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嘆きの妖精、バンシィ

そこまで説明してマリーは不思議に思った。どうして誰も彼女の魔法を継がないのか?

辛い仕事ではあるがそれは仕方ないことだ。自分ならばうまくできる保障はできないが、それでも継ぐ人は居たはずだ。


「・・・条件が厳しいんです?」

「子供の内に覚えないと意味なくてね、そして私らは忌み嫌われる存在でもある」


家族の死を誇りとして、人生の誉れある終着点として見れる者は幸いである。

彼らは死を一つの成果として見られる。悲しみこそすれ、それを必要なものだと思えるのだから。


「忌み嫌われる・・・」

「だってそうだろう?死を知らせる存在なんて不吉さ。家族に生きていて欲しいと願う者ならなおさらさね」


しかし大抵の人々は家族との別れを惜しむ、死を嫌う。

そんな家族に死を知らせるバンシィは人々にとって恐怖の象徴だ。


「そっか、家族と別れたくない人には・・・嫌われちゃうのか」

「あぁ、そうさ。悲しい事に負けちまって、その矛先を私らに向けるのさ」


バンシィが泣くとその家に死人が出る。そこばかりが注目されて、彼女達は悪魔と呼ばれることもあったという。

そんな彼女達に何故御先祖様は関係をもったのだろう。

マリーはそう思った。


「あの、どうして御先祖様は私の御先祖様と?」

「あぁ、元々縁があってね」


ヤツは葬儀屋だったのさ。とカインディアは言う。


「葬儀屋・・・」

「そうさ、その縁でヤツとは何度も顔を合わせてね」


そう言うカインディアの表情はどこか明るかった。

その時に知り合ったマリーの御先祖とカインディアはその後に結婚して子供を作ったとのこと。


「その時の子がお前のひいひいおじいちゃんかね?それくらいだったよ」

「そんなに前なんですか」

「あぁ、平凡だが悪くない生活だった。けどどうしても上手くいかない事があった」


妖精に護られた家としてクライグス家はそこそこ栄えた。

そんな中でカインディアは自分の子孫に自分の役目を継いで貰おうと家族の中から適当な人物を見繕った。


しかしである。


「誰もバンシィの魔法と役目を継ごうとは言ってくれ無かった」

「それはどうして?」

「日光教の中のバカ僧侶がバンシィを狩りだしたのさ」


死をもたらす災いの悪魔。そう呼んで一部の僧侶がバンシィを街から追い出しにかかったのだと言う。そんな中でバンシィの血を引く一族と言えばどんな扱いを受けるか分からない。

クライグスの一族は年若い子供にそんな苦労はさせられないとカインディアの願いを拒否したのである。


「そんな・・・」

「辛い事だが仕方なかったさ、私の子供達でもあるからねぇ」


家に宿る妖精はその情け深さも有名だ。カインディアもその例に漏れず自分の子孫の為に長く日陰にいたとのこと。

しかしその事は確実にクライグス家に暗い影を落としていた。


「でもこれ以上は待てない、私の血が一族から消えてしまうから・・・」


そこまで言うとカインディアはその事の重大さを示すようにしくしくと泣き出した。


「あの人との思い出が、血のつながりが・・・絶えてしまう・・・」


妖精と人間、その血の繋がりは特殊であり魔力と血、その両方を受け継ぐ者が居なくなればカインディアはクライグス家との繋がりを失ってしまうのだという。


「でも、お父さんは貴女をご先祖様って・・・」

「私がこの家に居られなくなってしまうんだ・・・離れてしまうのは・・・私のほうさ・・・」


バンシィは家につく妖精である。ここでいう家というのは建物ではなく一族のこと。

代々の家系にその力を与えることで自身の養子とし、その過程で血縁関係を結ぶ。


「わかりました!なら、私が継ぎます!」

「・・・いいのかい?今もまだ決まり事が残っているかもしれないんだよ・・・?」


それでも、とマリーは頷いた。自分が信頼する人物を真似て、むん!と気合を入れる。

その姿を見てカインディアはまた大粒の涙を流した。


「ありがとうよ・・・うじうじしてると言って・・・悪かったねぇ」

「決意したら、一歩たりとて!・・・他ならぬ家族の為ですし」


それに友達が教会のエライ人と知り合いなんですよ!と自慢げに言うとカインディアは目を丸くした。


「そうなのかい?お前は本当に顔が広いんだねぇ」

「私が、って言うよりその友達がですけど・・・聖人様と知り合いだし、大悪魔様とも知り合いだし」

「ひぇー、そりゃすごい・・・お前さんはいい縁に恵まれたねぇ」


最初は強面に見えるほど険しい顔だったカインディアはマリーが自分の為に苦労をいとわないと知り、まるで祖母を思わせるような柔和な表情で受け答えをしていた。

バンシィは自身の懐に飛び込む勇気とやさしさを持った者を愛する。それが自分の血を引く者であれば猶更である。


「色々と問題があったとしてもそれはそれから考えればいいです!悩むはいつもの事だし・・・これからもいろいろと悩むだろうし」


マリーはそう言って笑顔を見せた。それを見てカインディアは同じように明るい笑みを浮かべた。


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