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狩人の夜

ボルブは沈む太陽を息を殺しながら見守る。


はやく、はやく沈め

そうなればーーー


「俺の時間だァ・・・」


暗闇での戦闘ならば自分の目も鼻も耳も、全てが最大限に能力を発揮できる。獣の時間だ。

ボルブは目を細めて夕日を見ていた。




「ヤツめ、もうワシを撒いたつもりでいるようだな」


カフェテラスでコーヒーを片手にアダムはボルブの気配を辿っていた。気取られぬように視線を合わせず、気配と音でボルブを追っていた。


「サボってんのか?」

「馬鹿言え、追ってますとあからさまにする奴がいるか」


アダムを見つけたエトナ―が無遠慮に対面の席に腰掛けた。


「何か頼むか?」

「奢ってくれんのか?」

「水にしとけ」


アダムが奢る気がないと察するやエトナ―はつまらなさそうに頬杖をついた。


「奴さんは?」

「日暮れまで待つつもりらしい、根っからの獣だ」

「暗闇が味方するってか・・・」


二人は口元だけで笑みを浮かべると席を立った。


「奴はおそらく昼の方法を取ろうとするはずだ」

「成功体験を模倣するのか・・・そうなるとルナちゃんが危ないな」

「そうは問屋が卸さない、ワシらの得意な時間でやろう」


闇が味方するのは獣ばかりではない。そう言うと二人はそれぞれが仕事の時間を待った。




闇の帳が降りる頃、獣は暗がりを経由して行動を開始する。


「臭うぜ、こっちか」


ボルブは丘を上ってルナの家を目指して進んでいた。クインクの臭いは途切れることなく続いている。

一歩進むごとに興奮のボルテージが高まるのを感じる。ヤツの絶望に歪む顔が一刻も早く見たい。

その欲望が傷ついた体の痛みすら麻痺させていく。

二足歩行をやがて四足に、瞳は縦に裂けて鋭く。毛は逆立って魔獣を思わせる。

牙は血の臭いを纏って、獰猛さを隠すこともなく。


「ハアッフ!ハフッ!」


獣は獲物の喉元を目指して駆け出した。願いの成就を目指して。

しかしそうはいかない。血に飢えた獣を打倒す者は既に彼を捉えている。


「グゥオッ!?」


落雷と共に目の前に降り立ったのは聖人エトナ―。杖を地面に突き立ててボルブを真向から睨みつけた。


「良い月だな・・・狂った獣が出てくるにはうってつけだ」


月の光に負けない澄んだ瞳が鋭い眼光を放っている。それはまるで闇夜を狩り場にする狩人のように。


「聖人・・・!」

「なんでって顔してんな?明るい内が聖職者の行動時間だと思ったお前がマヌケなのさ」


悪魔と戦うのはいつだって闇の中だ。とそう言いながら指を弾くとボルブの頭上に雷が落ちた。


「ぐあっ!く、くそ・・・ぎゃあっ!」


後ろに飛び退った瞬間に足に痛みが走った。尋常ではない痛みに転がって悶えながら足をみるとそこには金属製のトラバサミが仕掛けられていた。


「な、なんで!臭いなんて・・・!」

「獣対策さ、まんまと引っ掛かったな」


普段なら見落とすはずのない罠にボルブは訳が分からないといった様子だった。

それを見てアダムは安心したように息を吐いた。


「ああ、良かった」

「・・・?」

「ワシはこう見えて犬派でな、可愛らしい犬だったら心が痛んだが・・・なんてことないクソ犬だな」


怒鳴り声を上げようとしたボルブの足にロープを引っ掛けるとアダムはそのまま罠を起動した。

重石の力で宙づりにする古典的なものだったが獣を捕えるには十分な代物だった。


「ぐあっ!くそ、このクソ野郎・・・!」

「おーい、吊れたぞ。早いとこ黙らせてくれ」


アダムが手を挙げる。すると杖を肩に担いだエトナ―が両目を開いて一足飛びに駆けつけてくるのが見える。

そしてその杖を振り被って・・・


「キャッハァ!」


ボルブの腹にめがけてフルスイングした。


「うぐぇっ・・・」


ロープが千切れ、その衝撃で何度もバウンドしながら丘を転がり落ちていったボルブは明滅する視界の中で誰かが自分の元にやってくるのが見えた。


「が、ぐ・・・ごえっ」


逃げなくては、逃げて永らえなくては。このままでは捕まってしまう。

這いずって移動しようとするボルブの足を掴むとその誰かはまるで棒切れでも運ぶかのようにボルブを引きずって歩き始めた。


「ぐぞっ・・・はなぜ・・・」


悪態をついてみてもその誰かは微塵も反応することなくボルブを引きずってエトナ―とアダムの元へと向かっていった。


「お疲れさん、コイツが街を騒がせてたバカで間違いない」


エトナ―がそう言うとボルブを引きずっていた誰かは月明りに照らされてその素顔を露わにした。


「そうでしたか、被害がこれ以上でないのが何よりだ」

「まさしくその通りです。学校としてもエルドさんの力が借りられて助かってますよ」


それはルナの父、エルドだった。彼の膂力は弱ったボルブが抵抗したところでまるで意に介さない怪力だ。

エトナ―とアダムは助勢してくれたエルドに感謝を述べつつも内心でひやひやしてもいた。


(狙いがクインクだけでなくルナちゃんと知らなくてホント良かったぜ)

(そうとしれたらその場で捻り潰してしまうかもしれん)


本来は治安維持組織に話を通すためのコネとしてエルドに助力を頼んだのだがボルブの運搬は二人も骨が折れるところだったので彼にそのまま助けてもらうことにした。

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