マリーの夢見
最近、マリーはよく眠れていなかった。
「うーん・・・」
夢見が悪いのである。夢というものは大抵見ようと思って見るものではないが最近、なんだか同じ夢ばかりをみるのである。
シクシク・・・
シクシク・・・
誰かが泣いている。なんだか知っている人のような、そうでもないような。老婆のような、若い人のような。
なんともハッキリしない。
そしてハッキリしないと言えばマリー自身もそうなのだ。
元より積極的な性格では無かったがルナ達に出会うまでの彼女はとにかくパッとしない生活だった。
イジメられても声を上げることすらせず耐えて切り抜けるのが彼女の通例であり、伏せてなにもしないのが彼女の常套手段であった。
「あ、え、う」
手を伸ばそうとして小さく前へならえをして、それを引っ込める。
体を僅かに前に傾けて、また元に戻る。
ルナ達に会って僅かに改善した引っ込み思案も一人きりになってしまえばまた元通り。
泣いてる人に声をかけたい。だが自分のようなものに何ができるのか。
ティナのように明るければ、ルナのように優しければ。
ダズのようにマイペースなら、テイロスのように実直にできれば。
クロエのようにスルースキルがあれば、カティナのような話しかけずとも察する力があれば。
ぐるぐると自分になにができるのかと考えている間に夜が明けて、眩しさに目を開ければ朝と言った次第。
「うぅー・・・寝た気がしないよう」
誰かに相談した方がいいのだろうか・・・と考えてみればそれもまた・・・といった有様。
マリーはそのままずるずると中々眠れない日を過ごし、学校では居眠りをしていた。
ダズと違い明らかに体調関係だろうとアダムも思っていたがその矢先にクインクの騒動が起こったのでマリーの体調は後回しにされてしまった。元より本人も何も言わないので仕方ないのだが・・・。
「あ、え、う」
そして夢の中でまた同じようにうじうじと悩んでいた。それが何日続いただろうか。
なけなしの勇気をマリーは振り絞った。
「あ、あの、ええと・・・そのう、だ、だいじょうぶ・・・ですか?」
しくしくと悲しむその人物に恐る恐る近づいて声を掛けた所・・・。
「遅ーーーーーーーーーーーーい!!!!!!」
「ぎゃーーーー!」
凄まじい剣幕でキレられた。そしてそのままベッドから転げ落ちて目が覚めた。
腰を抜かしながら両親に夢で見た事を報告して泣きながら助けを乞うたところ予想外の答えが帰ってきた。
「マリー、落ち着いて聞いて欲しい」
「な、なに?」
いつになく真剣な様子の父親にマリーは思わず身構えた。マリーの父親はマリーと同じく内向的で優柔不断の気があるのでどちらかと言えば今回のようにハッキリと物を言わない性格なのである。
「それは私達の御先祖様だ」
「えっ!」
普段ならこの言葉に『多分』と『きっと』と『恐らく』のいずれかが挟まれるのだが今回はそれがなかった。
それだけでもマリーにとって衝撃であったが夢に出てきた得体の知れない人物が御先祖様ということには驚いた。
「あ、あんな怖い人が!」
マリーはこれから眠る度にあの人物に会わねばならないのかと思いべそべそと泣き始めた。それに対して父親は何か心当たりがあったのか額に手を当てて困ったように言った。
「お前も御先祖様に声を掛けられなかったのか・・・」
「え?」
「実は私も子供の頃と、後はマリーと同じくらいだったかな?その時にシクシクと泣いている御先祖様に夢の中で出会ったんだ」
その時の父親は全く声が掛けられず、最終的に呆れた御先祖様にそのまま帰られてしまったのだと言う。
「あの時の御先祖様の顔を見てから人に声を掛ける事だけは迷わないように気をつけているんだ・・・」
優柔不断な父親が唯一と言っていいほどに悩まない事がこの事に由来する事を知りマリーは呆れたが、そこで父親と自分の境遇に違いがある事に気づいた。
「お父さん、私は声を掛けられたよ?」
それを聞いて父親は驚いたように目を見開いた。
「えっ!マリーは声を掛けられたのかい!?見た目は知らない人だったのに凄いじゃないか!」
なんだか素直に喜べないが父親は嬉しそうだ。まぁ親子揃って優柔不断で悩んでいる中で娘が頑張ったのだから親としては嬉しいのだろう。しかし肝心の御先祖様の評価は芳しくない。
「でも遅いって怒られちゃった・・・」
「それでも掛けないよりずっといいさ!可能性があるんだから」
「可能性ってなんの?」
夢の中で出て来た人物の存在を知っている事と並んで何か理由があるらしい事を察してマリーはその理由を尋ねる。
「その御先祖様はかつてこの家に魔法を授けてくれた悪魔とも精霊とも言われている御方なんだ。そして、一族に魔法を受け継げる子供が居たらその夢の中に出てきてその子に魔法を授けてくれるとか言われているとか」
「言われているとか?なんで抽象的・・・あっ」
なんでわかってないの、と言おうとして察した。父親は声すら掛けられておらず、会話すらしていないから真偽がわからないのだ。




