船乗りたちのマストアイテム
イシシの案内を受けてやってきたのは港町から少し離れたところにある入江だった。
港のあった場所とくらべて遠浅らしく砂浜が小さく広がっている。
「ここは?」
「ウェパルの赦しの材料である貝殻が取れる場所だ。あそこに貝殻が落ちているのが見えるだろ?」
イシシが指さすとそこには大小さまざまな貝殻が散らばっているのがみえる。
「ここは海流が特殊でな、貝殻やら細かいものが何故かここに流れ着くんだ」
イシシが言うには祭礼を行うためにウェパルが海流を操作しているのではないかとのこと。海流にのって砂や貝殻が集まって遠浅の入り江ができたのだろう。それだけ海の男たちとウェパルの交流は長いということになる。
「海流を操るなんて流石大悪魔ですね・・・」
クインクが地形すら変える大悪魔の力に畏敬の念を抱いているとティナが首を傾げた。
「材料があるなら勝手につくっちゃだめなの?」
「勿論ダメだぞ。そもそもあそこには聖職者の、それも純潔の乙女じゃないとダメなんだ」
「なんで?」
ティナがあっけらかんと尋ねる。イシシはそれに対して言い伝えを交えて言った。
「この港町を拓いた開祖は言い伝えによると女性の聖職者だったらしい。そしてその聖職者が自身を清らかに保ち、海を汚さず、この港に住む皆をウェパルの信者とする事を約束することでこの港町の繁栄を祈願したんだ」
「ほへー」
「そのために祭礼を行う聖職者は皆純潔の乙女から選ばれる。開祖の言い伝えの通りな。そして契約の履行という意味でもそれは外せないんだ」
純潔の聖職者によって祭礼を執り行うのは伝統だけでなく契約を毎年更新し続けるという意味合いもあるのだという。それを違えればこの港町は逆にウェパルの脅威にさらされることになる。そうなればこの港町が数日の内に地図から消えてしまうのは想像に難くない。
「それじゃあ彼処に入れるのは私だけなんですね」
「そう言うこった、お願いするよ」
魔物に対抗できる乙女なんて聖職者くらいだから、とイシシにお願いされルナは砂浜に足を踏み入れた。入り江は青く澄んでおり、遠くまで底が見えるほど透明度が高い。
砂も非常に細かく、手ですくってみると風に乗って散っていくほどだ。
「限られた人にしか入れないなんて、凄い贅沢・・・」
あまりの絶景にぼんやりしていたルナも用事を思い出して貝殻を探し始める。
「どんなのがいいかなー」
『大きいので頼むぞー!!!』
ルナの疑問に答えるようにイシシの大声がルナの背中を叩いた。船の棟梁らしく声が良く通るようで振り返るとイシシはかなり遠くに立っていた。
「わかりましたー!」
『聞こえなーい!!!』
返事の大きさにひっくり返りそうになりながらルナは大きな貝殻を探し始める。そうすると一つ困った事がわかった。
「打ち上げられてるのは小さい奴ばっかりだなぁ」
当然ながら波に乗って上まで運ばれてくるのは良くても手の平サイズ。試しに拾って見せた所ジェスチャーでダメだと言われてしまった。どれくらいならば良いのかは分からなかったがとにかく手よりも大きい方が無難だろう。
ルナは意を決して靴を脱ぎ、スカートをめくって高い位置に結んだ。
「もうすこし・・・」
穏やかな波のおかげで少しくらいなら入っても問題ない。季節の割に水温も高く、少し冷たいくらいだ。
ルナはそのまま貝殻を拾っては大きさを比べていく。
すると大きな貝殻が見つかった。手が隠れるレベルの大きなものだ。これなら満足してくれるだろうと思いながら手に取ったが・・・。
(これって、ネックレスにするんだよね・・・?)
エトナ―から預かった首飾りを見てみる。これがウェパルの赦しならばイシシはこれを首にかけることになるわけだが・・・。どう見てもデカい。これでいいんだろうか。そう思いつつ浜に戻ろうとすると・・・。
『後ろーーー!!!』
なにやらイシシが騒がしい。何のことだと振り返ると・・・。
「?」
海からなにやら太い触手のようなものが伸びていた。ルナはそれを見て仰天していると彼女を正気に戻すような大音声が響いた。
『クラーケンだ!!!水から上がれ!!』
イシシが叫ぶとルナは慌てて浜へと走った。しかしわずかに触手の方が早い。逃げきれないと悟ったルナは振り返るとエトナ―に教わった聖術を放った。
「光よ!穿て!」
手を組んで軽く祈るとその手に光が宿り、言葉と共に手を前に突き出すと手に宿った光がまるで槍のように尖って突き出されると触手の一部を貫いた。
「!!!」
触手はその行動に驚いたのか攻撃を受けた後、しばらく暴れていたがすぐに引っ込んでいった。
「危なかった・・・」
ルナは靴を拾うとすぐにイシシ達の元へ戻った。
「危なかったな・・・、しかしさすが尼さんだ。聖術で追い払うとはな」
そういいながらイシシは袋から灰を取り出すとルナに振りかけた。
「これは?」
「山のてっぺんに生えてる木の灰だよ。お前さん海の魔物に好かれやすいみたいだからな」
これで海の匂いを弱めるんだ。とイシシは言う。どうやらこの港町に伝わる魔物避けのおまじないらしい。
「まあこれで聖職者じゃないとダメだって言った理由がわかったろ?そこのお嬢ちゃん、貝殻が売れそうだからって勝手に取りに行くなよ。海の魔物の餌になっちまうからな」
「頼まれたって行かないよ!」
ティナが嫌そうな顔をしながら叫んだ。




