街の怖い噂!悪霊さんがきた!
玄関からルナが飛び出してきた。その慌てぶりは背中にくっついているクインクの表情から読み取れた。
「フラウステッド、マリーが危ないが助けるにはお前の悪魔の力が必要になるかもしれん」
「わかりました!」
「わ、私も頑張ります!」
クインクはおたおたしつつもマリーが危ないと聞いて二つ返事で参加を希望した。
「マリーを捕まえた不埒者は人間だが間の悪い事にガチの悪霊が妖精を狙って街に来ているらしい」
「バンシィを狙うってことは・・・、妖精食いと言う奴では・・・」
「知ってるのか?」
クインクは魔界でも妖精食いが暴れていた事を教えてくれた。妖精食いはとにかく獰猛かつ陰湿でボルブを思わせるような奴らだと言う。それでいて獣としての要素が強いが故かその理屈は生存と繁殖にのみ向けられている。
「魔界でも一時話題になったんです、悪魔にも牙を向ける獰猛な獣だって・・・」
「恐ろしい話だ」
悪魔にまで牙を剥くとなればまさしく獰猛と言っていいのだろう。まさか魔界を統べる種族にまで牙をむくとは。
「あと、それを口実に魔界まで聖人が悪魔をイジメに来るって」
「恐ろしい・・・ん?」
「捕まった悪魔が浮浪者みたいな恰好になって泣きながら帰ってきたって」
「怖・・・」
アダムの口から素直な感想が漏れた。
「いっきし!」
「うひゃあっ!」
街ではエトナーが僧侶達を引き連れて人心の安定に努めていた。
「誰か噂してんな」
「聖人様なら誰しも噂するのでは?」
「クシャミまででるのは知り合いまでだ、なんぞ面倒が転がってくるかもな」
エトナーはそう言いながら僧侶達と広場で立て看板を背に声を上げていたのである。
バンシィに死を運ぶ力無し
ただそれだけを伝えるだけに大忙しである。エトナーは広場で一人一人に声を掛けていたが、不意に彼女の鼻が違和感を捉えた。
「生臭ぇな・・・」
「またゴミ捨て場で寝たんですか?いってぇ!」
軽口を叩く若手を杖で殴りつつエトナーは広場から辻に移動する。
「聖人様!どこへ?」
「どこへじゃねぇ、お前ら何も感じないのか?」
辻に移動するといよいよをもって強まる生臭い風にエトナーは顔をしかめた。
「悪霊がくるぜ、それもとびきりタチの悪いのが」
「?」
「わかれよ!このボケ共が!」
「「「いたいっ!」」」
若手ばかりだからか悪霊の到来を察知出来ていない様子。エトナーはそれに憤慨しつつも全員の頭を杖で小突いてから叫んだ。
「悪霊が来るぞ!バンシィとは違う!マジの悪霊が!玄関に鉄製の魔除けを!無ければ火かき棒を玄関に立てかけろ!」
その声に広場の面々はエトナーの元に集まった。
「聖人様!悪霊がくるのですか!」
「ああそうだ!バンシィを怖がったお前らの恐怖を嗅ぎつけて悪霊が来るぞ!玄関に鉄を吊るせ!金物でなけりゃ奴らは死なんぞ!」
人々は先だって広まった噂を思い直して、ほぼ全ての人間が察した。
バンシィは悪霊に襲われる人々を嘆いて泣いていた!
そう口々に囁いた。そしてその噂は整合性のある程度整ったものであった為に皆がそれを信じた。
そして皆が慌てて鉄製の道具をかき集めた。
「妖精を食らう悪霊が・・・黒雲に乗ってやってきやがる」
「どこもかしこも鉄鉄鉄です!」
「どういうことだ!バンシィの騒ぎは収まったんじゃ・・・まさか、妖精食いがもう来たのか?!」
街中を走る中、皆が玄関に大慌てで金物を吊るしているのが見える。その隣を僧侶たちが慌ただしく走り、辻という辻に鉄製の杭と聖水を撒いている。
「うっ、生臭い・・・」
「どうした?」
「悪い妖精の臭いです、ディーン先生」
クインクが鼻を押さえながら言う。ルナもその感覚を掴んでいるのか嫌そうな顔をしている。
「連れて来て正解だった、単独で乗りこんだらどうなっていたかわからんな」
アダムは感知できない事に今更気付いたのか困ったようにしていたがクインクとルナという普通ならば過剰戦力ともいうべき存在を味方につけている事を当てにしてただ走った。
「ここだ、ここが目的地だ」
とある名家の屋敷に全員がたどり着いた。ラタスクという一般では布などの流通に携わる家らしいが・・・。
「どうしたんでしょう、鉄を吊るしてませんよ・・・護符も・・・」
「それが答えだ」
「?」
アダムの言葉に二人は首をかしげる。しかしアダムは門の下部分、その地面を指さした。
「あそこを見ろ、妖精が逃げられないように細工がしてある。妖精を捕まえているから弱らないように鉄や魔除けを貼れないんだ」
ウィジャ盤による街に住む妖精や精霊、生霊たちの声によって導かれた答えが状況証拠によって補強されていく。
アダムはそれと彼にもわかる不吉な黒雲の存在を見て二人に顔を向けた。
「本来ならもう少し段階を踏みたいところだが恐らく時間がない。魔法使いがいるかもしれんが、この家に妖精を退ける力がない以上・・・おそらくは酷いことになる。その前に事を済ませなければ」
バンシィは妖精だが本来人に仇なす存在ではない。だからこそ容易く捕えられたのだろう。
しかし今回の妖精食いは相性が悪いという前提があったとしてもポエトが倦厭する存在だ。
ルナ達のように妖精を捉える力がなければ存在を知覚することすらできない事もある。
本来は悪戯程度にしか使わないその特性をその妖精食いは人や妖精を害する為に使うのだ。




