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受け継ぐには?

カインディアは嬉しそうにしていたがやがて本題に入るためか真面目な顔になった。


「アンタの決意はよーくわかった、となれば善は急げだよ」


そう言うとカインディアは懐から銀で出来た櫛と筒の着いたマスクを取り出した。


「ちょいと苦しいけれどこれを着けるんだ」

「うぇ・・・」

「しっかりおし!」

「ふごもご」


マリーはかなり嫌々ながら紐の着いていない顔の下半分を覆うマスクを装着する。筒が口の中に入るのでかなり不快だが・・・。


「それを付け、魔力を喉に集めてから大声を上げるんだ。泣けるなら泣き声でもいい」

「もごもご?」

「そうするとバンシィの声をアンタの喉に覚えさせる事が出来るんだ」


このマスクはどうやらバンシィ達による矯正器具ようなものらしい。マリーは次にこの櫛を示して説明を乞うた。


「ふごもご?」

「これは継承の助けになるものだ。これを川の近くで使いな。川べりに座って髪を梳いてやると死期の近い人間が何処にいるか分かる」

「もごご!」

「魔法受け継ぐ方法というのはバンシィの仕事を代行すること。誰かの為に泣いてやることが仕事だ」


そう言うとカインディアはマリーの背中を押した。


「さて・・・本来ならマリー、お前を危険な目に遭わせたくないんだが次の夢を見た時にお前さんの魂は体から抜け出る。そしてバンシィとしての仕事に出るんだ」

「もごご?」

「魂が抜け出た体は本来私が護るんだが繋がりが薄くなっててそれができるか怪しい。だからこそ急いで仕事を終わらせて来るんだ・・・いいね?」

「もごふご!」


任せて!と言わんばかりに胸を叩いたところで視界が暗転し、マリーは目が覚めた。

そしてその日に両親に事の次第を説明した。


「お父さん、今日の夜から私目が覚めないかも」

「と、ということは試練を受けるんだね?」


朝、両親はマリーの言葉に仰天し家族会議が開かれた。そして母親が教会を走り回って悪霊避けのお香やタリスマンなどを買い集める。そして父親はマリーを休ませ、アダムに会いに行った。


「すみません、我が子の事ですが・・・」

「おや、クライグスのお父さんじゃないですか。いかなる御用向きで?」

「一族の事情でマリーをお休みさせることになりました」


学校にやってきたと思ったら開口一番にそれである。アダムは頭にクエスチョンマークを浮かべつつ父親の言葉を待つ。


「実は私の一族にはバンシィの血が流れています」


それを聞いてアダムは少しだけ遠い目をした。マリーは普通だと思っていたのに・・・と。

優劣の問題ではない。ただ、こうなんというか・・・自分と近しい体質の者が減るのはなんかこう、彼の心に来るのであった。


(なぜウチのクラスには特異体質の子どもばかり集まるんだ・・・)


雷属性の帯電・吸収体質、水属性の特異体質の魔力同調反応気質、大悪魔、魔力親和性抜群の純血のエルフ、異常成長のドワーフ、ダンピール。パッと見て普通なのはダズだけになってしまった。

人数は少ないのにこれだけ特異な生徒が揃ってしまった。


「あの・・・先生?」

「ああ、すみません。それでどうしたらいいでしょうか、こちらも必要な事であれば援助は惜しまないつもりですが」


魔法学校には特異体質や一族由来の体質などの都合で援助が必要な生徒には魔法関係の、という前提ではあるが援助を申請することができるのだ。


「その事なのですが、バンシィの試練について知識はあるでしょうか?」

「試練ですか・・・あまり詳しくはありませんな」


妖精の課す試練というものは千差万別、また身内限定のものも多いためアダムもそこまで詳しくない。

怪異や悪霊のように対処が必要なものならともかくそう言ったものは特殊も特殊だ。


「娘がご先祖様と話したうえではバンシィとしての仕事をすると」

「死期が近いものの家の前で泣くというやつですな?」


アダムはそう言いながら嫌な予感がした。アダムの記憶には悪徳僧侶によるバンシィ狩りがあった。

エトナ―と共に対処に当たった経験があったために記憶していたがなんとも酷い話であった。


『家族を死なせたくない、バンシィのせいだ!奴らを追い払ってくれ!』


そう金持ちが僧侶に泣きついたのである。バンシィが泣くのはただ死期が近い事を知らせるだけのことではあったがその金持ちは自身の妻に迫った死期を前に動揺し、バンシィを悪魔と見なして僧侶にそう願ったのである。

本来ならば僧侶はそんな彼に道理を説いて、少なくともバンシィには何の非も力もない事を教えてやらねばならなかったのだが・・・。


『謝礼は弾む!これで・・・どうか!』


金持ちは多額の金銭を僧侶に支払ったのである。金銭で動くなど僧侶としてはあるまじきことだったがさらにひどいことに僧侶はそれを了承した挙句、結界を張ってバンシィを追い出した。

それだけならばその場だけの被害ではあったがその後に金持ちの妻が亡くなった際にこう嘯いた。


『バンシィが死を運んできたのだ、手遅れだった』


とんでもない責任転嫁である。金持ちはそれを聞いて悲しみを恨みに変え、バンシィを狩る為に彼女達に懸賞金をかけてしまった。当然教会はそのような無法を許すことはない。金持ちは即座に捕縛されて尋問を受け、その僧侶に責任があることが分かった。


『慮外者!恥知らずにも金で家族の愛情と死を、バンシィの涙を・・・哀悼の儀式すら踏みにじったのか!』


エトナ―が激怒したのが教会の人間の中でも記憶に新しい。エトナ―は本当の意味でキレると口調が丁寧になるとその時アダムは知った。その一連の騒動によってバンシィに着せられた汚名は日光教の影響力が悪い方向に作用し、街ではバンシィを忌避する者が増えてしまった。


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