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悪魔になったらするべきこと?  作者: Faust
ルナ、嘆きの妖精と出会う
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騒ぎの後で

エルドは一瞬、視界に映るあの男がガスタンかどうか迷ったほどらしくない有様だった。

周囲の人間も声をかけようとしてはその姿をみて目を反らしたり顔を背けたりと様々だ。


「とりあえず確かめるか・・・」


そうでなくても風体は怪しさ満点だ。治安を守る職に就いている以上見過ごせない。足早にその男に近づくと


「そこの御仁、どうかしましたか?」


あくまで職務を装って肩を叩いた。すると男は苛立った様子でエルドの手を払いのけると振り返る事なくそのまま足を引き摺って歩き始める。


「ガスタン、どうやら妖精食いを相手に不覚を取ったようだな?」


その背中にエルドはそう呟くと男はピタリと動きを止め、憎しみを込めた目線をエルドに向けた。


「うごお・・・!おごご・・・!」


そしてこちらに向かってなにやら叫んでいるが顔の動きが悪くなっているのか呂律が怪しく、何を言っているのか分からなかった。


「何を言っている・・・?」


エルドがきょとんとしている様を見てガスタンは顔を赤くして怒りだしたが相変わらず呂律は怪しく、怒りのせいかさらに怪しくなっている。そしてエルドが気付いたのはこれが恐らく怪我が原因ではないだろうということだった。

エルドは治安維持部隊に在籍していた時から打撲や刃傷沙汰になった際の人の反応を凡そ把握している。

自身も何度も目から火が出るような衝撃を食らったり、ナイフで刺されたりなどした経験から大ダメージがもたらす不調や危険な兆候を知っていた。その彼をもってしても不思議だったのはガスタンが思ったほど負傷していない点だった。


(頭を打ったにしては元気だしな・・・、もしかするとこれは怪我じゃないのか?)


そうなると、とエルドは思考をめぐらせ、一つの疑念に行きついた。こんな時にこのような状態になるということは今回の騒動になにかしら関係があるのではないかという疑念だ。

タイミングが良すぎる。そう言えば、とエルドの疑いがガスタンの普段の素行の悪さと相まって色々とピースが填まっていく。


(マリーさんだったか、彼女がバンシィの試練の際に意識が戻らなくなって・・・アリシアが魂がどうとか言ってたな・・・)


残念ながら呪いまで行くとエルドにはチンプンカンプンだったがアリシアを家に送り届ける際にそんなことを言っていた気がした。幽体離脱すること自体は魔術でもあり得るし、妖精が子孫にそうしたということならば伝承や資料にも残っている。エルドも似たような事件に遭遇した。その際は幽体離脱したジジイがのぞきを働いたというしょうもない事だったが。

それでも大抵は夢を見ていたような感じだったとその老人は言っていたし、妖精が補助しているならばさらに彼女が窮地に陥るようなことはなかったはずだ。


(しかしマリーさんはあの時、アリシアがいないと危なかったはずだ)


さらにアリシアの言葉を思い出してみたところ彼女はどうやら何かしらの魔法的な力で捕縛され、魂とのリンクが弱まる事態になったと言っていた。そうなると妖精食いがやってきたことなどが立て続けに起こったことにも関連性がある気さえしてくる。

そうなるとこの男は何かしらの目的の為にこの街に災厄を齎したことになる。そうなると赦すわけにはいかない。

しかしエルドはここでそれをできるだけ表情に出さずにあえて何も知らないフリをすることにした。

何度となく此処で感情を表に出したことでガスタンに良いようにされていたからだ。あとはこの男が冷静さをできるだけ欠いたままでいてくれるように一言二言嫌味でも言ってやればいいだろうと結論づけた。


「随分とお疲れのようだな?呂律が怪しくなるまで働くとは感心な事だ」


鼻を鳴らし、髭をいじりながら言うとガスタンはさらに怒りを覚えたようだったがエルドはそれを気にした風もなくそのまま歩き去った。その背中にガスタンの視線を感じつつ。






(くそくそくそ!覚えていろ・・・!エルド・フラウステッド!貴様はいつか、いつか必ず俺の手で!)


復讐心に燃えるガスタンは杖を握りしめてそのまま帰路についた。自宅では厳重な警備を家の者がやったのかいつも通りだったが主の有様に使用人たちは驚いていた。


「お、おご・・・ああう!」

「だ、旦那様!いかがなさったのです!」


執事がやってきたのを見て何かを書くジェスチャーをする。執事は主人が呂律が回っていない事とその仕草を見てすぐに筆記の用意をし、彼の上着を手早く取り換えて席に着かせた。


「うぉご・・・ぐ、ぐ」


動かない利き手を忌々し気に睨んだ後、左手に持ち替えて震える手で便箋に文字を書いた。


『すぐに解呪できる術師を探せ!』


どうにか読み取れるその一文に事情を察した執事はすぐに頭を下げて部屋を辞した。ガスタンは忌々し気に戸棚から酒瓶を取り出すともたつきながらも蓋を開けてグラスに注ぎ、酒精を呷った。


(くそ・・・誰がバンシィどもを解放したのだ・・・、あの男もそうだ・・・)


妖精食いがやってきたのは偶然だった。ガスタンに妖精食いを呼び寄せる手段など持ち合わせてはいなかった。

物陰に隠れて様子をうかがい、数が減った所で退散しようとした時にガスタンはアダムに見つかったのだ。

元より認識阻害程度で妖精を欺けるわけもなかったが彼もまさかバンシィが解放されていたとは思ってもみなかったのだ。


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