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悪魔になったらするべきこと?  作者: Faust
ルナ、水軍の船長と出会う
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イシシはこうしてイシシという名前になったのだ!

そうして商会と船乗りとして順風満帆の人生を歩んでいたイシシの祖父にさらなる幸運が舞い込んできた。

イシシの誕生である。彼は実の父親以上にその誕生を喜び、さらには父親が航海で留守だったのを良い事に産まれた子供の名づけまで勝手に考えていたという。


「おじいちゃんは皆そんなんですねぇ」

「それだけじゃないんだなぁ」


そう言うと事情を知るイシシは遠くを見るような目をした。

と言うのも祖父は名うての船乗りであり、私掠船を率いる荒々しい生活が続いたせいで妻からいつも小言を貰う日々だったとのこと。

船乗りは一度海に出れば数ヶ月帰ってこない事もある。漁師の時分はそうでもなかったが腕っぷしに物を言わせる私掠船の船長となってからは儲けた分だけ遊興費と設備の投資に費やした為に台所事情もかなり厳しく、それでいて若い衆の食事の世話と港町の奥さま方の纏め役でもあった為に苦労のほどは凄まじいものがあったと言う。

船の上では恐れ知らずのイシシの祖父も家に帰れば恐妻家だったのだ。後ろめたい気持ちもあるだけに尚更頭が上がらなかった。


「祖父さんが大人しくなるのは何時だって祖母ちゃんの前だけだった。親父も似たようなもんだったが」


そんな頭の上がらない相手が唯一穏やかになる瞬間。それは子供が産まれることだった。家を空けてばかりの夫と違い、大きくなった途端に父親に似た息子と違い、孫ともなればやはり可愛いのだ。実際はその孫もやはり血には勝てなかったが。


「祖母ちゃんが優しいと祖父さんも嬉しい。そう言うわけだから非常に祖父さんも機嫌が良かったんだな」


実際問題自分としても孫は可愛かったのだろう。イシシが産まれるまでは普段と違って家でおとなしくしている時間が長く、祖母も笑顔だった。しかし人は働かないと生活がワンパターンになる。イシシの祖父は元より船乗りで、船では貴重な真水よりも酒を飲むことが多かった。

イシシの祖父は大酒飲みであり、普段の保存の利く酒ではなく地上で手に入る美味な酒をイシシが生まれる前祝いとばかりに傾ける日々が続いていたのだ。


「そして俺が産まれた日に船で航海に出ていた親父に代わって祖父さんと祖母ちゃんがその場に駆け付けた」


母子共に健康で順調なお産が終わり、産婆に謝礼をたんまり持たせて帰らせた後に僧侶が入れ替わりでやってきた。

彼らは役所に名前を届け出る役割も持っていた為に産まれたばかりの子供の名前を聞きに来たのだ。


『母子の健康をなによりもお祝い申し上げます。新たな生命の誕生に陽光の祝福があらんことを』


やってきた僧侶は祝辞を述べつつ、その場に集まった親族を見渡した。彼らも名づけに関して一朝一夕で決まらないことがある事は知っている。しかしながらこの場に置いてもっとも発言権のあるだろうイシシの祖父に僧侶は目を向けた。


『親族の代表としまして、船長にこの子の名前を聞いても?』


親類はその僧侶の判断を正しいと思った。こういった場でもっとも権威ある者を見抜いた目利きにさすがに僧侶だとも。祖母は母親につきっきりで看病していた為にここには男しかいなかった。

なので男たちはこの中で権力も、そして血筋としても近いイシシの祖父に名づけを任せようとなった。

そこまでは良かった。当然の流れである。


『ウィッ・・・ク、産まれた、産まれた!祝いの杯を掲げろぉ!』


ただその一族の長といってもいいイシシの祖父がすでにへべれけだったことを除けば。


『あの・・・』

『海の男だ、絶対にいい船乗りになるぞぉ・・・!』


ゲン担ぎの為なのかかつて船を拝領した時に着ていた服装に三角帽をかぶった海賊スタイルで酒瓶を握りしめているのだ。返事が返ってこないことに困り果てていた僧侶と親類だったが意を決して僧侶は再び彼に尋ねた。


『もし、お子さんの名前を・・・』

『名前だぁ!!!?』


突然気が付いたように叫んだイシシの祖父に全員が仰天していると祖父は酔っているとは思えないほど力強い足取りで立ち上がると叫んだ。


『命知らず!勝者の総取り!!死なば諸共!!!』


大きな声でそう宣言したので再び周囲は仰天した。それは船の名前では?と思って首をかしげる者も。

僧侶も驚いたように目を瞬かせながらイシシの祖父に尋ねる。


『ええと、それがお子さんの・・・?』

『そうだっ!!!それが名前だぁっ!』


そう言うとイシシの祖父は腰に差していたカトラスを抜いて僧侶の鼻先に突き付けた。


『ひえっ!』

『命知らず!勝者の総取り!死なば諸共!これが名前だ!!次に聞き返しやがったらテメエの耳と鼻を削いで焼いて食わすぞ!』


老いたとはいえ熊のような大男である。カトラス片手に酔って赤ら顔になったイシシの祖父は相当な威圧感をもっており、当時はまだ魔物と戦う僧侶も多かった中で彼らの胆を潰すのに十分な迫力があった。

僧侶は滝のように汗を流しながら頷くと書類に震える手で名前を書いた。


『い、命知らず・勝者の総取り・死なば諸共が産まれた事を今日、この日に証明するものであるっ!』

『ガハハハハ!俺たちの孫が産まれためでたい日だ!海の大悪魔もきっと祝福してくださる!』


呆気にとられる周囲と逃げるように立ち去った僧侶を他所にどこまでも上機嫌なイシシの祖父の笑い声が響いていた。

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