マリーの夢見 その2
父親が言うには御先祖様はバンシーであり、マリーにもその血が流れているのだとか。
「お父さんの無念を是非、マリーには晴らして欲しいな!」
他人事だと思って随分と勝手な物言いである。
しかし御先祖様に選ばれた以上、なにかしらの行動をしないと御先祖様は夢に出続けるとのこと。
「と、とにかく御先祖様とわかったからにはちゃんとしないと・・・!」
「その意気だマリー!たぶん御先祖様も許してくれる!」
「・・・」
マリーは気が重いのを我慢し、その日もいつも通りに眠りについた。御先祖様であるなら気持ちも幾分ましだ。
「よ、よし・・・がんばる・・・!」
ベッドに潜り込む時にルナとティナの事を思い浮かべながら目を閉じる。あの二人なら自分に力をくれる気がした。
「よ、よし!あの時と同じだ」
マリーの目の前にはシクシクと泣く人物の姿が見えている。その姿はまるで判別がつかない不思議な姿だったが、冷静に見つめると実際にその人物が不規則に姿を変えているのがわかった。
老婆のような姿、若い女性の姿、幼い子供の姿。それらに姿を変えながら目の前の人物はただ顔を覆って泣いているのである。
「すぅー、はぁー!すぅー、はぁー!」
深呼吸をしてマリーは一歩踏み出す。そして頭に自分が一番頼りにしている友達の事を思い浮かべながら。
ダダダと一歩から即座に走り出す勢いで距離を詰める。
(ティナちゃんみたいに勢いよく!)
そして目の前で立ち止まると両手を組んで深々と頭を下げた。
(ルナちゃんみたいに礼儀正しく!)
「遅くなってごめんなさい!御先祖様!マリー・クライグスです!」
出来るだけ大きな声でハッキリと謝罪の言葉を述べる。そして相手が反応するまで意地でも頭を上げない勢いだ。
しかしその勢いとは裏腹にリアクションはない。
「・・・」
だがマリーとて不退転の覚悟はしてきた。受け入れられるまでやめないつもりである。
(テイロス君のように実直にへこたれない!)
じーっと頭を下げたままの姿勢を維持する。こちらは何日も待たせたのだ、やると決めたからにはやり通すつもりできた。
「・・・」
足音が自分の周りをまわっている。しかし謝罪を受け入れる言葉はない。そうなると続けるしかない。
足音は止まったり、歩き出したりとしているが肝心の声は聞こえない
なので
(クロエちゃんのスルースキルで謝罪を続行する!)
じめじめが周囲に伝播して隣に座っているティナとルナがびしょびしょになっても素知らぬ顔ができるクロエのスルースキル。カティナが乾かさなかったらどうなっていただろうか。
そんな図太いスルースキルを真似してマリーは頭を下げ続ける。
「・・・いっ」
途中で足が疲れて前のめりに倒れたが頭を下げた状態を意地でも続行。尺取虫のようになってしまったが構わない。
普段が迷ってばかりなので決心したからには投げ出したくない。どうあってもやり遂げるのだ。
「・・・わかった、お前の誠意はわかったからさっさと立ちな!」
長く続けた甲斐があったのか頭上から声が聞こえる。マリーはずるずると腰を伸ばして地面にねそべった状態になるとくるりと寝返りを打って体を仰向けにした。
「ごめんなさい、足が棒になりました」
「難儀な子だね・・・」
足を伸ばした状態で踏ん張っていたため立てなくなっていた。仰向けになると呆れた顔の女性が自分を見下ろしている。
「御先祖様ですか?」
「そうだよ、バンシィのカインディアさ・・・親父に似てうじうじしてるかと思ったが随分と根性があるね」
「お友達に恵まれました」
仰向けのままどこか自慢げなマリーにカインディアは思わず噴き出した。
「そうかね、それじゃあお前さんの友達に恩返しするためにもぜひとも私の魔法を継いで欲しいね」
「魔法を・・・継ぐ?」
「ああ、私は嘆きの妖精。元は家族の不幸を前もって伝える役割を持っていたのさ」
バンシィは本来家族の誰かが亡くなる事を予知することでその家族に哀しみに備えるための時間と覚悟を与える事が仕事だった。中でもバンシィが複数人集まって嘆くと亡くなる人が大人物であった事を示すというので名家にありがたがられた。
「不幸を伝えるのって辛くないですか?」
「勿論辛いさ、だけどね葬式やその支度ってのは遺族にとって大仕事。前もって教えてやらにゃ大慌てで死を悼む暇すらありゃしない」
お金持ちはもちろん、そうでなくても親戚やご近所、仕事先やらへの伝達と僧侶への依頼、果ては葬式に集まった人たちに出す食事などなど。喪服と棺桶もいるし、それを揃える為と僧侶へのお布施とお金もたくさん必要だ。
「私達はそれを前もって知らせることで遺族に準備を促すことができたのさ。これから死ぬ者に覚悟する時間を与えることもできたしね」
その人の死というのはもちろん本人にとっても大事だし、家族にとってもそうだ。
そしてその周囲に生きる人々にとっても。バンシィの悲しむ相手は大抵ができた人というのが相場。
それ故に前もって準備していい加減。でないと準備が間に合わないくらい弔問客がたくさん来る人ばかりだった。
辛い事は辛いがそれ以上にバンシィはお葬式というイベントを円滑に進める手助けをしてくれる存在でもあった。




