脱出しろ!
マリーはとにかく助けが近くまで来ていることを察知して周囲にそれを伝える事にした。
『おちついてください!私の友達が近くまできてます!』
マリーはそう声を上げたが・・・
『何を言ってるんだい!お前さんの友達が来たからってどうなる!』
『その子まで危ない目にあうよ!』
『なんてこった、若い子が来てるなんて!』
逆効果だった。マリーはしまった、と心の中で頭を抱えた。考えてもみれば彼女達はルナの存在を知らない。
彼女の実力も、その正体も。そしておそらくルナが単独でやってきているはずもないことも。
『ち、ちがうんです!友だちは凄い子で、それに一人じゃなくてきっと先生も・・・』
必死に訂正しようとしたもののバンシィたちはパニックを起こしており、誰一人として耳を貸してくれない。
そんな彼女にさらなるピンチが訪れる。
『・・・何の音・・・?』
がりがりと何かが削れる音がする。全員が静まり返り、その音の方向へと目を向けた。
その音の方向には・・・
『grrr・・・GAO!』
地下室の出入り口である扉があった。そこには木製の扉が取り付けられており、何者かが扉を引っ掻いている。
『妖精食いだ・・・』
誰かが呟いた一言で全員の血の気が引いた。自分たちの居場所がバレた。しかも今のままでは逃げることすら難しい。入られたらお終いだ。
『くっ!・・・とにかく、ここから、でないとっ!』
マリーは瓶に向かって体当たりをして瓶を揺らした。マリーの瓶は机の少し端っこに近い位置にあり、横倒しになれば床まで落ちることができそうだったからだ。
『むっ、ぐ・・・このっ!』
『前後に当たるんだよ!振り子みたいにするんだ!』
『わ、わかりました・・・!』
言われた通りに前と後ろ、交互にぶつかる事で振り子のように傾く幅が大きくなっていく。そして横倒しになった瓶はそのまま転がって床に落ち、石づくりの床に当たって瓶は粉々になった。
『やった・・・!』
瓶から出たのは良いが引っ掻く音がよりクリアに聞こえるせいで恐怖がより現実的になる。
しかもお目当ての妖精をみつけたからかエキサイトした扉越しの妖精食いは引っ掻いて開けた小さな穴から顔を覗かせてその目でこちらを見ている。
『ひっ、いそがないと・・・!』
転がったせいか視界が揺れている。その中でどうにか立ち上がるとバンシィたちが閉じ込められている瓶を片端から壊していく。
『たすかった・・・』
『とにかくにげないと・・・!』
口口に逃げ場を探して地下室の出入り口を探す。本来ならば地中を抜けて逃げおおせる彼女達も首につけられた枷のせいで壁をすり抜けることもできず右往左往するばかり。
『だ、だめだ・・・こっちの扉には鍵が・・・!』
『ど、どうするんだい!このままじゃ奴らが入ってきちまう!』
『私に言わないでおくれよ!』
地下室には本来ならば屋敷に入るための扉があったがそこは鍵がかかっており、壁が抜けられない彼女達にはどうすることもできなかった。
『GYAGYA!GAAAA!』
そんな時、一匹が開けた穴に無理矢理体を押し込んで入ってきた。小さめな個体なのかそれが幸いし、バンシィたちにとって災いした。
『入ってきやがった!』
『だめだ!食われる!』
そう言いながらもバンシィたちはマリーの間に立ちふさがるようにして身構えた。
『っ!』
マリーはそれを見て即座に決心する。今、今が力を使う時だ!
『下がって!』
マリーは一歩踏み出すとバンシィたちの前に出る。そして牙をむく妖精食いを前に大きく息を吸い込んだ。
『Aaaaaaaaaa―――――!』
空間を揺るがすような大音声。それが地下室という密閉空間で行われた為、その場にいた全員が耳を押さえた。
その声は魔力を帯び、バンシィたちの首枷を破壊し、目の前の妖精食いの耳を破壊するのに十分な威力を持っていた。
『Gyaaa!』
妖精食いは血を流しながら悶えており、扉の付近にいた妖精食いも音に驚いて大きく飛び退った。
だがじきに音の主が妖精だと知ると食欲を優先させて地下室に集まってくる。
『はぁっ・・・はぁっ・・・すぅ、Aaaaaaaaaaa――!』
二発目の叫びに入ってきた妖精食いは悶える。しかしまた新しい妖精食いが集まってくる。
キリがない。しかもその声をだすマリーは声を出すごとに疲弊している。
『はっ・・・がはっ・・・ぐ』
息を吸い込もうとしてマリーは血を吐いた。捕まって瓶に入れられていた消耗が声を上げた事で加速し、喉にダメージを与えたのだ。
『げぼっ・・・ごふっ!』
『お嬢ちゃん!』
バンシィたちはマリーの代わりに声を上げたり、地下室にあった布で攻撃したりと応戦はするものの彼女よりも捕まっていた時間が長かったために弱っていた。徐々に抑え込める数が少なくなり、じりじりと地下室の奥へと追いやられていく。
『も、もうだめだ・・・げほげほ!』
叫び声を上げていたバンシィが咳き込んだ。妖精食いは自身にダメージを与えうる最後の手段が尽きた事を悟って飛び掛かるタイミングを計り始めた。
(ルナちゃん・・・私、頑張ったけど、もう・・・)
マリーは血を吐きながら、最後にルナを思い浮かべた。




