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魔界はどんなとこ?

ルナは最初こそワクワクしていたがやがて時間が経ち始めるとその興味は魔界に生える植物に移っていた。


「わ、この草・・・口がついてます!」

『肉食だから触っちゃダメ』

「そうなんですか!?」


魔法使いに適性があると大抵好奇心が強くなるという傾向があるらしい。根拠らしい根拠もない俗説だが今の彼女を見ているとどうにもそれが事実に思えてしょうがないルルイエである。


「木の枝突っ込んだら齧りました!」

『指だったら無くなってたわね』

「ひぇっ・・・」

『あんまりそこらへんのモノを触ったりしちゃダメ。じっとしててちょうだい』

「はぁーい」


怯えるどころか太陽を見上げて不思議そうにしたり、魔界の植物を木の枝で突いてみたりと放っておくと何をしでかすかわからないのでルルイエはルナを隣に立たせてじっとするように言い含めた。それでも興味は尽きないのかそわそわとしている。


『遅い・・・』

「先生、なんか見た事のない鳥が!」

『指さしちゃダメ、寄ってくるから』

「すいません寄ってきたみたいです」


嘴の中にヤスリのような牙がびっしりと生えた鳥がこちらにやってくる。どうやらルナが指さしたのを見てホントに寄ってきたみたいだ。


『あーもう』


ルルイエが鳥に向かって手を翳し、その後ギュッと握ると鳥はたちどころに雑巾を絞ったように捻れ潰れて落ちていった。


「うわー」

『あれも肉食だから関わったらダメ!』

「はーい」


その後も何度かルナ目当てに寄ってきた魔物をルルイエが捻ったり潰したりしながら待っていたが・・・。


「来ませんね」

『うん・・・』


ルルイエは少しだけ自分の胸に手を当てて今のこの状況に対しての心当たりを考えてみる。

かつてこの魔界をしっちゃかめっちゃかにした。バエルを氷漬けにしたこと。アモンの服をショッキングピンクに染めたこと。庭師の刈り込んだ木に魔法を誤爆して枯らしたこと。彼らのくだらない計画をエトナ―に通報したこと。

悪魔崇拝者を軒並み改宗させてへんてこな宗教を立ち上げさせたこと。狂気の魔法で魔界を数か月間お祭り騒ぎにした。天使の使う剣で大悪魔の尻を突いたこと。


(心当たりしかないわ・・・)


悪魔の計画を通報したことに関してはエトナ―も感謝していたがその内、なにかと泣きつくことが多くなったのでエトナ―の表情も険しくなっていった。まあ、それ以外でも色々と彼女にはお手伝いもしているからノーカンなはず。

たぶん、きっと、おそらくだが。


(とはいえ、ルナちゃんに関してはちゃんとして欲しいんだけどねぇ・・・)


自分一人ならきっと、拝んだって迎えなんか来ないだろう。泣いて跪いて額を地面に擦りつけてようやく一考の余地ありといったところか。


「・・・?なんだか蹄の音がするような・・・?」


ルナの一言と同時に空をまるで跳ねるように一頭の馬が引く馬車がやってきた。それが普通のそれと違うのは馬車が空を走っていたことと馬の足の数だ。


「足が多い!」


六本足の馬は口から時折吐息の代わりに炎を吐きながら走っており、ルナの前にやってくると速度を落として停車した。


「お迎えに上がりました」

「ご丁寧にありがとうございます」


御者が馬車から降りて一礼する。ルナもそれに対して深々と頭を下げる。


「これはご丁寧に、ですが私は御者でございます。あまりそのようにされると恐縮してしまいます」

「えっと、ごめんなさい。でも私は私の為に何かしてくれる人を軽く扱いたくないから・・・」

「そうですか、それではお気持ちだけ・・・そう思っていただけるだけでも十分ですので」

「むぅ」

『ルナちゃん、職によってはお客様に頭を下げられると怒られる人もいるのよ。わかってあげて頂戴」


それでも少しだけ不服そうなルナだったがルルイエにそう言われて渋々了承した。


「でも、今は誰もみてませんよね?」

『?』

「お馬さんも、よろしくお願いしますね」

「・・・なんとまぁ」


ルナは馬にも笑顔を向けて会釈した。御者はそれに対して微笑ましく見守っていた。

そして予想外に礼を受けた馬もまるで言葉を介するかのように嘶いた。


「なんていってるのでしょうか・・・?」

「尽くし甲斐がありそうだと」

『ㇷ゚ッ』


魔界の動物や魔法に関わる動物などは人の感情を読む者も多い。その中でルナの声と会釈はまるでそれが当然であるかのように感謝と礼儀を持っていたのである。

慇懃なものではなく、かといって粗雑なものではない。儀礼というには簡素ではあったが、なんとも人に限らず万物は単純なもので感謝されると嬉しくなるものらしい。


「それでは我が主の待つ宮殿へ向かいましょう」

「よろしくお願いします!」


笑顔でそう答えたルナにつられて笑みを浮かべながら御者はルナの手を取って彼女を馬車に乗せる手伝いをする。


「あ、申し訳ないですがルルイエ。貴女は自力で飛んでください」

『え、なんで?』

「彼が貴女を乗せるわけないでしょ。近寄れる馬を探すだけで苦労したんですから」

「先生嫌われてるの・・・?」

「うz・・・怖がられてると言った方がいいかもしれませんね」


御者はルナの前なので最大限言葉を選ぶことにした。

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