ようやく教会へ
少しすると奥様方は港町で働く亭主や労働者の為の昼食づくりのために散り散りになっていった。
まるで嵐のようであった。全員は気が付くと人が疎らになった港町の通りに呆然としていたのに気付いた。
「すごかった・・・」
「クロエちゃんは?」
「わかんない、どこ行ったんだろう・・・」
立ち尽くしていた中に何故かクロエだけがいなくなっていた。どうやら一行の中で一番血色の悪い見た目だったのが災いしたのか昼食の席に拉致されてしまったのかもしれない。おばちゃんたちはなにかと食べさせたがるのだ。
「いやぁ、有意義な時間だった」
そして一人だけ元気なのがティナである。儲け話が転がり込んできたのがよほどうれしかったようだ。
海路とは貿易の要と言っていい。大聖堂のある街には川が通っているところもあって、マリーがバンシィになった時に使った川であるがそこは海に一本道で繋がっており、海から船で昇ってくることができるのだ。
船の大きさや、動力の関係で制限こそあるもののもしワイルビーで販路が開拓できれば商船を組織して交易品を街に卸す事ができるかもしれない。
「おーい」
くたびれた様子のイシシがこちらにやってきた。言葉の暴風雨に晒されたらしく随分と疲れた様子が伺える。
「イシシさん、大丈夫でしたか・・・?」
「そっちこそ、相変わらずすさまじいもんだ」
「まあそれは街でも変わりませんけどね」
どこもいっしょかー、とイシシは溜息をついた。そして人数が減っていることに気付いたらしくひーふーと数えてる素振りをしてもう一度溜息をついた。
「顔色の悪い子がいないな」
「どうしましょうか・・・」
「まあ・・・悪いようにはせんだろう、昼飯が終われば解放されると思うぞ」
まるでまるでたまに帰った時の祖父母のような感じなのだろうか。一行の頭の中には食卓について山盛りの料理を前に唖然としているクロエの姿が浮かんでいた。
「昼ご飯がそのまま夕ご飯になったりして」
「いくらなんでもそんな・・・」
「でもご主人様の家と同じくらい出たらそうなると思いますよ」
その一言にルナは硬直した。
「ま、まぁとにかく!一旦教会にいくぞ!」
イシシに連れられて一行は丘の上にある教会へと足を運んだ。
教会は頑丈な石造りの建物で、聞く所によると暴風雨に晒されても大丈夫なように作られており津波などの際の避難所も兼ねている為に高い所に建っているのだそうだ。
「おーい!ウェパルの赦しを作りたいんだが!!!」
教会の外から建物が揺れそうな大声でイシシが叫ぶと教会から若い男性が出てきた。どうやら食事中だったのかもぐもぐと口を動かしている。
「もぐもぐ・・・」
「さっさと飲み込んでくれないか、人をまたせてるんだが」
昼時に押し掛けてこの言い草である。男性はやや恨めしそうにイシシを睨んでいたがルナ達を見ると驚いた様子で慌てて食べ物を飲み込んだ。
「お客様がいるじゃないですか!」
「だから人を待たせてると言ったろ」
男性はあっけらかんとしたイシシに一瞬凄い顔をしたがすぐにルナ達に笑顔を向けた。
「ようこそワイルビーへ、お嬢さんがた。私はこの教会を管理する僧侶のガラバと言います」
「初めまして、ルナといいます。大聖堂の聖人様から祭礼について教えていただけると聞いて友達とやってきました」
ぺこりと頭を下げて挨拶すると男性ことガラバは嬉しそうに頷いた。イシシはそんなガラバを見てティナたちにこっそりと耳打ちした。
「アイツ坊主の癖にスケベだから気をつけろよ。いい年なのにお嬢ちゃんみたいな子ばっかり見てるんだ」
「ええー・・・」
「最低ですね」
「破戒僧だ」
イシシの言葉を受けて全員が一歩下がった。それに気づいたガラバは慌てて否定する。
「そ、そんなことあるわけないでしょう!私は敬虔な日光教徒です!」
「ワイルビーはおばちゃんばかりだからな、スケベ虫を治すのにちょうどいい赴任先なんだ」
「あなたと言う人はーーーっ!」
顔を真っ赤にして怒るガラバに対してイシシは涼しい顔だ。元より僧侶や目上の人間というのに対して反骨心があるのかもしれない。
「がはは、悪かったよガラバ。それよりこの尼さんに祭礼のやり方とウェパルの赦しの作り方を教えてやってくれ」
「まったく!とりあえずこちらへどうぞ、町で宿を取っていないなら教会にも宿泊の用意がありますからお好きなように使ってくださいね」
「はぁい」
イシシには怒った顔を見せつつもルナ達にはすぐに笑顔を見せる。そして教会にある宿泊スペースを指差した。
そこには教会の規模にしては立派な小屋が建てられており、ティナが中を覗いてみると出入り口に鍵のついた立派な玄関が。
「鍵つき!」
「厳重ですね、どうしてでしょうか?」
「そこは本来祭礼の時に尼さんや巫女さんが使う小屋だからさ。男が入り込んで間違いが起きないようにしてんのさ」
「間違い?」
「ルナちゃん、貴女はそのままでいて頂戴ね」
イシシの言葉に首を傾げるルナにカティナはルナを後ろから抱きしめるとまるで母親のような眼差しを向けていた。




