葬送には権威を
アダムとポエトがウィジャ盤を前に占いを重ねている頃。
瓶に詰められたマリーはどこか見知らぬ地下室に運び込まれていた。
(ここはどこだろう?)
本来ならすり抜けることは容易いはずのマリーを閉じ込めるこの瓶には魔法的な力が働いているらしい。
魔法使いはその瓶を先述した地下室に入るに当たってそこにいた人物にマリーの入った瓶を手渡した。
「バンシィの数は揃ったか?」
「もっと、と言いたいところだが親父の容態が良くない。ここいらで辞めておこう」
マリーの耳にそんな会話が聞こえてくる。
「しかしまぁ、依頼から数日でこれだけの数を集めてくれるのだ。魔法局にコネがあって良かった」
「声が大きいな」
依頼人らしき男性は魔法使いにそう言われて肩をすくめた。
(魔法局?なんで役所がこんなことを・・・)
「ギュント殿は心配性だ」
魔法使いの男性、おそらくはギュントと言うらしい彼は依頼人に舌打ちをしながら瓶を置いて神経質そうな表情で辺りを見渡している。
「視線を感じるな」
そう言われてマリーは慌てて目を閉じた。妖精の感覚か、それともこの男の持つ悪意がそうさせるのか自分を観察しているのが良く見える。
「気のせいか・・・」
魔法使いはそう言うと瓶を置いて踵を返した。
「口数が多いと不幸を招くぞ」
「心に留めておこう」
魔法局のエリートの言葉だからな。と依頼人は言う。魔法使いは舌打ちをしながら地下室を出ていった。
マリーはそれを見て少しだけホッとした。怪しげな器具を持っていた事を差し引いてもあの男はかなりの使い手だろうと予想ができたからだ。また部下を連れていた事も気にかかった。
マリーはルナやティナのように魔法で攻撃をするという感覚に乏しかったので戦闘になるとどうしても後手に回ってしまう。そう言った意味ではバンシィの扱う固有の魔法は彼女にとってもわかりやすかった。
(あとはあの男の人か・・・そう言えばバンシィの数がどうこう言ってたような・・・)
そう思い、瓶に顔を近づけて周囲を観察すると周りに同じような瓶が。そしてその中に一人一つずつの瓶に入れられているのが見えた。
(ひどい・・・!皆私と同じように捕まったのね・・・)
そう思いながら捕まっているバンシィたちを見ると首に何やら枷のようなものが。
驚いた事にそれもガラスで出来ているようだ。
『新入りかい・・・』
『随分若い子が来たもんだ・・・』
『まだ首枷をされていないようだね』
不意に声が響いて周囲を見渡すと瓶に詰められているバンシィたちがこそこそと身振りで教えてくれた。
『私達の声は壁やらで防げるものじゃない。だからこうして話せるのさ』
『随分と若いがこの子は引継ぎの試練を受けているんじゃないだろうね』
『まさか、そんな不安定な子に枷なんかつけたら死んじまうよ』
女性が三人集まれば姦しいとはよく言ったもの。それも数人も集まればやいのやいのと話し始める。
距離と壁を無視する都合上全員が目の前でしゃべっているような感じがするのでマリーは不思議な感じだ。
『その、枷って・・・?』
『焼けたガラスを首に巻きやがるのさ、魔法が籠めてあるから私らを捕まえておくのに最適さね』
焼けたガラスという言葉にマリーは思わず息を飲んだ。人にそんなことをすればあっという間に大やけどだ。
暴力なんて生易しいものではない。よく言っても拷問、下手をすれば死刑同然だ。
『鉄だと私らは弱っちまう、革や木じゃ私らは捕らえられない。そこで妖精を生け捕りにする為に作り出されたのさ』
バンシィの一人がそう言ったがガラスと言えば加工までやるとなれば手間暇も合わせて高級品のはず。依頼人の男は相当な資産家のようだ。しかしである、ガラスは脆い。バンシィが妖精の中でとりわけ怪力ではないにしろ外部からの力が加わればどうとでもできるはずだ。
『私が叫んだら・・・』
魔力を籠めて大声を張り上げれば衝撃波を発生させる勢いである。ガラスが少しでも傷ついていればそこから彼女たちの首枷を破壊することができるかもしれない。そうでなくても大音声が響き渡ればだれかに助けを求めることもできるかもしれない。
しかしそれにバンシィの一人が待ったをかけた。
『およし!そんなことをしたら命にかかわるよ!』
『えっ、どうして・・・』
魔力を自由に使えて、さらにはまだ枷もされていない今ならどうとでもなるはずだと思っていたがそうはいかないらしい。
『アンタ、まだ成れてないだろう。体は家でずっと眠ったまんまだろうさ』
『そうだねぇ、そんな状態だと体がどうなるかわからないね』
『私らの声はとにかく体力を使うんだから』
とにかく、若い子が無茶をするんじゃない!とバンシィたちは口口に言う。
『一滴もこぼれやしないがここの屋敷の持ち主はもうじきくたばるだろう。そのさいにウソ泣きでもなんでもしてやればアタシらはお役御免だ。そうすりゃ逃げるチャンスも巡ってくる』
『それまで体力を温存して逃げるチャンスを待つんだ』
『無茶をすると親御さんが悲しむよ、そんな親不孝をするもんじゃない』
年嵩のバンシィたちに説得されてマリーは瓶の中で蹲るしかなかった。




