告を』
深い海の底。魔界と人間界を唯一繋ぐ未知の領域がそこにはあった。数千年前に外より飛来した魔神を封じた事で海底は深いマナの湧き出す場所となった。その為に海ではそこに縁のある悪魔が魔界の海と人間界の海を繋いで自由に行き来することができるのだ。
それ故に海に属する悪魔は他の悪魔よりも力の強い悪魔が出てくることが多く、それに対抗したり難を逃れるために大悪魔に祈りを捧げる者が多い。
『・・・何事か』
海底に作られた宮殿の玉座に身を預けていた大悪魔ウェパルはまるで砂遊びでもするようにうずたかく積まれた財宝を手で掬ってはざらざらと指の間から零れさせ、手遊びをしながら言う。
船を片手で沈めてしまえるような巨体の持ち主である彼女にとっては金貨の山も砂場の砂に等しい。
望まずともなにかにつけて送られてくる貢ぎ物が彼女の宮殿を満たしているのだ。
『ワイルビーに姫君が』
報告にやってきたクラーケンが短く呟くと退屈そうにしていたウェパルは彼に顔を向けた。
『真か?』
『は、祭礼に使う貝殻を集めていたようで・・・』
クラーケンは上位悪魔に属する個体だった。ただの魔物からネームドになった彼は言語を操り、知識を蓄えている。そしてその行動範囲からウェパルの耳として世界中の情報を海から集めているのだ。
『どうやって感知を?』
『海に入った時に偶然魔力を感じました。凄まじい量なので接触を試みたところ聖術で攻撃を受けましたので間違いないかと』
魔力と聖力は本来反発する存在である。強い魔力を帯びた魔法使いは聖術を使うことはできない。プラスとマイナスの力で根本的な力のベクトルが違うためだ。魔法ならば月、聖術ならば太陽という異なる神を信奉するからという理由が根本的な原因とされてきたが魔力自体は誰でも持っているためこれは宗教的な問題であった。
聖術は祈りと清い心から産まれる聖なる力を元にしている。これは魔力とのバランスの上で魔力を上回る必要があり、そのために魔力の循環や増幅を抑える必要がある。その為に聖術を使う聖職者たちは魔力の器官が発達するのを避けるために極力魔法を使わない。
『海と縁のある力を強く感じたので、そのような者が何故地上から?と思ったのです』
しかしその海に現れた少女は強い魔力と海との親和性、そして聖術という相反する要素をもってクラーケンを撃退せしめるだけの実力を示した。
『なるほど、確かにそのような特徴を持ちながら聖術を使えるとなれば彼女しかいないだろうな』
ウェパルはクラーケンの報告を聞くと露骨にそわそわしだした。海の悪魔は陸上では生活できない。
大悪魔という制約もあり、地上では猶更その行動範囲は狭くなる。
つまるところ彼女に召喚されるか、彼女が海に来てくれるかのどちらかでないとウェパルは彼女と会えないのである。
『彼女が祭礼を取り仕切るとなれば相応の対応が必要になります、イカがいたしましょうか?』
『当然私が出向くしかあるまい』
クラーケンがえっ、と言うよりも早く彼女は玉座から立ち上がり宮殿を飛び出した。
海を支配する大悪魔、古代の創世に関わる神格を除けば海に置いて並ぶものなし。彼女の出立は海を大いに騒めかせる。
偉大なる公爵が、強大なる御方がご出立なされる。皆、海に生きる者は皆頭を垂れよ。




