クインクの力
ルナが悪魔としての力を解放していくにしたがってクインクの体の中の魔力が熱を帯びる感触がした。
「ルナさん、貴女は一体・・・」
昨日、恐ろしい魔女と話していたルナが真名と言っていたような気はしていた。
そうなると彼女は自分と同じ悪魔なのでは、と思い始めていた。目の前で体を変化させて行く彼女は確かに尋常ではない。
「貴女は、悪魔なんですか?」
問いかけるには遅すぎたかもしれない。目の前の恩人は既に人の形をしていない。
ただ、そんな中でも変わらないのは彼女の隣に立つ友人と、その先生。
「フラウステッド、クインクが呆然としてるぞ」
「ルナちゃん、雲の彼方まで飛ぼう!」
「首筋に息がかかるぅ!」
もしかして正体を明かしてないのか?と問いかけるアダム、そしてそんな彼女の背に飛びついているティナ。そしてティナが飛びついたせいで力が抜けて床に倒れるルナ。
「すまんな、あの子は意外と抜けてるからな」
アダムが呆然としているクインクに事情を説明した。ルナの正体が悪魔であること、家族にはそれを知らせていないこと。正体はこのクラスと一部の者しか知らない事を。
「悪魔・・・」
「あの子は人為的に転生した悪魔なんだ。だがあの子は君が出会って話しをしたあの性格が本心だから安心して欲しい」
アダムが言いたい事がクインクには理解できた。あの時、自分を心配して助けてくれたこと。自分を家に招き入れて食事に誘ってくれたこと。使い魔としての関係を認めてくれたこと。そして何より自分と共に眠る事に微塵も嫌悪感を示さない事。
「・・・」
例え彼女が悪魔だったとしても、そうでなかったとしても。彼女が自分を受け入れてくれたことは変わらない。
そうなると自分がすべき事は何か。
「強くなって、あの人の役に立つこと・・・」
そして、願うなら幸福を得ること。クインクは意を決してチョーカーについているシンボルを引っ張って口に咥えた。
「むーー・・・ん!」
最初は変化に戸惑っていた。しかしいざこの体になってみると体に漲る力の心地よさにクインクは思わず笑顔を見せた。強い事は気持ちのいい事、堂々とできることは嬉しい事。
「あは・・・」
体が軽い。そして熱と興奮が自分の体に渦巻いている。今なら誰にだって勝てそうに思えた。
「おお、可愛い子ちゃん!」
ティナがクインクの元に駆け寄ってくる。主人であるルナに似て彼女もまた善良そうな顔をしている。
その身に走る雷の魔力も、今ならはっきりと視認できる。
「ティナさん、どうでしょうか?私、強く見えますか?」
「強さはわかんないけど、堂々としてる感じはするよ。そっちもアリだね」
にっかりと笑うティナ。時折電気を体に走らせながら愉快そうに笑う彼女はまるで精霊かなにかのようだ。
「そう言えば私は何ができるんだっけ・・・」
クインクは自分が小さい頃からわずかに空を飛べるくらいしか自分の取柄を知らなかった。
そうなるとそもそもの話として今の自分が何をできるのかを探す必要があった。
「えっと、火の魔法・・・」
掌を前に出してイメージする。すると思った通りに火が出現し、ゆらゆらと揺れながら掌の上で球体になっている。
「できた・・・!」
思わず声が漏れた。その嬉しさのまま、掌に浮かべたままくるりと回ってみるとまるで帯のように炎が踊り、クインクの周囲に光の軌跡を描いた。
「火の魔力に適性があるようだな」
アダムが火の魔法をまるで手足のように扱うクインクに言う。もしかするとほかにも適性はあるかもしれないが彼女が初めて魔法を使った事を鑑みると適性があるのは間違いない。それも高いレベルで。
「クインク、火を操るイメージができるか?」
「操るイメージですか?」
「ああ。火を道具に見立てるんだ。高い適性と魔力量があればそれが可能だ」
クインクはアダムの言葉を聞いて道具をイメージしてみる。剣・・・?槍・・・?
「・・・」
自分が欲した力、まずもって欲しいもの。それは獣を退ける武器。それでいて主人の力のように柔軟なもの。
「すぅ・・・はあぁっ」
深呼吸して、その体に漲る力を一点に。そしてその魔力を火に変え、形を作る。
人間であればこの動作だけでそれなりの訓練を必要としたが悪魔には生まれ持って魔力を操作する術を心得ている。
「ふっ!」
手に集めた魔力が熱を帯び、炎となった。そしてそれがするすると伸びていく。
「ロープ・・・?いや、鞭だな」
アダムが分析する中でクインクは右手に収まった鞭を振るった。虚空に浮かぶ相手に向かって。
「ㇱッ!」
狙いは過たず。狙った場所を打った鞭は火花と破裂音を起こした。二度、三度とそれを繰り返すとクインクは僅かな回数でそれを物にしたらしく今度は鞭の形態の試行錯誤を始めた。
「ふむ、適性は火で間違いないが・・・さすが悪魔といったところだな」
「クインクちゃんが女王様に・・・」
アダムが感心しているのを他所にルナはそれを見て何をどう思ったのか釣り竿を作っていた。
「なにしてるの・・・」
「え、いや・・・なんかできそうだったから」
気が付いたティナが呆れたように言うのを見て流石に恥ずかしくなったのかルナはささっとひっこめた。




