魔界でルルイエ先生は何をしたの?
御者が鞭をいれると馬車は不満顔のルルイエを放置して走り出した。
「わ、わ、わ!飛びました!」
加速するに従って馬は地面ではなく空中を蹴り始め、やがて馬車もそれに従うように宙に浮き始めた。
ルナは窓からの眺めに目を輝かせている。
『はぁーあ、隣が良かったぁ・・・』
その少し後ろをルルイエがローブを翻して飛んでいる。
「ルルイエ先生飛べるんだ!」
『私が飛べるのは空間だけじゃないわ、こうして宙に浮くことも・・・』
話の途中で馬車が加速してルルイエは引き離される。ルルイエが追いついてまた話しだそうとするとまた馬車は速くなる。
『ちょっと!なんで加速するのよ!』
「隣にいて欲しくないみたいですよ!」
『なんで!』
「鬣を刈られるとか」
『あっ、ハイ・・・ごめんね』
ルルイエはすごすごと距離を取る。
「刈ったことあるんですか?」
「馬が彼女を嫌がる理由ですね。なんでも筆を作るとか何とかで何頭か丸刈りに」
「ひどい!」
『ちょっと!余計なこと言わないでよ!』
ルルイエの奇行が此処に来て色々と掘り出され始める。
「魔力を帯びた道具を作る職人としても名高いのですが」
「おー!」
「同時に悪名も高くて泣いた悪魔が多いだけ効果の高い道具が作れるなんて言われてます」
「えー・・・!」
ルルイエはそれに業を煮やしたのか姿を消すと、即座に馬車の中に転移する。
『これ以上弟子にいらぬことを吹き込まれたくないわ』
「え、きゃっ」
「ぬうっ!」
そしてそのままルナを連れて馬車の外へ転移すると彼女を抱きかかえたまま宮殿へ向けて移動し始めた。
「逃すものか!」
『バーカバーカ!』
「先生・・・」
ルルイエは自分の悪行をバラされたのがよほど腹に据えかねたのだろう。いつもの飄々とした態度はなくなり、御者に罵声を飛ばしながら宮殿へと一直線に飛んでいく。
「先生、私は気にしませんから落ち着いてください」
『私が気にするの!かっこいい先生でいたいの!』
だとすると手遅れな気がしないでもないがルルイエに抱えられるルナはどうすることもできずされるがままである。
御者も御者で大事な乗客を取られたからか、それともルルイエの思い通りになるのが気に入らないのか馬に鞭と檄を飛ばしながら追いかけてくる。
「わー!」
「ええい、ルルイエ!さっさとその子を馬車に戻せ!」
『お断りよ!またダサい服を着たくなかったら大人しく後ろをついてくることね!』
「貴様!」
御者もその言葉に憤慨したのか馬車を切り離して直接馬に跨ると先ほどよりも素早い動きでルルイエを追跡し始めた。
「グラウプニール!あの慮外者を叩きのめすのだ!」
「ガオオオッ!」
御者が叫ぶと馬は火炎を口から吐きながら獣のように吠えたてた。
「かっこいいです!」
『ふん、馬車を捨てたところで空間を跳躍すれば・・・』
ルルイエが魔法を行使しようとした刹那に今度は御者の振るった鞭がまるでロープのように伸びてルナを絡めとった。
「お、お、およよっ!」
『くっ!』
まるで独楽のようにくるくると回ってルルイエの腕から離れたルナを御者が空中で拾い上げる。そして通り抜けざまにルルイエを蹄で追い払った。
「改めて、我らで参りましょう」
「め、目が回る・・・」
御者のどや顔に馬の満足そうな嘶きが加わる。そして今度はまたルルイエの機嫌が悪くなる。
『駄馬が!その鬣を丸刈りにしてやる!』
「おおこわい、だが跳躍で私達に追いつけるかな?」
馬車の不利を捨てたおかげか馬の速度は飛躍的に高まり、空中を風を切って走っていく。見た目こそ馬だがまるで鹿などが見せる跳躍を繰り返すような移動方法でさらに加速を加えていく。
「喧嘩しないでくださーい・・・」
「『喧嘩じゃないわ(です)、コイツにアナタを渡したくないだけです』」
「えぇ・・・」
二人の攻防はルナを無視してヒートアップしていく。今の見た目は姫を守る騎士とそれを奪わんとする魔女の構図であるが、どちらも姫の都合なんぞお構いなしである。
「・・・」
「鈍ったか!」
『黙れ!その服を今度は虹色にしてやろう!』
高速移動と魔法と鞭の応酬。ルナの視界は目まぐるしく動き、それに続いて鞭が出すであろう破裂音と魔法が出すであろう爆発音が響く。
そうなると当然であるが・・・
「うっぷ・・・」
ルナは酔った。ルナの顔色がみるみる内に悪くなっていくのに二人が気付くのは彼女がそろそろ胃の中身を吐き出しそうになったころ合いだった。
「勘弁してください・・・」
青い顔でそうつぶやいたルナは一旦休憩にして野原に降りろしてもらった。未だに回っている世界の中で絞り出すような一言である。
「面目ない・・・」
『ごめんね・・・』
二人も流石に反省したのか気まずそうにルナを見ている。
「魔法とか・・・なおせませんか・・・」
『ごめんなさい、封魔のペンダントのせいであなたの体内に魔法が届きにくいから・・・』
「そんなぁ・・・」
なら何故こんな無茶をしたのだとルナは流石に思わざるを得なかった。




